1回目
「青いな、ちくしょう」
空は今日も慌しい。それに比べ地上はとても静かだった。自動車は等間隔、一定速度を守り、人は必ずレンガ調の赤い歩道の右側を歩く。車道は片側二車線、両側の歩道は一車線と同じ広さで境目には短い間隔で木々が植えられている。
歩道のすぐ横には幅広で、背の低い建物ばかりが並ぶので、日の光を遮ってくれるものは一つも無い。
その建物が、頭の上で轟音を上げて走る船の工場である事が、さらにセイジとっては面白く無い。
視界に収まらない程に並ぶ工場が急に途切れ、姿を現す開けた空間。そこから飛び立つ船の後姿へセイジは呟いていた。
日差しから逃げる様に地下鉄へ続く階段に駆け込む。すぐに体にまとわり付いていた熱気がスッと離れていった。
地上と同じく、全てが人工的で整った地下は人影が全く無い。改札の前に立つと流れる音声案内だけが無機質な構内へ響く。それも消えると残るのは、履きなれない革靴の足音だけになった。
「本当にこんな立派な駅がいるのかね」
駅は完全に無人で運営できるように作られている。駅に職員がいて何かの処理に「手」を必要とする駅は、セイジが生まれる前に無くなっていた。一体何の処理を人間がやるのか、若いセイジにはとても理解できない。
「えぇ、本当に」
誰もいないホームで電車を待つはずだった。だが、そこを女の少し高い声が通り抜けた。
「こんな駅を使う人なんて極々限られているでしょうに。一体お上は何を基準に計画を立てて大金を動かそうって決めているのかしら」
不意に掛けられた声の方へ目をやる。着慣れないスーツを着た若い女。普段からスーツを着ているかなんて分かりはしないが、そんな印象をセイジは受けた。長く真っ直ぐな黒髪は、辺りの過剰な光を淡く反射する。
「ねぇ」
軽く首を傾げると、女の髪が柔らかく揺れた。
「……そうだね」
不思議と自然に応対していた。そんな事を考えながら、セイジは前を向き直す。
「あなたも」
女は何かを探す様に、唸りながら真新しい鞄を右手でかき回す。
「あなたも星船機関に行くんでしょ?」




