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走れ飛脚  作者: 如月海月
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飛脚、歴史を動かす

 飛脚はようやく飯にありつけ、風呂に入り、そして安心して就寝することができた。京から備中まで驚くべき速さで駆けてきたのはとてつもない功績であり、更にこの風呂や飯の待遇もまたその功績に対する褒美のほんの序ノ口に過ぎない。

 現に、飛脚の就寝前になんと秀吉自らがが直々に駆けつけてきて、喜色満面に言ってくれた。

「ようやった! お主の忠実と功績には恐れ入るわ! すべてが終わったら更なる褒美を取らせようぞ!!」

 それから、付け加えたように秀吉は言った。

「このことはまだ誰にも口にしてはならんぞ」


 全ては飛脚の思った通り。道中、多少の恐怖があったとはいえ、それも結果的には良い方向に運ばれた。そう言えば山賊達の僧服は役に立たなかったとは言え、彼らに約束した手前殿に進言してみるべきだろうか。


 枕に埋まり、飛脚はこれからの褒美に胸を躍らせつつ、しかしあまりにも強大な疲労の波に呑まれ静かに眠りに落ちていった。



 それより少し前のこと。


 秀吉は、黒田官兵衛から光秀の謀反、更に信長の死を聞くと大いに取り乱し、泣いた。一介の足軽から将兵にまで取り上げてくれた信長の死は、それまでの秀吉を崩してしまうような、衝撃的なものであった。

 黒田官兵衛孝高は、少し困った。

「殿、お気を確かに。これより殿が天下人となるチャンスです」

 すると、秀吉は泣き止み官兵衛を見た。秀吉にしてみれば、勿論そんなことは分かっていた。しかし、泣かずにはいられなかったのだ。一泣きしてしまうと、秀吉はようやく切り替えた。

「分かっておる。わしはこれから毛利方と停戦を結び、すぐ明智を撃つ」

 備中にて高松城を攻めていた秀吉は、織田の援軍が来ることを前提に毛利方と戦っていた。この凶報が毛利方に知れれば、たちまち秀吉の軍勢は殺されてしまう。もちろん、京で信長を討った光秀は、信長と敵対していた毛利家にも使者を送っているだろう。

「明智の使者を捉える関を設けましょう」

 官兵衛の意見に、秀吉も賛成だった。それから秀吉は懸念を口にした。

「緘口令を敷かねばなるまい。この事実はあまりにも重大過ぎる。味方の口にさえ、漏らしてはならぬ」



 全ては驚くべき速さで駆けてきたあの飛脚のおかげである。明智の使者を封じ、毛利方に凶報が伝わる前に撤退し、織田諸将の誰よりも速く光秀を討つ。秀吉が光秀を討つことができれば、自然織田政権の後継者として秀吉が筆頭となる。これが、今開けた秀吉が天下へ躍り出る為の道であった。その為には情報の速さが何を置いても最重要事項であった。

 その点で、京から備中へ驚くべき速さで駆けてきたこの飛脚の功績は計り知れないものであった。であった……が。


 しかし……

「この事実は重大過ぎる。もし漏れたとしたら、天下への道が一気に塞がることになってしまいます」

 陣中にいるかもしれない間者スパイから毛利方へ漏れる可能性もあり、またそれによって味方の士気も下がるかもしれない。はたまた、今秀吉に従っている軍勢は毛利征伐の為の借り者であり、信長が死んだとあれば反旗を翻す者がいないとも限らない。

 そのため、この事実が漏れることは絶対に防がねばならなかった。


 それらを防止するための最良策を、軍師官兵衛は口にした。

「あの飛脚には、気の毒だが口封じの為死んでもらう他あるまい。何分戦場で幽閉施設があるわけでもございませぬので」

 それには、秀吉も頷いた。

「そうじゃな。人の口に戸は立てられぬ。ほんに気の毒ではあるが、あの飛脚は殺さざるを得まい。全ては信長様の仇打ちと天下泰平のためじゃ」


 自分が天下を盗るため、とは言わない。


羽柴秀吉の中国大返しは有名ですが、その余りの速さ故秀吉が本能寺の変の黒幕であると言う説すら存在します。そんな速さの源となった足の速い伝令が、歴史の影には居たのかもしれませんね

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