13回目
部屋を出てすぐに端末が機械音を上げる。ポケットから取り出すと、画面には『スケジュール更新』という文字が右から左に流れていた。
「一時間後に昨日の場所で講義だって」
シズクが端末を見たまま言う。
真っ白な廊下で映える、淡いオレンジ色の制服。たくさんの無機質の中に一点の有機物が混ざりこんだ様な、不思議な光景をセイジは短い間目を奪われた。
「結局昨日は何もしなかったけど良いのかな」
顔を上げたシズクは不安げだ。
「良いんじゃないのかな。短くても一年はここにいるって言ってたし」
ハッとしたセイジが、取り繕う様に指で端末を回してからポケットにしまった。
「たしかに、先生も言ってたね。……おっと」
真似をして端末を落としそうになったシズクが、慌てて両手で掴む。
「結構難しいね、これ」
シズクの「先生」という言葉を聞いてからセイジは考え込んでいた。どれだけの間ここにいるか分からないが、ザンからモノを教わっていくのかと考えると良い気はしない。出来る事ならなら、ノウやモウに代わって欲しかった。
「そういえば、ノウさんは何をしている人なのかな」
頭の中にノウが浮かび上がると同時に疑問がわいてきた
「あぁ、確かに。でもなんか先生っていう感じはしたかな」
シズクは小さく笑い「背は小さかったけどね」と付け加えた。
「他の星の人かな」
「そうね。それとザン先生やモウさんもそんな気がする」
ノウと違い二人はこの星でもおかしくはない容姿だった。確かに背の高さや目鼻立ちは珍しいものだったが、十分に有り得る範囲だ。しかし、二人の持っている雰囲気にはセイジもこれまで感じた事のないないものを感じていた。
「やっぱり、ここにいるのは皆、他の星の人なのかな」
「そうかもしれないね。きっとこれから宇宙に行くこともあるだろうし、色んな人に会えるかな」
「宇宙に行くなんて、特権階級なんて言われる人たちでも中々出来ないことだしね。きっとすごいよ」
二人は敢えてザンの言った、星船を使って人を殺す事や今が戦時中であるという事には触れずに、今後について話し合った。
互いにそれについて不自然さを感じていたが、口にはしなかった。口にすれば悲観的な話しか出てこないのは明らかだったし、それ以外にも気になっている事は山程あった。
「……おはよう」
二人より先に教室にいた褐色の男が、遠慮がちに挨拶をして横を通り抜ける。
「おはよう」
シズクが男の背中に向けて返す。
「……じゃあ私たちも行こうか」
二人は一人分の間隔を空けて教室へ向かった。




