15回目
入ってきたのは男。昨日、ここに居た十人のうちの一人だった。
真っ直ぐ、セイジ達とは対極の位置に腰を下ろす。
外見はネビルよりもセイジにずっと近い。ただ、触れてくれるなという空気を纏う彼に対してセイジは全く親近感は湧いてこない。
端末が耳障りなアラーム音を上げる。
画面には「講義 五分前」の文字が点滅していた。
既に教室に揃っていた十人は驚いて、一斉に端末を取り出すと様々な反応を見せる。
どのボタンを押せば鳴り止むのかと高音を出し続ける端末を睨みつけ操作する者、驚いてとにかく色んなボタンを押していく者、両手で包みこんで音が漏れないようにしている者。
「……どうしよう。ねぇ、ハンナ」
あと二分でザンが来る。時計を確認すると、焦ったネビルがすがる様な目でハンナを見る。
「……貸しなさい」
ハンナががむしゃらに自分の端末を操作して音を止めると、ひったくる様にネビルの手から端末を取った。
「ここ」
「え?」
ハンナがハッと驚いて振り返る。
「ここを押すんだよ。二回ね」
落ち着きのある声が、優しく急かす。それを理解して、ハンナはまたすぐに端末の操作をする。
「それから、ここを」
言い終わる前にハンナがボタンを押すと、教室は急に静かになった。
「……止まった。ありがとう」
「どういたしまして」
声の主は目鼻立ちの整った男で、肌の色は褐色。ネビルに近い容姿ではあったが、雰囲気は大分違った。
「それじゃあ」
男が軽く手を上げて振り返る。
「……ありがとう」
ネビルが背中に向けて言うと、男は口角を少しだけ上げて応えると、もと居た場所へ向かう。
教室には机も椅子も無い。皆が直接、床に座っている。そして不思議な事にそれぞれが自分の場所を決めていた。
セイジとシズクも講義十分前にはネビルやハンナと別れて、初日と同じ場所へ移動していた。対極に座っていた男も今は別の場所にいる。
それについて誰も不思議に思ってはいなかったが、時間どおりに入ってきたザンだけがそれに強い違和感を感じた。




