14回目
シズクが体全体を使って戸を開ける。中にいるのは二人だけで、昨日セイジ達よりも先にいたのと同じ男女だった。
「おはよう」
「……おはよう」
シズクにつられてセイジも挨拶をすると、廊下で見た男が伏し目がちに頭を下げる。
「おはよう。早いのね」
もう一人の女はわざわざ立ち上がって応える。気さくそうな人柄が伺える笑顔だった。
二人ともまつ毛が長く、彫の深い顔が印象的で、背はセイジより低くシズクより少し高い。髪色は僅かに茶の混じった黒で男は短く切り揃えられ、女は肩よりも少し下で毛先を揃えている。
「部屋にいても何もする事ないもの」
肩をすくめて女の隣に進み腰を下ろす。セイジはその物おじしない性格に驚かされながらすぐ近くに座った。
「私はハンナ」
女はまたニコリと笑うと少し首を傾けて見せる。
「シズクよ、よろしく」
「セイジです。よろしく」
「……ネビルです」
セイジの首より少し下を見てそれだけ言うと、またすぐに視線を床に移す。
「あまり慣れていないみたいなのよ。ほら、こんなに同じ年頃の人達と会う機会なんてないでしょ」
ネビルの顔が少し紅潮していたのをハンナが横目で確認する。
「そういえば、あなた達は遠くから来たのかしら」
異星人とまではいかないまでも色々と違う部分をハンナも感じていたのか、思い出した様に切り出した。
「うーん、遠くと言ったら遠くかしら」
シズクが視線を上に持っていく。
「それでも、ここまで電車を乗り継いで四時間もかかったわ。セイジはどれくらい?」
「四十五分くらいかな。すぐ近くなんだ、実家」
ハンナが驚いたようで「うわぁ」と声を漏らしていた。
「私達は何日掛ったか分からない位、船に揺られていたわよ。何度気持ち悪くなったか……」
「停泊していたのも含めて三十日だよ」
頭を抱えるような仕草しているハンナにネビルが言う。
「そう、三十日よ。一か月よ」
鼻と鼻が付きそうな程、シズクに顔を寄せる。困り果てて「大変だったのね」と顔を動かさない様に答えた。
「えぇ本当に、すごく大変だったわ」
まだまだ足りない様子でハンナが話を続けようとすると、後ろから戸が開く高い音が上がった。




