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シューとヒューは、よく似た双子だ。
ふわふわした茶色の髪に、あどけない少年のようなまろやかな頬と、青年になりかけの健やかな体つきが「たまらん、かっこかわいい」らしい。
比べてみれば、シューは表情がくりくりと動く活発な子犬のようで、ヒューは物憂げな瞳をしたけだるい猫のようと、意外に印象は真逆なのだけど、外見の特徴がよく似ているせいで、二人が交互に話していると催眠術でもかけられているような不思議な気分になってしまう。
ふたりはそんな周囲の反応を面白がって、よくセンテンスごとに交互に話す。
ローズマリーは交互に話す二人を目で追いながら、手元の企画書にも目を通していた。
「ただ実際にそのような企画を通せば、一部の人気のある生徒に後輩が集中し、いざこざが起きる可能性は高いです」
「例えば、アラン会長ですね。制服のボタンは袖の飾りボタンを合わせても10個。明らかに足りなくなるでしょう」
「女生徒のリボンタイは、ひとつしかありません。これも足りなくなるでしょうし、そもそも男子学生が女生徒の胸のタイを欲しがるというのはいかがわしいのではないかという意見もありました」
「いかがわしいなんて……っ!そんな考えをする方のほうがいかがわしいのではなくって?」
自分の企画をいかがわしいと言われたローズマリーは、思わず言い返した。
けれどシューもヒューもローズマリーの言葉など聞こえないかのように、話を続ける。
「とはいえ、これまでは話しかけることもできなかった後輩が、最後のチャンスとして卒業式に憧れの先輩と交流をするという企画の根本は、捨て置くのは惜しいと思いました」
「そこで生徒会では、代替案を考えました。卒業生に負担がなく、かつ大量に用意することができ、後輩たちが憧れの先輩とささやかな交流を持つための道具として、授与が可能なもの」
「卒業式では、多くの花を飾ります。今年はこれをすべて薔薇にすることにしました」
「業者と相談したところ、色や花の大小にこだわらないのであれば、もともと予定していた花より多くの花を用意できるとのこと」
「もともと卒業式に飾られた花は、先生方や有志たちで自宅に持ち帰るのが例年のならいでしたので、学校としてもこの花を卒業生が後輩に手渡すという形で使用する許可も得られました」
「ローズマリー・スペンド。形式は変わります。ですが原案はあなたが考えたイベントです。……この計画を詰めて、代表として実行する気はありますか?」
ヒューに問われて、ローズマリーはぎゅっと企画書を握りしめた。
わたくしたちからすればそのまま実行するにはいたらない企画だ。
けれどローズマリーにとっては、思い入れがある企画だろう。
異世界の風習をとりこんだ新しい卒業イベントは、彼女の思い入れを示すように、丁寧に熱意たっぷりに描かれていた。
わたくしは祈るように、ローズマリーを見た。
実はこの修正案を提出したのは、わたくしだ。
本来ならばローズマリーの企画は、わたくしたち生徒会の指導を必要としない却下用件だった。
彼女は会場の手配や予算案など、決められた点はきちんとクリアした企画を提出していたし、もう4年生で生徒会の指導対象外なのだ。
けれどローズマリーの企画書に込められた熱意を感じていると、ただ「却下」の印をつけて返すのは嫌だった。
最大の問題点をクリアすれば、この企画はきっと卒業生・在校生ともに思い出深い企画になる。
ローズマリーはもう一度、わたくしたちが描いた修正案に目を落とした。
そして、涙のたまった目で、にこりと笑った。
「……お花を薔薇に統一することで余裕のでた予算で、イベントでは軽食やドリンクも提供してくださるんですね。きっと素敵な場になります。わたくしの拙い企画をこのように修正していただき、ありがとうございます。力不足かもしれませんが、全力でイベントの代表をつとめさせていただきます。よろしくご指導お願いします」
ローズマリー・スペンドが笑っている姿を、初めて見た。
やわらかく笑う彼女は、いつものとげとげしい雰囲気が一層されて、とても綺麗だった。
わたくしは彼女が修正案を受け入れてくれたことにほっとして、肩の力を抜いた。
「よろしくお願いするわ、ローズマリー様」
「期待している」
これまで沈黙を守っていたアランが締めのセリフを口にすると、ローズマリーは優雅な礼をして、会議室を後にした。