8回目
部屋に十人目が入って二十分後、長身の男が乱暴に戸を閉めて中へ進む。
全員が視界に入る位置に立ち止まり「ザン・スーラだ」とだけ言う。
皆が顔を上げて続きを待ったが男は中々口を開かない。
代わりに一人ずつの顔を、時間をかけて確認する。姿勢は変わらず、目だけをそれぞれに焦点を合わせていく。
「……全員いるな」
ザンが大きく咳払いをする。
「君達は今日から星船の操縦者になるためにここで訓練をするわけだ。早くて一年か三年長ければ十年近くなる」
一息で言い終えると、浅く呼吸をしてまたすぐに続ける。
「星船について何か知っている者はいるか?」
十人は横目で周りの様子を伺うだけで、返事をするものはいない。
「いないか。いや、いたらまずいんだがな」
また一つ咳払いをした。
「いいか、ここで君達がする事、知る事の全ては部外者には一切伝えてはいけない。君達みたいな見習いの見習いは特に気をつけるように。代わりがいくらでもいるうちは遠慮なく罰せられるからな」
全員が息を呑む。
「だから君達が今、星船について何も知らないのも当然だ」
メガネの位置を直して全員を見回す。
「これから何年か掛けて君達は操縦士を目指す。操縦するのは星船。施設の名前にもついている位だ、名前は特に隠していないから君らも知っているだろう」
何人かが小さく頷いた。
「だが、それがどんなものかは知らない。自分達が集められて、乗せられるかもしれないものについて何もな。……あまりに知らなすぎてもここでの生活には困るだろうからな。簡単に星船とはどういったものかだけ今日は伝えて終わりにしよう」
ザンがポケットから小さな端末を取り出して右手だけで素早く操作する。
「本当は全員集まっているかを確認したら、ここでの君らの生活に関して説明する予定だったが……。とりあえず、三十分だけ確保した。この施設にいる者なら全員が知っている事くらいは伝えておこうか」
部屋にいる十人は終始不安そうな顔だったが、ザンはそんな事には構わず自分の作業を進めていった。




