人工知能の終焉
第3回地上最強を決定する将棋大会が始まった。
過去二回連覇を果たしているTOKINが優勝候補の本命だ。
もちろん、人工知能。
本大会はプロ、アマチュア棋士を問わず、
コンピュータソフト・人工知能でも出場可能だ。
すでに人工知能が実用化され10年が経ち、
人間では太刀打ちできなくなっていた。
だが、今年は様相が変わるかもしれない。
ルールが変わったからだ。
「人工知能は速度が勝っているだけで、人間には思考で劣る」
との批判に応えてだった。
その結果、人の持ち時間をこれまでの100倍にしたのだ。
そのルールで対戦してみると、人が勝てるようになった。
しかし、試合が長期化するため、体力の消耗は著しく、
肉体的・精神的に回復するのに半月かかる者もいた。
そのためか、ルール変更後の大会の優勝候補はTOKINであり続けた。
大会が始まり、一か月半が経ち、ようやく決勝戦をむかえた。
TOKINは順調に勝利を重ね、決勝進出を決めた。
一方の相手は、日本人棋士に勝った将金。
もちろん日本人ではない。
中国だ。
決勝は1回戦のみ、人に配慮されてのことだった。
序盤、TOKINが優勢に進めた。
中盤、将金が巻き返す。
終盤、もつれにもつれた。
そして・・・
「マイリマシタ・・・」
TOKINは投了したのだった。
世界一を決めた中国関係者は喜びを噛み締めた。
そして、翌日と会見が開かれた。
「この大会は歴史の大いなる転換点となるでしょう。
それは、人工知能の終焉です」
そして、中国関係者は恐るべきことを発表した。
「将金は人工知能ではありません」
会場に集まった記者らは驚きの声を上げた。
TOKINと同様、どう見ても将金も人工知能のようだが。
「TOKINは人工知能を利用した将棋アプリですが、
将金は違います。
人工知能自体が将棋に興味を持って作ったアプリです。
つまり、人工知能いやAI工知能というべきものです」
中国関係者の顔は真剣だった。
悲壮感さえ漂っているようだ。
だが記者らはその意味を理解できなかった。
翌日の日本の新聞で、
『孫工知能、将金の勝利』との見出しを飾った。
人が作った人工知能が作ったモノ、
人から見ると孫と言いたいようだ。
でも、日本の新聞は将金の勝利の真の意味が全く分かっていなかった。
人工知能自身が高度なアプリを作ることができる・・・
つまり、もう人工知能の開発自体も人間がする必要がなくなるということだ。
すでに人は、自動運転・宅配やロボットに仕事を奪われ、
さらに人工知能開発まで仕事を奪われるのだ。
だが、人工知能の発達により、失業率90%まで養えると算出されていた。
そして、数十年が経った。
人間は食事を与えれ、娯楽を与えられた。
かつて、孫工知能と揶揄したものに。
人類は、ペット、いや孫に介護されるだけの老人のように成り下がった。