3回目
「シズク」
女が不意に言った。
「何?」
「何って、名前よ。私の名前。あなたの名前は?」
不思議そうに、横のセイジの顔を見る。
目鼻立ちの整った綺麗な顔。まだ幼さも残るが、「かわいい」 よりも「きれい」 という方が良く似合う。
「あぁ、うん。セイジ」
いつまでもジッと見つめられるので、セイジは視線をずらした。
「そう。セイジ君、セイジさん。……セイジ」
シズクが確かめるように何度か繰り返す。
「セイジでいいかな」
「良いよ。好きに呼んでくれて」
「そうよね。貴重な同い年ってわけだし。私、初めてなの。自分と同じ歳の子と会うのは」
「……そういえば俺も初めてかな」
「そうでしょ? 私なんて一番歳の近い人でも五十は離れていたもの。だから、すごく新鮮な感じ」
シズクが嬉しそうに話す。
セイジは目の前に回りこんできた、シズクへの対応に苦慮していた。
「でも、機関に行ったら周りは全部同じ歳だって聞いたけど」
背もたれに体を押し付け、セイジが言う。
「うーん。私も良く分からないんだけどね。確かに、色々難しい説明の中にそんな事もあったんだけど……。やっぱり行ってみないと分からないもの」
難しそうな顔をして元の位置に戻ると、シズクは唸りながら首を傾げている。
「次は星船操縦士技術士育成機関、終点です」
再び機械的なアナウンスが流れると、徐々に電車が速度を落としていく。
体全体に感じる重みで久しぶりに電車が動いていた事を思い出した。
「そろそろだね」
シズクが真っ直ぐ前を見たまま言う。
「そうだね」
セイジも前を見たまま答える。




