2
わたくしが生徒会用会議室に入ると、もう他の生徒会役員やイベント企画者はそろっていた。
「女王様だ」
「氷の女王様がいらしたぞ」
イベント企画者たちは、わたくしを見て顔色を変えながらざわめく。
うーん。女王様じゃなくて、悪役令嬢なんだけどな。
異世界の物語や風物は、わたくしたちの親の世代からずっと流行していて、いまや流行というよりひとつの文化となりつつある。
わたくしが愛する悪役令嬢が登場する小説は、ここ数年いっきに広まったこともあって、読者のほとんどは女学生だ。
とはいえ、かなりの人気を誇るパターンなので、男子学生たちだって何冊かは読んだことがあるはずなのに、この縦ロールを見ても悪役令嬢だと気づかれないなんて、なぜかしらって毎回思う。
……まぁ予算折衝の場であまく見られないなら、女王様でもかまわないけどね。
わたくしは会議室の面々に会釈をし、副会長の席に着席した。
すると隣の席に座っている生徒会長のアランが、わたくしにちろりと意味ありげな笑みを向ける。
わたくしはそっと会議室の時計を見て、まだ指定の時間になっていないことを確かめると、会議をはじめるよう視線で促した。
アランは皮肉気な笑みを浮かべる。
まったく、なんだっていうのかしら。
確かにわたくしは最後に入室したけど、遅刻したわけでもないじゃない。
生徒会長のアランは、わたくしより2歳年上の17歳。
今年で卒業予定の最高学年生だ。
正式名称は、アラン・カイネンベルク・アントワール。
つまりこのアントワール地方一帯をおさめるアントワール伯爵のご令息だ。
すこしウェーブのかかった黒髪と、いつも自信ありげな笑みをうかべている唇が最高にセクシー、らしい。
アントワール伯爵は裕福ということもあり、女学生の人気はすさまじい。
わたくしとは初等部の生徒会の時からのつきあいで、女たらしなところがウザいけれど、まぁ仲の悪い兄のような存在だ。
けれど生徒会の仕事の関係もあってよく一緒にいるせいか、女学生に「婚約者がいらっしゃるのに、アラン様と親しくなさらないでください!」なんて苦情をよく受けていた。
仕事なんだけどなーと思いつつ、けっこうストレスになっていた女学生のクレームは、わたくしが悪役令嬢にイメージチェンジする契機のひとつだったりする。
悪役令嬢スタイルをとるようになってから、この手の苦情はめっきり減った。
今では、1か月に1件あるかないかってところ。
それだけでも、この悪役令嬢リスペクト計画は成功していると思う。
「では、来月のイベントについて、生徒会からの決定を述べる」
アランは「生徒会長」らしい厳しい表情をつくると、イベント企画者たちひとりひとりの顔を見渡しながら宣言する。
するとイベント企画者たちも一瞬で静かになり、緊張した面持ちでアランの言葉を待つ。
「では最初に。三月の茶会イベントの企画だが……」