6話
数少ない女性会員の一人である彼女は女性の中では背が高く、黒く長い髪は切れ長な目によく似合っていた。その見た目にそぐわず、彼女の物言いはいつも鋭く、上級生に対してさえも遠慮がない。それでいて棋風は居飛車党で攻め将棋が好きというブレのなさである。変な話、かっこいいなと思うこともあるけれど、僕はそんな彼女が怖くて苦手だ。
「そうですか。ちなみに上には麻倉くんがいますよ」
「それマジですか?」
その名前に食い気味に反応してしまった。
「はい。女流棋士サロンを受けてます。今日は一日道場にいるそうですよ」
小野さんは彼の付き添いですか、と訊こうかと一瞬思ったけれど、どんな顔でどんなことを言われるか容易に想像できて黙ることにした。麻倉くんと小野さんがそこまで仲が良いとは思えなかった。
僕はそうですか、と一言答えてガラスケースに目を戻した。一刻も早く買い物を済ませて、会館から離れたくなった。
「どれを買うつもりですか?」
「唐木の白扇子か大渋扇の緑です」
彼女がそんなことを訊いてくるとは思っていなかったので、僕は少し驚いた。ひょっとして扇子に興味があるのだろうか。今度機会があったら訊いてみよう。
結局、唐木の白扇子を買うことにした。会計を済ませて、一応彼女に一言挨拶してから出ることにしよう。
「失礼します」
「道場には行かないんですか?」
むしろどうして行くと思ったのだろう。
「他に行く所があるので」
「そうですか。じゃあ行きますか」
「えっ」
どういう意味なのか分からなかった。
「小野さんも帰られるんですか?」
「はい。欲しい棋書がなかったので」
「麻倉くんはいいんですか?」
咄嗟に訊いてしまった。機嫌を損ねてしまったと思った。ところが、彼女は「はい。偶然会っただけなので」と答えるだけだった。僕はほっとしてほとんど無意識に「じゃあ行きますか」と言ってしまった。何が、じゃあなのか自分で分かっていない。




