元人間の魔物+主様+聖女様
「私だって! 私だって彼を癒せます」
「だーめ、能力的には十分でも、
あなたが光の力を使ったら、蒸発させちゃうわ」
聖女様とご主人様がやっている訓練、
今のところは聖女様がご主人様の回復担当、
ご主人様が自分の回復担当、で、ローテーションで回している。
そうじゃないと、魔を祓うための聖女様の力はだいぶ強くて、苦しすぎて暴れそうになるのだ。
「じゃあ私は何ができるんですか!」
「あなたは私の回復、私が彼の回復、今までそれで回ってたでしょう」
……困ったな。
『こっちに振られても困ります』と意思表示を記載した石板に、下線を引きもう一度見せる。
一体どうしたらいいんだ。
「あぁ、でも、二人きりになってみたいなら、
そうね。明日は退魔師の会合があって遅くなるから、二人で過ごせるわよ」
ご主人様は曲がりなりにも退魔師の中の中堅。
会合に呼ばれることがあるのだ。
「ねぇ、何かやりたいことある?」
『予備のチョークを買っておきたい』
最近……聖女様が来てから、主張したいことが若干増えたのだ。
大体聖女様を止める目的で。
「なるほどぉ、私はロッドを強化したいし、
萬屋さんに行こうか」
ルートを決めて、手をつなぐ。
今は自己主張ができないのをいいことに、
聖女様は「デートみたい」と言う。
今だけは魔物化により『兄』というポジションを放棄したことを後悔した。
賑やかな街並みで、それでも警戒は解かない。
最初に自分が襲われたのはこのエリアだし、
聖女様には今の調子で少しだけ安心していてほしい。
それらしい気配は跳ね除けた。
萬屋では『問診票』を書かされる。
いつもの、でもいいのだが、少しでも自分にあったものを選んでもらうため、だという。
「魔物くんにはいつものストックと一緒に、
『セーフワードを書く用』のチョークもどうぞ。
ええと、すぐにというわけじゃないの。
ほんとうにご主人様や聖女様を止めたい時には、あったほうがいいんじゃないか、と思ってね。
それで、聖女様は……今回は純粋な補強や強化でなくて、疲れている光の石を、森の石に変えておいたわ。魔物くんに直接使えるかは置いておいて、ご主人様を回復するときにはこっちのほうが向いている……はず」
萬屋の主人は慣れた手つきで商品と杖を渡す。
「セーフワード?」
「そう。
本当にだめな時に使う、お互いに決めた言葉。
ご主人様と三人で決めればいいんじゃないかな」
ついでにポイントも貯まったから、と、
角砂糖セットまでもらって帰路についた。
セーフワードは『お前らいい加減にしろ』にした。
わかりやすくていいんじゃないか。
「それじゃあ、改めて回復のローテーションを回しましょうか」
「はい!!」
『よろしく頼む』
彼女がロッドに力を込めると、
柔らかな光と森の香りがご主人様を包み込む。
ご主人様からは優しい呟きと共に馴染みのある気配が流れ込む。
澱が溜まりすぎた気管が、呼吸をしようとして、でもできなくて苦しくはあるけれども、
それでもそうやって試行することで気配が馴染むのだ。
後でお礼にお茶を入れよう、と、そう思った。




