とある令嬢の取り巻きを辞めることにした
「あ、この方嫌だわって思うとその方はいつの間にか消えてしまいますのよねぇ。なぜかしら」
ほぅ、と頬に手を充て心底不思議そうに零すご令嬢に周りの令嬢達が「まぁ」だの「心優しいジュディール様がそう思われる方なんですから余程の方なんでしょうね」などと同意するが『その消えた方は誰なんですの?』と聞くような野暮な令嬢はいない。
ここにいるのは伯爵家以上の家柄なので。ちゃんと社交をしていればそういう目に遭ったのが誰か大体わかるものだ。
「ああほら、先日もあの方、仮に子爵令嬢としますがどこのお茶会にもいらっしゃらないでしょう?今が頑張り時ですのに婚期を逃してもいいのかしら?ねぇ、皆様もそう思いません?」
やはり物憂げに溜め息を吐き周りから「下々の者にまで気を配ってくださるジュディール様はなんてお優しいのかしら」と褒めそやす。
茶番ね、と紅茶でほんのり喉を潤し姿勢を整える。美味しい茶菓子と紅茶分の働きはしませんとね。
「ジュディールお姉様がそれだけ心を砕いていらっしゃるのですからそのご令嬢もきっとどこかで幸せを掴むことでしょう。
ジュディールお姉様はお嫌と言いながらもお相手を気にかけてくださる寛大で慈悲深い御方。ジュディールお姉様の御心を知ればきっと感謝するでしょう」
顔を引きつらせていたご令嬢らがあからさまにホッとした顔になった。
他の令嬢達も「きっとそうですわ!ジュディール様ほどの寛大な御方はいませんもの!」と乗っかり、ジュディール様も「そうかしら」と言いながら満更でもない顔をしたところで次の話題へと移った。
「チェルシーさん」
お茶会がお開きとなり馬車待ちをしているとジュディール様に声をかけられた。
格下で年下ですけど『さん』づけって…と思いつつもひた隠しにして振り向くとやや不満そうな顔をしているのを見て直ぐ様取り巻き仕様を発動した。
動揺したように眉尻を下げはしたなくジュディール様に駆け寄る。実際は走らないけどね。
「ど、どうかしましたか?まさか、わたくし何か粗相をしてしまったでしょうか?」
オロオロと縋るように見上げれば一瞬だけ機嫌が戻ったがすぐに不満を露わにして溜め息をついた。
「あなたは伯爵家の娘ですものね。高位貴族のようにできないのはわかっていますが、もう少し周りを見たほうがよろしくてよ」
周り?はて?という顔をすれば眉を少し寄せたジュディール様が「ファインバード伯爵家との縁談を見直させたほうがいいかしら?」と明らかに越権行為を口にする彼女にうわ、と思いながらもわざとらしく震えあがり涙を貯めながら「そ、それだけはお許しを!」と追い縋った。
「やっと結べた縁談なのです!彼を失えばわたくしは一生独り身で終わってしまいます!」
何か粗相をしたのなら謝ります!ですからどうかこの不肖なわたくしめにご教示ください!
と、深々と頭を下げれば仕方ないわね、と言いながらご機嫌斜めの理由を教えてくださった。
「それがジュディール様よりも数分間わたしが皆さんから注目を集めたからそれが気に食わなかったんですって」
そんな感じだろうなと予想はしていたものの大当たりしたところで喜びは一切ない。
「それに何度も言うけどあの方が嫌いだから消えたんじゃなくて元々家の事情や素行問題で問題視されてたのがたまたま重なっただけなのよ」
あれはジュディール様の悪癖と言っていいだろう。
ご自分が注目を浴びたいからかなんなのか知らないけど『わたくしが嫌な想いをすることで社交界の風通しを良くしてあげてるの。謂わば人助けってところかしら』みたいなことを言っては周りに『さすがはジュディール様です!』を要求してくる。
「先日なんか元王太子妃候補様のことを、『あの方とは昔からの付き合いですけど周りを鑑みない我儘なところがおありなのよね。
先方のお言葉を無碍にできないとはいえご自分のことくらいよくわかっているでしょうに。
きっと言いたくなかったんでしょうねぇ。王太子妃になりたかったがために。ご自分に欠陥があるだなんて家の恥ですもの。
はぁ。王家を騙せるわけないのに。イジューク王太子殿下がお可哀想だわ』なんて言ったのよ?!首がとぶ!首がとぶ!」
震えあがり両腕で抱き締めるように二の腕を擦ればわたしの侍女が同情するように目を伏せた。
その方とジュディール様はライバル関係で敵対派閥、ソリがまったく合わなかったから嫌いなのはわかるけど言葉がまずい。
王太子妃候補から外れたのは現代医学ではどうしようもない体の事情で辞退されたというのが真相だ。
それ以外はすべてにおいて頭ひとつ分抜けていて王太子殿下との関係も良好。とても仲睦まじく、残った王太子妃候補がかわいそう、と思えるくらいなのだ。
『イジューク王太子殿下には健康でもっと素晴らしい方とご成婚していただきたいわね』
なんてジュディール様は笑っていたけどその最初の篩で落ちたのはジュディール様だ。
この手の話が出る度に『お話はとても有難かったのですけどわたくしは跡継ぎですから』とあたかも自ら辞退し周りからとても惜しまれてるように見せているが、そこまででないことは茶会に参加している者なら大体知っている。
というかこのくらいの情報なら集めようと思えばできるのでジュディール様はわざとわたし達を試しているのだろう。
こちらとしてはたまったものではない。どちらについても地獄なのだから。とりあえず有耶無耶にして流したけどあれは本当に心臓に悪かった。
「お疲れ様でした」
「本当よ。婚家の派閥総領娘でなければ付き合いをご遠慮したい方だわ」
「ですが彼の方を『お姉様』とお呼びしておりませんでしたか?」
「ちゃんと許可は取ったわよ。いずれ寄子になるのですから親しみを込めて『お姉様』とお呼びしてもよろしいですか?ってね」
「媚びまくってる姿が目に浮かぶようですね」
「わたしも必死だったのよ。ジュディール様に気に入っていただければ社交界でもやりやすくなるし、婚家の立場もよくなるでしょう?わたしも感謝されて万々歳よ」
そう、これはいずれ嫁ぐ婚約者の家のため。わたしがよりよい生活を送るための投資なのだと頑張っていた。
―――なのに。
「チェルシー・チェンバー。お前との婚約を破棄する」
「はい?」
ここは学園にある中庭で天気のいい休み時間は誰もが芝生に座ったり散歩したりする憩いの場だった。
学生のチェルシーもジュディール様の派閥とは関係のない友人達と授業で行うお茶会について話していると、いきなり婚約者がやってきていきなり婚約破棄を宣言した。
彼の隣にはオドオドと不安そうに袖を掴んている子爵令嬢がいて『あら』と目を瞠る。
そう、子爵令嬢である。ジュディール様がぼやいていたあの子爵令嬢が目の前にいたのである。
「お前、パスティーヌの悪評を至るところでばら撒いてるそうだな!しかも悪評を広めるためにパスティーヌだけを茶会に招待しないと聞いた!
悪評も的外れなものばかりじゃないか!パスティーヌのどこが陰険なんだ!陰険なのは冤罪で貶めようとしているお前だろうが!」
「身に覚えがございません。名指しでもされたのですか?」
仕方なく立ち上がり応対すると周りが好奇の目で見てきて恥ずかしくなった。逃げたいところだけど釈明はさせてもらわないとならない。
「名前は……出ていないそうだ。だがパスティーヌとわかるように言っていたと言っている!」
子爵令嬢は仲介してもらわないと意見も言えないのかしら。ああ、許可を出してないから…いや挨拶と許可くらい貰おうよ。それくらいなら許すわよ?
その子爵令嬢に視線を移せば婚約者が見えない角度からこっちを不満そうに睨んでいる。さすが家族の婚約を壊しただけのことはあるわね。うちもあなたより上位の伯爵家なのだけど。
ジュディール様は迷惑な気性をお持ちだけど貴族の矜持が高い御方でもある。
貴族として政略結婚を理解しない不埒な輩は許せない方だ。
また子爵家に嫁ぐご令嬢…仮にA嬢とするが、こちらのほうが家格が高く、ジュディール様が認めるくらいには教養があった。
婚約者であったオットード子爵令息への対応も問題なく子爵夫妻も家族になれるのを楽しみにしていたと言う。
妹のパスティーヌだけが嫌がりA嬢を追い出そうとした。本来なら妹の計画などすぐに頓挫するのだが、子爵家全体でパスティーヌを猫可愛がりし甘やかしていたため最悪の結果を招いた。
兄令息とA嬢のお茶会やデートにパスティーヌが乱入し、邪魔をしてA嬢を蔑ろにしたのである。
その程度で怒るなんて狭量じゃない?と思うだろうが―――というか実際パスティーヌはそう思っていたようだが―――何事にも限度がある。
十回以上邪魔されれば遠回しに『この婚約嫌なんだな』と思われ、子爵家から請われた婚約となれば縋る理由もない。だって疵がついたところでA嬢にはお相手がいるので。
なのでサクッと『結婚後の展望が見えなくなったので解消させてください』と弁護士が書面を持って現れ手続きさせた。
ゴネれば『何度も交流を邪魔してきましたよね?おたくの娘さんを使わずともはっきり言ってくれればすぐに手を引きましたのに』と返され、パスティーヌ以外の家族が閉口した。
彼らは気づいていなかったのだ。
『未来のお義姉様と仲良くなりたいの!でも二人きりは不安だからお兄様がいる時にお話させて』という言葉を鵜呑みしていた。
それが一回や二回ならともかく十回以上は異常である。
周りの意見や調査をしてやっと客観視できた家族は絶望に打ちひしがれた。なんとか誤解を解こうと必死に追い縋ったが『ご縁がなかったということで』で締めくくられた。
A嬢と違って兄令息の結婚相手はなかなか見つからずパスティーヌのやらかしで更に減って現在は商家も視野に入れているそうだが、商人こそ金銭的な旨味がなければ結婚などしてくれないだろう。
子爵家のお荷物だと知られてしまったパスティーヌは兄令息が結婚するまで領地に閉じ込められるという噂だったが、学園の寮に閉じ込められたようだ。
ジュディール様は卒園されてるし彼女が参加するお茶会には絶対にパスティーヌ嬢を呼んではならないと情報共有しているので彼女の予言通り『いなくなっている』ということになる。
誰だって家同士の婚約に茶々を入れてくる令嬢と仲良くしたい者はいないだろう。だって自分の家のメンツを潰すことになるのだから。
自分の婚約にも響くでしょうに何を考えているのやら、というのが一般的な見解だ。
パスティーヌに関わったら面倒なことになると他の令嬢も理解していると思っていたのだけど、そう思わない者もいたようだ。
もしくはそれだけパスティーヌが嫌われてるのかもしれないけど。
まさか兄令息の元婚約者A嬢ではないわよね?と考えを巡らせていると「聞いているのか?!」と怒鳴られた。
いけないいけない。と向き直れば元婚約者が鼻息荒くこちらを睨みつけた。
まるでわたしが諸悪の根源のような目にその噂の火元はあなたの派閥の総領娘ですよと言ってやりたいが、それをすればそれこそジュディール様にどう伝わるかわからないし泥は下の者が被るのは当然の義務である。
最後くらいいいかと開きそうになった口を閉じた。
「パスティーヌに謝れ!それで婚約破棄は撤回しないが人として恥ずべきことをしたのだから最後くらい誠意を見せるべきだ!」
誠意云々を言うのならあなたこそ元婚約者のわたしの意見を聞いてくれないのかしら?
あなたが『婚約者になったのだから派閥の付き合いを覚えてくれ。主家はご令嬢だから僕よりも同性のキミのほうが適任だろう。キミが気に入られれば我が家の株も上がるというものだ』と言うから色々頑張ったのだけど?
手土産やら誕生日プレゼントやら本当は婚約者の家がやるべきことをわたしが手を回して喜んでいただけていたのだけど?
ジュディール様ってプレゼントの他にちょっとした気遣いが大好きだから陰でこっそり目立たぬようにやってたけどまさかまさか元婚約者が知らないなんてありませんよね?
その都度一応報告してましたよ?聞き流していたのでしょうけど。
目立つのはダメ。やり過ぎもダメ。遠い国にいるというサンタクロースという妖精のようにサプライズ感を強めにちょっとした洒落たものを贈る。
相手が侯爵令嬢だから下手なものは贈れないのでいつも頭を悩ませていた。
しかもこのサプライズ、失敗すると採点方式で暴露されるのだ。名前は出さないが大体わかるようにお茶会で大々的に漏らされるため、後程他のご令嬢達から嫌味と説教をチクチク刺されるので精神的疲労はとてつもない。
皆同じ事をしているけどやるならちゃんとしろ、ということなのだ。
ジュディール様に毎回気に入ってもらえるものを差し出すなんて無理に決まっている。
だけど婚家と自分のためにと頑張ってきたのに…。
パスティーヌ嬢のことだってジュディール様の矛先が必要以上に向かないよう何度も配慮したんですけどね?
明日は我が身気分でやってるので彼女のためにはやっていないけど、パスティーヌ嬢とは面識がありませんので当然ですよね?
ええ、今日が初対面です。噂は十分知ってましたけど。
「初対面の方に謝れと言われましても…まだご紹介もしていただいておりませんし」
ジュディール様直伝の頬に手を充てて心底困った表情をすると元婚約者は顔を真っ赤にして怒鳴った。
やっぱり煽ってるように見えるわよね。よかった。そう思ってるのがわたしだけじゃなくて。
「同じ学年なのだから知っているだろう?!」
「知っているのと挨拶する仲は別物です。そちらの方をお見かけしたことはありますが挨拶も紹介も受けてません。派閥やグループが違うのでお茶会でご一緒したこともありません。ご友人ならもっと早く紹介してほしかったですわ」
というか、あなた方はどういった関係なんですか?友人でよろしいの?と煽りポーズをすると元婚約者は「後悔しても知らないからな!」と怒って行ってしまった。
金魚のフンのようにくっついているパスティーヌ嬢は最後までわたしを睨んでいた。
ちなみにこの婚約に縋るつもりはこれっぽっちもない。だって政略結婚なので。
一応事業提携で組んだ婚約だけどジュディール様のお茶会で知り合えた家と仲良くなり、元婚約者の家にこだわらなくてもよくなったのでわりとどうでもよかったりする。
それでも両親には多少迷惑をかけたけど本当にジュディール様の相手がキツすぎたので婚約がなくなり半分くらいは婚約者に感謝しなくもない。
自分の理念に反することは許せないという御方だ。
味方だと思われてる間はいいが何がきっかけで敵認定されるかわからない。かなり気分屋なところがある。
パスティーヌ嬢の兄令息とA嬢の婚約は自派閥ではない家同士の話なのだ。
共通項があるとすればお二人共王太子妃候補の最初の篩で落ちたくらい。お知り合いではあるけど友達ではない。
そんな関係でA嬢の婚約を何度も話題に上げるのはちょっとおかしい。もっと言えば話題に出すことでA嬢を貶しているフシもある。ジュディール様はそんなつもりはないだろうけどそういうところがあるのだ。
ジュディール様はまるで自分の身に起こったかのように激昂されていたし。
感情豊かと言えばそうかもしれないがA嬢のために何かするとか親しくなるとかはなかったので高位貴族の考えることはよくわからないということにしている。
ちなみにわたしの中のジュディール様意味不明怒りトップは『使用人に名前を呼ばれたから』だ。
親しくない使用人に『ジュディールお嬢様』と言われて物凄く不愉快になったからクビにしたそうだ。意味がわからない。
それを何か重大なミスを犯したかのようにお茶会で話すものだから何を言えばいいのか本当にわからなかった。今も正解がわからない。
侯爵家だから使用人の数も多く滅多に話さない使用人もいるのかもしれないが「他の者達と同じようにお嬢様で統一してほしい」と言えばいいだけだと思う。
娘はジュディール様しかいないのだから。嫌だったとしてもクビにするほどではないだろう。
とりあえずジュディール様の前に出ないように裏方にするくらいでもよかったんじゃないだろうか。
クビにしたら次の仕事を斡旋してもらえなくなるのだ。名前を呼んだだけで生死がかかわるのはあまりにも不憫に思えてしまう。
「よく来てくれたわね、チェルシーさん」
婚約者が元婚約者になったところでジュディール様からお誘いがありこれが最後のお務めと思って応じた。
話題は勿論元婚約者のことで二人きりとあってそれはもう根掘り葉掘り聞かれた。
婚約者という繋がりがなくなったのだからもう少し遠回しに、柔らかく聞くべきだと思う。友人でもこんな聞き方はしないだろうという下世話な言い回しまでされた。
人の不幸を嬉々として話す御方だから仕方ないけどこの話も誰かわかるように広めるのかと思うと頭が痛くなる。
「あの二家は徹底的に追い詰めるべきだとお父様に進言したの。だからあなたはなんの心配もいらないわ」
「……ありがとうございます」
婚約解消の件も恥をかかされたので是非とも慰謝料をもぎ取りたかったのにその前にジュディール様が乱入し制裁を与えてしまったため何もできなかったのだ。ほとほと迷惑な人である。
わたしとの友情のための怒りなのだと言いたいところだけど、本当に思ってくれるなら慰謝料を取れるように手を回してくれるだろうから侯爵家の沽券を優先したのだろう。ほとんど無関係なのにね。
その後の調べで元婚約者はパスティーヌ嬢と幼馴染みだということが判明している。わたしの前に婚約の話が持ち上がったそうだがパスティーヌ嬢が拒否したそうだ。
内通者の話によると兄の婚約者が伯爵家なのでマウントを取れる侯爵家以上の家柄じゃないと嫌だとゴネたそうだ。
その時パスティーヌ嬢は十歳程だったのでそういう思考になるのはわからなくもないが貴族令嬢としては終わっている。
それがあって距離ができ、わたしと婚約したことで疎遠になったが兄令息の婚約が破談し寮に押し込められたことで元婚約者と急接近したそうだ。
元婚約者の予定ではわたしと婚約破棄した後パスティーヌ嬢と婚約するつもりだったらしい。
伯爵夫妻は勿論許さなかった。ジュディール様はもっと許さなかった。
なにせわたしは必要以上にジュディール様と仲良くなっていたのだ。寄子という強みを一切使えないと知った時さぞ驚いたことだろう。
主家のジュディール様が敵になってしまった元婚約者は廃嫡どころか除籍しても気が済まないと責め立てられたらしい。
更に元婚約者はジュディール様の中で今一番旬で大嫌いなパスティーヌ嬢の味方をしてしまっている。
これが致命傷と決定打になり追加制裁を受け元婚約者は除籍(但しジュディール様の目が届かない場所なら囲ってもよいと侯爵様が言っていたとか)。
元婚約者の家は数年王家主催以外の派閥に関わるお茶会やパーティーの出席を禁じられた。
そこまでされては何も言えず粛々とお礼を言うしかなかった。余計なお世話、という言葉が口から出てきそうになったが何事もなかったかのように飲み込んだ。
実はここに来る少し前に遅れてというかあまりにも遅すぎるタイミングでわたしの偉大さを知った元婚約者が再婚約を打診してきたが、旨味のない政略結婚をするほど酔狂ではないので丁重にお断りした。
彼との間に愛も誠実も殆ど育たなかったしジュディール様のお守りで相殺というかマイナスになっていたので。
それだけ激務だったのにまったく知らず自分はパスティーヌ嬢と楽しく浮気をしていたのだ。
それなのに『令嬢は気楽でいいよな。椅子に座ってお茶やお菓子を摘みながら実のないお喋りをしていればいいんだからな』と笑っていたのだ。
なんの前置きも説明もなく気軽にジュディール様の前に放り込んだ男を許しはしない。あと嫁ぐわたしと再婚約とか意味不明なので。うちにケンカ売ってんのか?と言ってやりたい。
パスティーヌ嬢は強制的に退学となり修道院に放り込まれたが脱走し兄令息のもとへ逃げたが門前払いをされ元婚約者の家にも行ったがそちらも門前払いをされた。その後の消息はわかっていない。
こちらは本当にジュディール様の予言通りになってしまったようだ。
「そうだわ。次の婚約はどうなっているの?もし困っているならわたくしの派閥からよさそうな者を見繕うけど…」
「ありがとうございます。ですが解消したばかりですし少しゆっくりしようかと」
ジュディール様と離れたいのでご遠慮いたします。
「そうなの?でも親御さんや周りが黙っていないんじゃなくて?妹が居残っては兄君も小姑がいるように見えて落ち着かないのでは?」
余計なお世話ですわ。
あと遠回しに兄の婚約者の話を聞かないでください。円満結婚する予定なので。会わせる予定もありません。セッティングもしません。なんで兄に会いたいんですか。兄の妻に相応しいか婚約者を見極めてあげる?いりませんいりません。そういうのは自派閥の人にしてあげてください。
「もし兄夫婦の邪魔になるようなら頃合いを見て文官か手に職をつけ自立しようかと思ってます」
「まぁ!」
結婚はちょっといいや、と思っているのは本当だ。いつかはしたいと思ってるけど当分はゆっくりしたい。
兄や両親にいつまでも迷惑をかけられないとも思っているので寮付きの職場があればと考えている。資格があれば何をするにも便利だしね。
自分なりにちゃんと答えたつもりだけどジュディール様からすると結婚が絶望的だからってそこまで卑下しなくても、とか、貴族が働くなんて、という嘲笑の『まぁ』だった。
別に構わない。だってこれからはジュディール様とのお付き合いは希薄になり関係も遠くなるのだから。
「あなたが寄子になってくれるのを楽しみにしていたのに残念だわ。けど派閥の関係がなくなってもわたくし達は友人よ。何かあれば頼ってちょうだいね」
「ありがとうございます。ジュディール様」
にこやかに、親身に言ってくれているが信用はしていない。これはよくある社交辞令だ。
口当たりがいい言葉ほど社交界では疑えと言われている。とくにジュディール様の言葉は鵜呑みしてはならない。
ここではジュディール様の本音でもこの本音がひっくり返るのが常だ。それが数時間後か明日か、一週間後かはわからないけど。
でもひっくり返って恐ろしい目に遭った令嬢を間近で見てきた。だから二重の意味で彼女を信じていない。
ジュディール様は悪い人ではない。多分。いろんな意味で恐ろしい人ではある。
だからわたしは距離をとる。己の身を守るために。いい思い出のままなら悪感情は持たれにくいだろうから。それがいつまでもつかもわからないけどとりあえず平和な世界に住みたい。
ジュディール様は時々お話するくらいで遠目から眺めるのが一番平和で安心できる距離なのだ。
なのであなたの取り巻きを辞めたいと思います。
読んでいただきありがとうございました。
途中送信になってたのを上げ直しました。確認して送信したんだけどなぁ。まさか途中でちぎれてたとは。
ご連絡くださりありがとうございました!
誤字脱字報告も感謝です!評価ブクマ等も感謝感謝です!




