飛脚、陣中に着く
陣に辿り着いたのは夜中のことであった。
飛脚程度の人間が筑前にいきなり拝謁できる資格はない。飛脚は、筑前の腹心である黒田孝高の家臣へ申しつぎを頼んだ。
「火急でござる。黒田殿へお手紙をお渡ししたい」
門前で、兵はぼろぼろの飛脚を嘲笑って言った。
「既にご就眠でござる。明朝、来なされ」
しかし、飛脚は引けない。
「火急の用でござる!!!」
飛脚は二人の武者に追われもう既に一度死んだような心地であった。それに身心の疲労が加わり、多少の無礼により斬り捨てられようと構わぬと言う心持ちになっていた。
飛脚の勢いに押されたのか、兵は密書を黒田孝高の元へ届けに行った。
そののち、すぐさま孝高が血相を変えて飛んできて、飛脚は建物の中へ引っ張るようにして案内された。
誰も周りにいないことを確かめると、孝高は尋ねた。
「密書の件、真実か?」
本来は飛脚などに尋ねることもないのだろうが、あまりにもその内容が突飛に過ぎて、孝高は確認せずにはいられないらしい。飛脚は、残された力を振り絞って頷き、言った。
「織田上総守信長殿は、明智惟任光秀に京本能寺にて謀反に遭い、お亡くなりになられました。羽柴筑前守秀吉殿へ織田家よりの使いでございます」