逢いにきたよ
カンカンカンカンー。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
大きなお腹をさすりながら登るアパートの階段も辛くなってきた。
「こんにちは。もうすぐ?」
お隣の奥さんが、私のお腹を見ながら尋ねる。
「はい。予定日は2週間後です。」
「そう。暑くなってきたから大変でしょう?身体、気をつけてね。」
「ありがとうございます。」
部屋に戻り、買い物したものを片付けようとする。
夫の帰宅はいつも遅い。
狭い部屋で独り、出産準備を進めていた。
気分転換と思い、少し散歩に出ることにした。
日傘に小型扇風機と暑さ対策は万全にしても、記録的熱波の青空の下を臨月の妊婦が歩くのはなかなかに辛い。
信号待ちをしていたら、急に目の前が回り始め、ヤバい!と思い、ビルの陰に移動し、座り込んだ。
「ハァ…ハァ…」
息も上がり、立ち上がることもできない。
道行く人もチラリとこちらを見るが、急いでいるのか声をかけてくれる人もいない。
体調も悪くなり、腹痛を感じ始め、不安に押しつぶされそうになったその時
「だいじょうぶ?」
と、幼い子の声が背後から聞こえた。
「えっ?」と振り返ると、そこには明るい髪色のクルクルヘアーの可愛らしい男の子がいた。
その子はニコッと微笑みながら、
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」
と私の背中を優しくさすりながら、ずっと声をかけ続けてくれた。
すると不思議なことに息も整い、痛みも和らいでいった。
「ありがとう」と振り返ると、そこには誰もいなかった。
「うぅ…。あぁー!!!」
「お母さん、頑張って!もう少しよ!」
「もうすぐ赤ちゃんに逢えるから!」
「あぁー!あぁーーー!!!」
オギャー。オギャー!オギャー!!
「お母さん、よく頑張ったね。元気な男の子よ。」
「ありがとう。ありがとう!」
夫は私の横で子供のように泣き、助産師さんはその姿にやや呆れながらも微笑ましく、生まれたばかりの我が子を、私の腕の中に渡してくれた。
泣き叫ぶ我が子を見て、私は息を呑んだ。
目に映るその子は、柔らかい髪がくるりと巻き、陽の光を含んだ明るい髪色をしていた。
私の目に涙が滲み
「あの時はありがとう」
と、我が子を抱き寄せた。




