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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

双眼ノ物語-フタツメモノガタリ-

作者: 如月 星月
掲載日:2014/04/01

こんにちは、

こんばんわ、

おはようございます、

Hallo,

Здpaвcтвyйтe.

お久しぶりの方はお久しぶりです、

初めての方は初めまして。


如月星月です。


えーと、今回書いたのは民話、昔話です。

昔とはいえそんなに昔じゃないですよ?ちょうどライフルが作られた後辺り。


はい。あらすじにもある通り、「異端者」という身分が大きく出てきます。

宗教革命あたりの勉強してるときに思い付いたので、それっぽさが入ってたらM.ルターさんごめんなさい。


姿勢を楽にして、寝っ転がって読んでください。


では、どうぞ。ごゆっくり。



――It is the legend.

An ancient tale of heresy.

She was not only

"embodiment of fear".

She was also,"beautiful".




遥か昔、或る国では「魔女狩り」と呼ばれる宗教行為があったと伝えられている。

天災や事件は、悪魔に魂を売った者の仕業、という考えに基づいて魔女を探りあてたようだが、その真意は財源の確保であった可能性が指摘されている。

上記に関連して、いま此を黙読している方々に誰にも語られることの無かった一つの昔話をしよう。

望まない英雄にさせられた少年と、世界から忌まれた少女。



たった二人の「異端者」の、



たった七日の物語。




「双眼ノ物語」

-フタツメモノガタリ-



《序。》



石が蹴り落とされた。

鹿は異音に気付き、耳を立てて警戒する。 目を凝らす。


筒が火を吹いた。

鹿は異物を体に捩じ込まれ、耳を垂れて卒倒する。目を瞑る。


少年は照準器から目を離す。哀れな本日の獲物を持って村に戻る。ライフルの薬莢を拾い上げ、ポケットに入れた。


山岳地帯の村、テオレスカ。

人口95人という小さな農村で、周囲の社会から孤立している。

住民の大半が猟や農業で生計を立てている。とはいえ、未だ資本主義が主流になっていないこの村では通貨など意味を為さなかったのだが。


少年がこの場所に帰っても、彼に居場所は一つしかない。というのは、少年に「左眼」が無いことに関係する。

彼には生まれた時点で左目がなく、村人はそれを気味悪がった。「悪魔の子だ」「災厄の前触れだ」と言って彼を虐げた。両親は処刑され、兄弟は村の地下に幽閉された。恐らくもう兄弟たちの命も果てているだろう。

そんな身寄りの無い少年を唯一受け入れたのが村長だった。


「人は皆不完全な部分がある、君だけが損を見るのは可哀想だ」


村長はそう言って少年を自らの養子とし、普通の人間と同じように育てた。

少年は昔から目がよかった。

正確に言えば、「右目は」優れていた。

目の前を駆け抜ける鹿に猟師より先に気付いたことから、村長は少年を猟師に育てようと思った。村の鍛冶に要請して一丁の旋条銃を作らせ、少年に与えた。その時も村人たちはひどく抵抗したようである。


たちまち少年はライフルの名手と認められた。村人は勿論その実力を怖れたわけだが、村長は「息子」の成長を大いに喜んだ。


少年はこの時、村長から名前を授かった。

『ハル・テオレスカ』

という名前は、現地の言葉では『天の子、ハル』という意味を持つ名前だった。


そして、現在に至る。

あの日、少年の運命が変わってしまった秋の日に…



《壹。》



ハルは山に籠るような生活になっていた。

16才になったハルを村長は成人と認め、鹿を捕っては村に売る生活を許していた。


ライフルの命中精度は日に日に向上し、今では数十メートル離れた距離の標的をレンズを介することなく撃ち抜くことができる。

「彼に撃てないものは神様と村長くらいじゃないか」

村人たちにそう言わしめた。


今日もライフルを背負って山の中を放浪した。標的を撃ち抜いてはそれを持ち帰るだけの仕事は楽ではなかったが、稼ぎはよかった。

「今日は2匹か…」

2匹捕って家に戻る。山の中にもう一つ家を作り、その中で暮らしている。

鹿の遺体を室に閉じ込め、家に入ろうとした。


ふと、扉の窓に反射した背後の景色を見た。


ハルは急いでライフルを持ち、それを追った。新たな獲物が背後を通ったようだった。

獲物のルートを予測し、岩場に身を潜める。ライフルを構え、照準器で影を追う。

かなりの速度で走り続けているのがわかる。しかも緩急をつけたりジャンプしたりしていることからかなり知能が発達していると思われた。


このまま留まっていれば取り逃がしてしまう。ライフルを背負い、必死に後を追う。


逃走劇は案外早く終わった。

逃走者は森の中で小さな崖から転落し、動けなくなっていた。


前に回って顔を確認した。

見知らぬ美しい少女だった。


「…近寄らないで…」

泣きそうな声が聞こえる。

頭を抱えて踞る彼女は、極度の震えに襲われていた。


「お願い…これ以上私を傷付けないで…」


「えっ…と、大丈夫、僕は敵対する意思はないから」


ハルがそう言った瞬間、少女はハルを睨み付けて叫んだ。


「あなたは人間でしょ!?」


少女は目に涙を浮かべてハルを睨み付けている。

立ち上がろうとしているが、足を怪我したのか思うように動けていない。


「ねぇ、大丈夫?」


ハルが一歩近寄った瞬間、奇声に近い声で少女は腕を振り下ろしながら


「来ないで!」


と叫んだ。

腕が振り下ろされた瞬間、彼女の指先が光って背後の岩壁の一部が崩落した。


「なっ…!?」


恐ろしい現象が発生した。


以前から「異端者」の話は村長から聞かされていた。


影の中を渡る者、

臥せる山を瞬間に越える者、

この世の物を破壊する者。


人間に出来ないことをできる者を「異端者」と呼ぶ。

恐らくいま目の前にいるのが、異端者である「破壊神」。


もはや誰の声も聞こえていなかった。風が止む。蝉が黙る。

ただ、彼女の涙に潤んだ空色の目から視線を外せなかった。


「…殺しに…来たの?」


「いや、違う」


ハルは少女に少しずつ近づく。

少女の顔が次第に引き攣り、恐怖に歪む。


「いや…やめて…お願い…」


声もか細くなっていく。

すぐ近くまで歩み寄った。

少女の「壊」字の眼帯を見て、親近感が湧いた。


「君も…片方目がないの?」


「えっ…?」


ハルは左目があるべき場所を見せた。眼窩があるのみで、そこに眼はない。


「なんで…?」


「生まれつき無いんだ。君もそう?」


「うん…」


俯く彼女に微笑みかけ、しゃがみこむ。彼女の前髪を除けてみる。驚異の念が感じられる片目でハルの顔を見つめている。


「じゃあ、君も僕もおんなじ」


「え…でも…私…」


「いいからいいから、大丈夫だよ、僕は君を傷つけたりしない」


表面的には穏やかに振る舞っていたが、内心ではとにかくこの女の子を安心させようと必死だった。慎重に言葉を選びつつ、進展の早いルートを選ぶ。


「君は…どこから?」


「ずっと森の中にいた…」


「じゃあ、あの村の人たちに…」


「…うん」


少女はもう泣く寸前の状態で応答している。まともに話せそうにないが、それでも会話を試みた。言葉は通じる。


「この辺りなら人は来ないと思うけど…誰か来てる時じゃなくてよかった」


「…どうして?」


「え?」


「どうして君は…私にそんなに優しくしてくれるの…?」


「それは…何て言うか」


ここで下手な事を言うわけにはいかない謎のプレッシャーに耐えつつ、とにかく平常を装って少女に笑いかけた。


「親近感が湧いたから…かな」


「親近感…?」


「だって君も僕も、片目がないでしょ?そういうことで」


「……」


沈黙して少し視線を逸らした時は底知れない恐怖に襲われたが、笑顔を崩さないことに全力を注いだ。

数秒間の静寂が、数十分に延長される。


「…君のことは…信頼して…いいの?」


…キタコレ。


「うん。勿論だよ」


「…ほんとのほんとに…私に危害は加えないの…?」


「うん。神様に誓って絶対君は傷つけない」


「……」


これで…どうだ…ッ!


少女の左目から堰を切ったように涙が溢れ出た。少女はハルに抱き付いて泣きじゃくった。


「ずっと…怖かったよぉ…」


その豹変振りにはハルも驚愕し、優しく少女の頭を撫でてあげることしか出来なかった。


「う、うん。大丈夫だよ、もう大丈夫…」


思わず何が大丈夫なのかもわからないまま大丈夫だよ、大丈夫だよと言い続けた。


「とりあえず…ここは危ないから、もうちょっと奥に行こうか」


「うんっ!」


幼さの残る笑顔で、少女はハルと並んで歩いた。

歩き出した直後、彼女は突然手を繋ぎたがったので勿論のこと快諾し、手を繋いで歩いた。




『弍。』




少女は横から見ていても素晴らしい美少女だった。

眼帯をしているが、それは特殊な形状をしていた。顔の下を通すように金属製のパイプがあり、それ一本だけで固定されている。瞳は大きく、綺麗なスカイブルーの色に輝いていた。


「そういえば、まだ名前言ってなかったね。僕はハル。ハル・テオレスカ」


「私はユカ・エスフェミナス」


やはりそうだ。村長から聞いた名前と同じだ。

古文書はユカについてこう語った。


『其ノ者、災ヒヨリ来ル者。全テヲ破壊シ、世界ヲ創リ直ス。容姿ハ可憐デアルガ、其ノ容姿モ「人心」ヲ破壊スル物ナリ』


確かにその可愛らしさには絶大な破壊力があるが、この子が世界を滅ぼす原因の一つに選ばれているというのは実感が湧かなかった。


そんなことを考えつつ二人は山の中を奥に進む。その間様々な情報を聞き出した。それによって信頼が揺らぐのではないか、とも考えたが、ユカがあまりにも甘えてくるために問題はなさそうだと判断した。


「あの村は…ちょっと怖いの」


「昔のことで?」


「うん」


ユカは少しずつ思い出す。


「最初に捕まった時は、身体中色んな所を傷つけられて…ずっと誰も助けてくれなくて…」


「そうか…」


悲惨なことになっていたのはもう目に見えていた。あの村の人たちは特に異端者たちを恐れていた。抵抗もできないほど幼いユカのような子が異端者と分かれば、すぐにでも攻撃に転じるだろう。


遥か昔、あの村をある一人の異端者が襲った。名前は無い。異端識別番号が「貳拾貳」とされていること以外、一切の情報がない。

緋い「何か」を駆らせ、この村の上空を通り過ぎた。その瞬間に村は勿論のこと周辺地域までも災害に見舞われ、さらにその「何か」は多数の若い衆を連れ去ってしまったという。

それ以来異端者はただちに葬り去るよう、との伝達がなされていた。


「ひどい話だよな」


被迫害経験のあるハルにはその苦しみが痛いほどわかった。


ハル自身も、半分異端者のようなものだった。その片目がない風貌と超人的な射撃技術から、「左半身は異端者だ」とよく揶揄されたものだった。

被差別の苦しみは十二分に理解していた。


「ハルとは、やっぱり仲良くなれそう」


ユカは先ほどから相変わらずずっとニコニコしている。

ハルにとってもユカにとっても、この出会いはかなり大きな心理的変革をもたらしていた。

間違いなく、互いに大切な存在だった。




『参。』




「おはよぉー、ハルぅー」

ユカの声に目が覚める。

目を開けると、必ずハルに覆い被さるようにユカがいる。

「あぁ…おはよー」

軽く伸びて、起き上がる。


こんな生活になってもう3日が経つ。周りにこれまで誰もいなかった二人にとってはこんな日々は初めてのことで、特にまだ幼いユカはその反動かハルにべったりになっていた。


妹、という感覚ではない。年下の友達、という感覚でもない。

特別な感覚があったが、まだハルにはよくわからなかった。


ノックの音がした。

反射的にユカは奥に隠れる。


「ハル、出てこい」


村人だが、回収者ではない。

護衛者の声だ。


「ユカ、裏手から逃げろ!」


「でも、ハルは?」


「僕は何とかするから。トンネルの奥で待ってて、必ず追い付くから」


「…絶対だよ」


ユカは裏手、戸棚に偽装した裏口からトンネルに入った。


おそるおそる扉を開けてみる。

屈強な男が二人、滑腔銃を背負って目の前にいた。


「貴様か、裏切者は」


「裏切者?何の話だ」


「とぼけんじゃねぇぞガキ」


「貴様と異端者が共に歩いている様子を目撃した村人がいる」


「異端者はどこだ、吐け!」


「知らねぇよ!そもそもそいつ、異端者と人間の区別がつくのか?だとしたらそいつも怪しい」


お得意の話題逸らしを使うも、無駄なようだった。


「今は貴様の話をしているんだ」


「さあ吐け!」


「知らねぇっつってんだろ、帰ってくれ」


扉を閉めようとしたが、阻まれた。家の中に入ってくる。

あっけなく押し退けられ、ハルの家の中を捜索し始める二人。戸棚に近づいていく。


「おい、やめろ…」


閂をした戸棚はいとも簡単に開かれた。

トンネルに繋がる穴が見えている。


「おいおい冗談じゃねぇぞ」


「ここから逃がしたって訳か…」


二人が言いながら中に入ろうとしている。

見ていられなくなった。

身体が自然に動いた。


蚊が蜘蛛の巣に捕らわれた。

蝿が小鳥に喰われた。


銃声が鳴り響いた。


一人が呻き声を上げて倒れる。


「…!!」


もう一人が驚異の表情を浮かべ、ハルを睨み付けた。

滑腔銃を構える。


「テメェ…!!」


ハルのライフルのボルトが引かれた。敵が撃つより早く滑腔銃を持った手を撃ち抜いた。

痛みに顔を歪め、その場に倒れ込む。


「絶対…ユカには指一本触れさせねぇ…」


自分でもコントロールを失っているのがわかった。


「絶対に…確実ニ…殺ス!!」


――――――


「ユカ!」


トンネルの奥で踞るユカを見つけ、駆け寄る。涙目になって震えている。昔を思い出したのだろうか。


「大丈夫か?動ける?」


「うっ…うん…」


「早く逃げよう…奴ら、きっとまだいるから」


「ハル…私…」


泣き出してしまったユカをただ抱き締め、頭を撫でた。


「大丈夫…大丈夫だから…僕が絶対…」




トンネルを出たのは夕方のことだった。


「じゃあユカ、お願い」


「うん」


ユカの右手が光り、ハルは十分離れる。

ユカが跪き、右手を上げる。


「えいっ」


右手が地面に触れた瞬間、辺りに放射状に地割れが発生。トンネル崩落は勿論のこと、カモフラージュとして他の地点もいくつか陥没させておいた。


「これでよしっと」


ユカが平然と戻ってくる。

ハルにくっつき、手を繋ぐ。


「じゃあ、行こうか」


「うんっ!」


夕暮れ時の崩れかけた森を駆け抜けた。

とにかく、村から遠い所へ。

薄暗い獣道を走っていく。


半月が輝く。

木々の隙間が少なくなる。

やがて月も身を隠す。




「彼らはどうした」

村長は先程の強い地震で倒壊しかけたハルの家を眺めて言う。

足元には、頭に穴を穿たれた二人の冷たい男が横たわる。


「おそらくもうかなり遠くへ逃げ出してしまったようですが…ご丁寧にルート隠滅のために森一帯を破壊して行きました…」


「うむ…聞いた通りの凶悪さだ」


村長は杖で男の傷口を突いた。


「それにしても…そうか…これをハルが…」


家の廃墟には、弾薬はもう残っていなかった。

推測するに、残弾数は50発ほどか。衛兵を全滅させるに十分足りる量だ。


「むやみに捜索班は出すな、私が捜す」


村長の腕輪が露になった。

蒼い宝石が月光を反射し、北を指している。


「来られる分だけ武装して来い」


「はい」




湖の畔。

来たこともない場所だ。

ユカは走り疲れてしまい、ハルに寄りかかって眠っている。


こんな逃走劇を、どれだけ続けられるだろうか。


ふと、心配が脳裏を掠める。


森から鳥の群れが飛び立つ。


ハルも眠りかけている。


ユカの目が開いた。


鹿が湖の畔を駆けていく。


烏が鳴き喚く。


そこでやっと気づいた。


「畜生…!!」


ライフルを持ち、ユカを背後に隠す。

照準器で敵の姿を探す。

夜陰に紛れた彼らはもはや発見できるものではなかった。


「隠密部隊…!?」


狙撃を諦め、ユカの手を引いて走りだそうとした。

ユカも状況を察し、必死でハルに追い付こうとした。


銃声が幾つも鳴っている。


足元に何発か着弾するが、命中はしない。だが走り続けていればいつか足をとられるだろう。後ろを向き、敵のレンズの反射を頼りに射撃する。3発撃って走り、3発撃ってはまた走った。

ユカはもう疲労困憊で、能力を使用する余裕はない。

全神経を集中させて撃ち続けたが、いくつ着弾したかわからない。おそらくまだ4人ほどしか撃破できていないだろう。


逃走劇は、すぐに終わった。


「動くなァ!!」


目の前に回り込んだのは、散弾銃を持った村長だった。

これまで見たこともないような、恐ろしい形相をしている。

血走った目で睨み付けるその視線は、ハルではなくユカに向けられている。


囲まれた状況で、ハルは初めて認識した。


程度が知れた奴らと思っていたが、組織になったら勝てなかった。

なぜ気づかないままここまで来てしまったんだ…?


無力さを嘆いた。

怒りが萎む。

投降しか道は残されていない。


ユカが連れ去られていく様を見ていることしかできない。

公開処刑に処するつもりなのだろう。

ハルも拘束され、ほどなく村へ連れ戻された。ライフルは村長の手元に渡った。




『肆。』




ユカは村の地下に幽閉された。

ハルは再び、村長の元に戻った。現在ライフルは持たされていない。あの夜から持ち物として奪われたのはライフルだけだ。


「おいハル…話がある」


村長は自室にハルを入れた。


「いいか…ハル…お前は誰を匿っていたかわかっているのか?」


「…ユカだ」


「そうだ。破壊神ユカ・エスフェミナスだ」


村長は古文書を手に取り、パラパラとめくっている。

イラついた時、彼はこの行動に走る。経験上よくわかっている。だが今日、ハルには事を悪化させまいとする心はなかった。


「ユカは…殺されるのか」


「そうだ。人畜無害であればいいが、そうではない様なのでな」


「あんたは人間としてユカを扱えないのか…?」


村長が鼻で笑った。


「何を言い出すのかねハル」


蔑むような口調で続ける。

窓の外を眺める。


「彼女は人間ではない。あくまで異端者だ…根本的に人間とは違う者…いや、『物』と言ったほうがいいかね?」


「…物だと…?」


「…そうだ」


ハルは村長を非難するような鋭い目で見た。


「ふざけんじゃねぇぞ…貴様…」


「…初めてだな、お前に貴様などと呼ばれるのは」


「うるせぇ…ユカは人間だ…能力は持ってたって間違いなく人間だ!!」



「なぜ言う事が解らぬのだ!」


村長はいつもの大人しい表情を大きく崩し、激昂して机を殴った。


「あの娘は異端者なのだ、我々人間とは根本的に違う存在であり粛清すべき存在であると先ほどから申しているのだ!」


「違う!」


ハルは恐らく生まれて初めて村長の目を直視した。


「…確かにあんたらからすればユカは異端者かもしれない、でもだからってそれを殺すのが…それが正義だとでも本当に思ってるのか!?」


「黙れ青二才が!」


村長は激昂の表情を緩めると、少し嘲笑するかのようにハルを笑った。


「いや、少なくとも殺すのは私ではない」


「何…?」


「遠い先祖の代より受け継がれてきた言い伝えが、今こそ成就する刻なのだよ、少年」


村長は不気味な笑みを浮かべ暗記した文献を読み上げる。


「[左目無キ勇マシキ少年、全テニ於ヒテ最モ凶ナル右目無キ異端者ヲ其手ニヨリ葬ラム]」


つまり、ハルがユカを殺す、

ということだ。

村長はそれを、最凶の異端者ユカを、ハルに殺させようとしているのだ。


「君も彼女を憎むのだ、恐れるのだ。さすれば抵抗もなく葬れるであろう」


村長は下を向いて愕然とするハルを尻目に、部屋を去った。


「……どうして……?」


彼は一人、天を恨んだ。




ハルには「看守」が一人ついた。

ハルの部屋の中に立ち入れる人間はハル、村長、看守の三人に限定された。

看守は、シンと名乗った。


「おい、坊主」


「…何だよ」


「あんた、たった一人であの子を守って…逃がそうとしたんだって?」


「ああ、そうだよ」


ハルは虚空を眺めた。

先程の話のせいで上の空になっていた。


「俺さ…純粋に、あんたは凄いと思うぜ」


拍子抜けした。

罵倒されるかと思っていた。


「何…?」


「だってお前、村人全員敵に回す覚悟であの子を守ろうって思ったんだろ?男らしさの極みだと思うぜ」


「そ、そうか…?」


「そこでだ。お前のその度胸と男らしさに免じて、お前に協力してやりたいと思う」


「なっ…!?」


こいつが村人なのか?と一瞬疑った。

まさか、異端者を匿った男に協力する奴がいるとは。


「…何を条件にするつもりだ」


「条件…?なきゃダメか?」


「いや、どうせそういうことだろうと思ったから」


シンは笑った。


「あっはは、そうだよなぁ、仕方ないよな…人が信じられんことくらい」


少し考えている。

雀が巣を飛び立つ。


「じゃあ、俺の協力で脱出に成功したら、俺に外の世界を見せてくれよ」


「それ…お前も連れて逃げるってことか?」


「ああ。ずっと村に縛り付けられてたから、外を見てみたいとか思っちまうんだよ」


「…よし、わかった。じゃあ、どうする?」


「脱出ルートとシナリオはある程度固まってるんだ。こいつを見てくれ…」


一定の説明を受け、決行は今日の午後、処刑の時間帯に設定した。

一つだけ疑問点があった。


「なんであんたは…ユカを助けようとしてくれるんだ?」


シンは照れくさそうに笑い、髪を掻いた。


「いや、な?その、さっきユカちゃんに会って来たんだが…あまりにも可愛いもんでさ…」


思わず少し笑ってしまった。

なるほど、納得がいく。




処刑が行われるその日、

ちょうどユカと出会って7日目のこと。


村人たちがその姿を見ようと村長宅の前に集結する。

ユカは十字架のような物の前に立たされている。抵抗できなくはないが、抵抗すればどうされるかわからない。

救い出せるのはハルだけ。


村長から、あのライフルが手渡される。


「皆の者!静粛に!」


ざわついた場を静まらせ、演説を始める。


「今宵!我ら人類は大きな一歩を踏み出す!初めて憎き異端者をこの世から葬り去るのだ!確かにまだ一人目ではあるが、この少年によって全ての異端者がこの世から消し去られる日は近い!」


歓声が上がる。

老若男女関わらず、目の前で一人死のうとしているのに、笑っている。

歪んだ笑顔だ。不気味だ。


「さあ、ハル・テオレスカ!憎き異端者の頭を穿ち、命を消し去るがよい!」


人々が固唾を飲んで見守る。

ライフルを構え、照準器にユカの頭を映す。

彼女は、微笑んでいた。

口が動くのが見えた。

声は出ていなかったが、何と言っているかはわかった。


「ハル、ありがとう、さよなら」


引き金には指をかけない。

構えたまま数分が経つ。

民衆がざわつき始める。


「何してるんだ!」


「さっさと殺せ!」


「葬り去れ!」


罵声を浴びながら、ハルは落ち着いていた。


向こうにシンが見える。

左手を軽く上げている。


あの手が降りたとき、作戦が始まる。計算通り、周囲の衛兵は一人も武装していない。

シンの左手が振り下ろされた。


「死ネェェェ!!」


発砲した先に居たのは、村長だった。

鉛の銃弾は村長の頭蓋骨を砕き、脳を貫通した。その場に倒れる村長を見て、悲鳴が上がる。


ハルはユカを抱き抱えて舞台袖へ向かう。

ここからは地下牢獄を経由して脱出する。ユカの胸元には魔石が埋め込まれ、それのせいで能力を使用できない。

シンが手を振る。


「こっちだ!」


何が起きたかわからないユカは、ただハルに付き従って逃げることしかできなかった。


「この先だ…この先に出口を用意した。そこから逃げるぞ!」


「わかった!」


三人が地下を走り回る。

衛兵の声が聞こえた。

武装して戻ってきたようだ。


「奴らはこの中のことを熟知してる…とっとと出ねえと厳しい」


暗闇を曲がり続け、光が見えてきた。ところが次の瞬間、後ろの通路から銃声が鳴り響いた。


「シン!」


「クッ…畜生…ッ!!」


「動くな反逆者共!」


敵が迫る。

シンは足を撃たれた。走ることは出来ないだろう。


「ハル!ユカを連れてとっとと逃げろ!」


「お前も一緒に逃げるんじゃなかったのかよ!!」


銃弾が掠める。


「馬鹿野郎!もうそんな事言ってられねぇ!早く行け!」


ハルが戸惑っていると、血だらけの手で親指を立てて見せた。


「ハル…ユカのこと、ちゃんと幸せにしてやれよ!」


衛兵がシンを捕縛できる距離にいる。

シンも後ろを向いて射撃する。


「早く逃げろ!これは命令だ!」


「……シン…ありがとう…」


ライフルを使おうとも思ったが、今はとにかく逃げることに頭を切り替えた。


「…すまない」


シンは二人が光の中へ消えていくのを見ていた。

捕まり、現地処刑の銃口が頭に捩じ込まれても、笑顔だった。


「達者でな…二人とも…」


シンの頭を銃弾が貫いた。




『終。』




ハルはもう何が正義か、わからなくなっていた。


「僕は…これでよかったのかな」


ライフルを眺める。これで一体何人を苦しみの中に突き落としたか。


「僕は…戻るべきなのかな…」


「戻ったら…殺されちゃうんでしょ?異端者を殺さずに逃がしたからって…」


ハルは俯き、目を閉じた。


「あの村は君も、私も殺そうとしてるんだよ?君がこの世界からいなくなっちゃうなんて…」


ユカの左目に、何かが光った。


「…私…もう耐えられないよ…」


「ユカ…」


ユカは涙を拭い、いつも通りの穏やかな笑みを浮かべた。


「これからも一緒にいよう?」


ユカの愛らしい顔が、朝日に照らされた。


「…一緒にいて、ハル」


ハルは少し黙ったが、ユカの目を見て笑った。


「…あいつらが来る前に、さ、早く逃げよう!」


ユカは満面の笑みで頷く。


「…うんっ!」


朝日が昇る山の方へ、二人は走り去った。二人の手は、しっかりと繋がれていた。


二人の行方を知る者は、

誰もいない。



-ヲワリ-




さて、と。


いかがでしたでしょうか。


ユカちゃんは自分としてもお気に入りキャラの一人でして。


とある動画サイトの静画のところにイメージ画像を公表してます。ぜひ見ていって下され。


さて、多分次のができるまでちょいと時間かかると思いますが、活動は終わりませんので。これからもよろしくお願い申し上げます。


では、また。

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