私の選んだ幸せ
なんたゃって騎士道物語
カルボトミヤ王国のその象徴たるカルボトミヤ城は、その全てを隣国のベルストリア王国により炎に焼かれ、その半分をまた別の隣国、スクリアス王国によって壊されていた。
要するに、カルボトミヤ王国はベルストリア王国とスクリアス王国の同盟軍によって滅ぼされてしまったのである。
四方を山と川に囲まれた自然要塞の”王都カルボトミヤ”が、わずか1日で落とされてしまったのは、立て続けて起きた他の隣国との戦により疲弊したところを一気に攻められたからだろ。
平和を謳い、戦を避けるその姿勢は五つの隣国によく思われなかったということだったのだ。
そして今、一つの平和を謳う国は、この戦乱の世界で栄えるコト無く消えていくのであった。
月が最も高い位置にある深夜。
日の出と共に始まった戦は終戦へとなり、今や残党狩りだけとなった。
焼け落ちたカルボトミヤ城を南方に置く、カルボトミヤ領で最も高く深い山、“カルボトミヤ山”の山道を4人の人影が走る。
私の名前はヴォルム=クローム。
カルボトミヤ王国の魔導騎士をしている。
魔導騎士とは、魔術を扱う事のできる騎士か魔力を宿した特別な鎧、“魔騎装”を使う騎士の事を言い、私の場合はその両方になる。
今の私は、この戦に負けを覚悟したカルボトミヤ国王により、王の一人娘である、カルミヤ=ベルフォ=カルボトミヤ王女を安全で、平和で、幸せと思える所へ送り、守り通すという命を仰せつかっているのである。
だが、その為に用意した洗練された20人の兵からなる護送隊であったが、国が落ち、残党狩りが始まると、その数を徐々に減らし、今や三人、魔導騎士である私と、幼馴染みの天才魔術師のルミア=ピリアと、戦士ゼボルム=ゴートのみである。
残党狩りが始まったのが、夕刻。
それを考えると相手にかなりの手練の者がいるのだろう。
「ヴォルム……街の人々は大丈夫でしょうか……」
「姫……大丈夫ですわ。民の為必ず生き残り、カルボトミヤ王国を復興させましょう」
「ルミア……」
姫の不安そうな声に、ルミアがすかさず励ます。
「ヴォルム殿。この後どうなされます? このまま走っていても拉致があきませんぞ」
ゼボルムの言うとおりだと思う。
このままでは、また、すぐに敵に見つかってしまうだろ。
そう思ったその時だった。
「キャアァァァッハッハッハッ」
耳に付く独特な笑い声。この声の持ち主は、
「やっと追いついたぜ。お姫さんよぉ。そして、我がライバル、ヴォルム=クローム!!」
深紅の鎧を持つ、隣国ベルストリア王国の魔導騎士、バルロス=バズロ。
性格に問題が有るが、腕の立つ魔導騎士で、無論、魔法と魔騎装、両方を使う魔導騎士である。
残党狩りの指揮をしていた手練とはやつだったのか。
私はすかさず剣を抜き、戦闘態勢に入ろうとしたが、
「ヴォルム殿。貴殿は姫を連れ先にお逃げくだされ」
「そうよ。ここは私達でどうにかするから……ヴォルは先に逃げて、すぐに追い付くから」
ゼボルムとルミアが私の前に立ち、姫を連れ、逃げるように促してきた。
少し迷ったが、姫を危険にさらす訳にもいかないので二人の指示に従う事にした。
「おいおい、オレっち等も甘く見られたもんだなぁ〜おい。『すぐ追い付くから』かぁ……泣かせるねぇ。安心しろ、オレっちが代わりに追い付いてやるよ。しかもその後チャ〜ントみんな同じ場所で会わせてやる。お姫さんに関しては、大ちゅきなパパやクソみたいこの国の人達に会わせてやるよ。キョホッホホホ」
狂った様に笑うバルロス。
確かにバルロスの後ろにはベルストリアの兵とスクリアスの兵が多く控えており、たった二人では到底太刀打ちできそうに無い。
やはり私も戦うべきだ。
私がまた、剣を抜こうとした時、ルミアに怒鳴られた。
「早く姫を連れて逃げて!!! 王から命令を受けてるんでしょ。早く行けよ……バカ!!」
そうだ。
私は王の命を全うしなくては。
私は姫を抱き上げ、ルミア、ゼボルムを背に走り出した。
「おいおい、みっともねぇなぁ〜。それでもカルボトミヤ王国魔導騎士団副団長かよ。まっ、とりあえずお前ら二人を料理するとしよか。なぁあ? まぁゆっくり料理してやる時間がねぇが、悪く思うなよ」
ルミア達を残した場所からは、バルロスの不気味な笑い声がこだましていた。
「ヴォルム。なぜ逃げたのですか? ルミアが……ゼボルムが……」
一時間ほど走り、崖沿いの山道で姫を下ろと、姫から非難の言葉が私を責めた。
「ですが……姫……」
私だって戦いたかった。
だが……
「言い訳は要りません」
「姫さんの言う通りだぜ。ヴォルムさんよぉ。お前が逃げたおかげで、二人は天に召されちゃいました。あひゃひゃひゃひゃ」
「バルロス!!」
「そんな……ルミア……」
「うひょひょひょ。手下を失って悲しい悲しいお姫さんにプレゼントでぇす」
「手下でわありませんわ。大切な友人よ」
バルロスの無神経な言葉に怒る姫。
「はっ、そうかよ。まぁいい。ほらよ」
バルロスは姫のそんな言葉に気を悪くしたのかしかめた顔で、何かを姫に向けて投げた。
何なのかと身を構えると、それは、血まみれのペンダントだった。
それを姫が上手く受け取ると、直ぐに顔を青くした。
「わ、私が……渡し…た……ル、ルミアの……ペンダント……」
「タアァァヒャッヒャッヒャッヒャアァァ。なんか大切に持ってたからよぉ。持ってきてやったぜ。キョォホッホホホ。にしてもその魔術師なかなかだったぜぇ。兵の殆どを殺ったのは、そいつだしよぉ。オレっちに何発も魔法ブチ当ててくるしよぉ。おかげでここには、オレっち一人、ボロボロになって来るハメになっちまったよ。後、そいつの返り血……気持ち良かったぜぇェェエェッヘッヘッヘェェ」
貴様……ルミアを……
「ご立腹かい? ヴォルムさんよぉ。ならコレならどうよ。さいなら。お姫さん」
バルロスは、おもむろに手のひらを向け、雷撃。
その雷撃は姫の足元に落ちる。
巻き起こる爆音と爆煙。
姿無き姫。
奴が放ったのは、雷属性初級魔術、“ライトニング”だ。
「バルローーース!!!」
「ウゥゥヒョアッヒョアッヒョアッヒョアッハッハッハァァ。良いね。良いね良いねえぇぇ!!! その顔、その気持ち。キャアァァァッハッハッハッハァ。さぁやろう。さぁ殺し合おう」
バルロスは、その身に纏う深紅の鎧が一気に膨れ、3m程の赤い甲冑の巨人へとなった。
コレが魔騎装の力である。
「さっさとこいやぁ!!!」
バルロスの挑発。
今日ばかりは乗ってやるよ。
バルロス、貴様を殺してやるよ。
「やってやるよ!!」
私は剣を抜き、自分を守る鎧に魔力を込める。
すると、鎧から鼓動が感じられる。
その鼓動が、私の鼓動ど徐々に重なり始める。
重なると鎧は、私の肉となり、体となり、私を守る強力な鎧となり、そして大きくなってゆく。
気付けば私の目線は、3mの位置までになっている。
私は、今、甲冑の巨人となったのだ。
右手を見てみる。
そこには握られた剣があり、剣もまた、人の時のサイズでは無く、3mの巨人に似合ったサイズへと変わっていた。
「さぁさぁさぁさぁさぁさぁ!!! 始めましょう。白銀の騎士さんよぉ!!」
「あぁ。姫の仇。ルミアの仇。必ず取らせてもらうぞ。深紅の騎士よ!!」
私は、背後に崖が有るのは不利と考え、すかさずバルロスの右へとまわる。
だが、バルロスはそれを予想してたかの様に、自然な動作で剣を切り上げくる。
それを私は、左の盾で防ぎ、そのまま体を右方向にひねり、一回転をする。
そして、その勢いを利用してバルロスに斬りつける。
だが、当たったのは刃先1cmほど、大したダメージにはならない。
次に私は距離を取り、魔法を使う事にした。
バルロスも同じ様に魔法を使うのか何やら呪文をつぶやいている。
私は、剣先をバルロスに向ける。
そろそろ呪文が詠み終わる。
「「エクスプロージョン」」
唱えた魔法は、火属性上級魔法のエクスプロージョン。
剣先から放たれるのは、連続する爆発。
爆発は真っ直ぐバルロスに向かって行くが、奇しくも、バルロスが放つ魔法は、私と同じエクスプロージョン。
実力は互角。
ぶつかり合った双方の魔法は凄まじい爆発と共に相殺される。
「ちっ!!」
つい、舌打ちが出てしまう。
ふと、大量に残る爆煙の向こうに動く赤い影。
バルロスが既に動き始めている。
「判断遅くなぁぁぁ〜いぃぃ???」
爆煙の中から飛び抜け、斬りつけてくるバルロス。
それを、盾を捨て、剣で受ける。
絶え間なく人体の急所へと斬り込まれるバルロスの斬撃を、私は全て受けきる。
私も負けじと、ほんの僅かに現れる隙を見ては、バルロスと同じように人体の急所へと斬りつけてゆく。
だが、バルロスも私と同じように、それら全てを剣で受けきる。
そんな、互角の一進一退を私達は一時間ほど続けた。
だが、私達にとっての一時間は10分に満たない様に感じられる程だった。
剣と剣が顔の前でぶつかり合い膠着するする状態、要するにつばぜり合いの形になる。
「いいねえぇぇ。たまらないねえぇぇ。嬉しいねえぇぇ。たあぁぁぁのしいねえぇぇ」
「貴様を倒す!!」
「うひゃひゃひゃ。仲間を見捨てた奴の言葉かね。あの女。ルミアと言ったか? あいつの最期の言葉教えてやるよ。『ヴォルム……幸せでいて……』だってよぉ。キャハハハ」
ルミアの最期の言葉をおどけて言うバルロス。
貴様と言う奴はぁぁぁ!!
「よっぽどヴォルム殿の事が好きだっただろうな。オレっち涙が出ちゃうわ。ビョホホホ」
えっ……
「はっ、大きな隙、はあぁっけえぇぇん。ダメダメだぜ。朴念仁く〜ん。ナハハハ」
バルロスは、驚く私の顔を見てニヤリと笑い、私の左腕を奪って行った。
吹き出る鮮血。
すぐに、魔騎装により止血されたが、私は痛みにその場に膝をついてしまった。
そして、私の返り血を大量に浴びたバルロスはいうと、
「キャハハハアハッアハハハ。コレが我がライバルの血かぁ……いいねぇぇ。たまらない。芳醇だよ。濃厚だよ。イヤッハハハァァァ…………もっとくれ。もっと浴びさせてくれや」
狂ってる。
だが、今の私に、奴を倒す力があるのだろうか……
「だぁぁが、オレっちは我慢するよぉ。何故なら、あのルミアって女をゆっくり料理する時間が無かったからなぁ。アハヒャヒャヒャヒャ。ヴォルムく〜ん。君はゆっくり料理するよ? いい? まずはその目を潰すね。キャハッ」
バルロスは、そう言うと何のためらいも無く、鎧ごと私の左目だけを潰した。
「ぐおぉぉぉ!!」
「う〜〜……ん。いいねぇぇ。その反応。次は右目ねぇぇ」
ここまでか……ここまでなのか!!
私はここで終わってしまうのか!?
『凄いよヴォルム!! 魔法まで使えるなんて』
『そうですわ。ヴォルムはただの騎士で終わるような方では無いのですわ。魔導騎士に志願すべきですわ』
ふと思い出す懐かしき思い出。
この言葉はルミアと姫のものだ。
確か、騎士としてスランプに陥っていた時、二人が気晴らしにと魔法を教えてくれた時のものだ。
走馬灯なのだろうか……。
あの後、二人に励まされながら血のにじむような努力をしたなぁ。
もう少し……もう少し頑張ろう。
二人の……仇を取ろう。
「どうしたのかなぁ? 諦めちゃったのかなぁ? アハヒャヒャヒャヒャ」
ゲスが!!
お前は、二人に教わった初めての魔法で倒す。
「アイスニードル」
氷属性初級魔法。
それをバルロスの背中に当てる。
「ハァ? 今更その程度!? 笑わせるね。雑魚が!!!! 失望だよ! 幻滅だよ!」
ほとんどダメージは無い。
だが、喚くバルロスをしり目に何度も、何度もアイスニードルで奴の背中を攻撃する。
そう何度も。
「アイスニードル。アイスニードル。アイスニードル。アイスニードル。アイスニードル。アイスニードル。アイスニードル…」
短縮詠唱の上に高速詠唱、そして重複詠唱。
有らん限りの技術を使い、アイスニードルの呪文を唱える。
ふと、アイスニードルを覚えたての頃の事を思い出した。
とにかくアイスニードルを極めようと訓練した事を……
笑われながらも必死に訓練した事を……。
「ウザい。ウザいウザいウザいぃぃぃ!!! ウザいぞおぉ! ヴォルムゥゥゥ!!」
バルロスには気づいてないようだ。
「死ねや。ヴォォルムゥゥゥ!!!………ん!?」
ふっ勝った。
バルロスの背中は、大量のアイスニードルにより、凍りつき固まって居るのだ。
私は動きの止まったバルロスの体に、残った右手と体を目一杯使い剣を突き刺す。
「うがっ!!! あは……はは……はぁ……。さすがは“氷柱のヴォルム”だな。アイスニードルでオレっちを氷漬けにするとは……チリも積もればか……だはっ!!」
「貴様だけには、楽に死なせるわけにいかない。さらばだ、“血浴びのバルロス”……アイスニードル」
「姫……」
バルロスを葬った私は、姫が立っていた辺りを呆然と眺めていた。
地面はえぐれ、まるで崖崩れを起こしたようだった。
「姫……うわっ! うわぁぁぁ!!」
ふらふらと崩れた崖に近づくと、やはり脆くなっていたのか、私も崖のしたへと落ちていった。
見事に地面に叩きつけられた。
バルロスとの戦いで、だいぶ体にガタがきていたが、死にかけても副団長。
ここは何とか体を持ち上げる。
周りを見渡して見る。
視界の端に見覚えのある布地が見えた。
私は急いで駆け寄る。
そこには、もうお目にかかるコトなど無いと思った姫が横たわっていた。
体の上には土が被っている。
急いで掘り出す。
幸いにも、顔には土が被っておらず、息もある。
「よかった……生きてる……」
私は姫に息があることに安心をしたが、次の瞬間、私は崖を眺めている時以上に呆然するしかなかった。
「んっ……ううん……ん……えっ…あ、あの、誰ですか?」
私が、姫に息があることに安心した直後、姫の目が醒めたのだが、私は本当に呆然するしかなかった。
「えっ……?」
「す、すみません。あの私が誰か分かりますか? あっ、うう……」
頭が痛いと、頭を押さえる姫。
コレは記憶喪失と言うものだろうか……
「あなたは……」
私の名前は、カルミヤ=サルコンと言うらしい。
どうやら私は記憶喪失と言うものになったらしく、今、3mぐらいの巨人になり、私を抱き上げ走っている殿方、今は亡き王国の魔導騎士、ヴォルム=クロームさんに私は救われた。
ヴォルムさんは、しきりに『巻き込んで済まない』と謝ってくれた。
なんでも、追っ手との戦いに私を巻き込んでしまったと言うコトらしい。
私にしてみれば、目立った外傷も記憶喪失以外に見当たらないし、確かに昔の事が思い出せないのは、少し寂しいけれど、今、傷だらけの体に鞭打ってまで私を運んでくれるヴォルムさんには文句は言えない。
それに、思い出ならまた作ればいい。
「ヴォルムさん……傷、大丈夫ですか? 腕とか……」
「大丈夫だ……鍛えて有りますから」
「そ、そうですか……あの、どこに向かっているのですか?」
「とりあえず遠い所。戦の影響の無いところ……かな? カルミヤさん、一緒に行きませんか?」
えっ!?
でも、迷惑じゃ……
「迷惑ならいいです。でも……出来ることなら君と一緒に行きたい」
あれから10数年の年月がたった。
私達は、今なき祖国“カルボトミヤ王国”から幾つもの国をへた先にあったのどかな山あいの小さな村に行き着いた。
私はこの村で道場を開いて生計を立てている。
そして、魔術の知識のある我が妻、カルミヤもまた、魔術の教室を開いている。
妻、カルミヤの記憶は一向に戻る気配を見せない。
それでも、妻は、
『今が幸せなのだからそれでいい。過去を知りたいとは思うけど、今の幸せを失ってしまうかもしれないから思い出せなくてもいい』
と言ってくれた。
私は妻が幸せならそれでいい。
私が成さなければならないことは、まさにそれなのだから。
「あなたぁ〜。お弟子さんがもういらしてますよ」
「あぁ、わかった」
「ねぇパパ! 今日からお稽古一緒にやって言いよね」
「そうだな。お前も、今日で10歳たもんな。パパもお前ぐらいの年で始めたし……よし、稽古を付けてやろう」
「やったぁ!!」
みな、順風満帆にいっている。
私の選択は間違っていないと思う。
私は……
幸せだ。
あぁ〜〜〜!!!
穴が有ったら入りたい!!!
ジャンルにご都合主義があったら即選びたい。
実力アップを目指したいので、評価お願いします。
騎士道ってなんだぁ!!!