16回目
「何が同盟国か、こんなものただの属国ではないか」
白髪で長身の青年が、必死に理性を保とうとしながらも怒鳴り散らす。
「教育は我々の都合が良いように制御され、自分達の言語すら奪われた。本来彼らの持っていた境界線はすべて消され、国も文化も失った。いや、奪われ消された。勝手に付けられた名で自分達の星を呼ばれ、そこに住む蛮族と扱われる。なによりも、それがとてつもなく歪である事に気づいていない」
矢継ぎ早に放たれる言葉の先には初老の男が立っていた。
「知る必要がない。だから教えない、知らなくても良い事を知れば必ず良からぬ事をしようとする者が出てくる。我々も最初から今のやり方だったわけではない。いくつもの星に対し同化策を講じ、そこから得た経験をもとに徐々に確立させていった。彼らに、今、これ以上の事を教える必要はないし、教えない必要があるのだ」
初老の男は、平坦な口調で応じた。
「何かに従う事こそが美徳であると教えられ、それを無意識に行う彼らが必要だと」
青年の白い顔は見る見る赤く染まっていった。
「そうだ。……君はもっと賢い男だと思っていたよ。残念だ」
間違いなく星船研究の一線にいた自分が、辺境へ左遷され素人の教育係をやらされている。その原因である忌まわしい記憶が蘇った。
額には汗が浮かび上がり呼吸の間隔も短く浅い。
「ふんっ」
大きく息を吐き、頭の中から昔の自分を追い出してから教室の中央へ進む。気味が悪いほど、床の感覚が無かったが、それでもかまわず前へと進む。
長く感じた、ほんの数秒の移動を終える。昨日と全く同じ位置から、不安げな視線を向けられた。
ザキは考えるよりも先に、大きな声を発する。
「力を示せ。こんな状況、人を人とも思わぬ今から脱したいのなら力を示せ」
教室の全員が驚いて、目を丸くしていた。ザキはそんな事には全く気にせずに続ける。
「星船に乗り敵を倒し、上へ行け。数多くある星の一人じゃなく、替えの利かない人間になれ」
十人は何を言っているのか分からず、ただ驚いていた、
「講義開始は一時間後に変更する」
ザンは搾り出すようにそう言うとすぐ教室を出ていった。




