第3話 試験
「着いた! ここだよ!」
メイに引っ張られるようにして辿り着いた先で、フェイは思わず息を呑んだ。
門を備えた大きな屋敷。
その屋根の中心には、翼を模した紋章の旗が高く掲げられている。
「……これって、まさか――」
フェイの喉が鳴る。
「『天賦の翼』!?」
向かう途中、メイのローブの背に刻まれた翼の紋章を見た時から、薄々は勘づいていた。
だが、実際に目の前にすると、その存在感は圧倒的だった。
『天賦の翼』。
各国に存在する冒険者クランの中でも、トップクラスの実力と規模を誇る大手クランの一つ。
冒険者なら誰もが一度は憧れる、名門中の名門だ。
「そうだよ。あたし、冒険者になってCランクに上がった頃に、この本部にスカウトされたんだ」
メイは胸を張り、少し誇らしげに言う。
「今は、ここの冒険者パーティーの一員ってわけ!」
「……すごいな」
素直な感想が、フェイの口から漏れた。
「でもさ、『天賦の翼』って、高ランクの実力者ばっかりって聞くぞ」
フェイは、不安を隠しきれずに言う。
「大丈夫!」
メイは即答した。
「ちゃんと試験があって、合格すれば所属できるんだよ。あたしも、それで入ったんだから!」
「試験……?」
首を傾げるフェイに、メイはにっと笑う。
「どんな試験かは、見た方が早いよ。ほら、行こ!」
そのまま手を引かれ、フェイは『天賦の翼』の門をくぐった。
――――
職員から試験の許可を得て、案内された会場。
そこでフェイが目にしたのは、鈍く光る金属の巨体だった。
「……ゴーレムか」
ゴーレム。
特定の鉱石を核として構成されたモンスター。
自然発生で生まれる野生の個体もいれば、魔族の魔術や人間の技術によって作られる人工の個体も存在する。
今回用意されているのは、明らかに後者だった。
「試験内容は、あの試験用ゴーレムを倒すこと! 頑張って、フェイ!」
観客席から、メイが元気よく手を振る。
一方その頃。
会場の片隅では、一匹の黒猫が静かにフェイを見つめていた。
さらに別の場所――
水晶に映し出される映像を、ある人物が興味深そうに眺めている。
「メイから新人試験の申請が出たとは聞いていたが……」
低い声が、独り言のように響いた。
「フェイ・ベルナール、か。さて、どれほどの腕前か見せてもらうぞ」
「それでは――試験開始!」
審判が腕を振り下ろすと同時に、ゴーレムが起動する。
(相手はゴーレム……)
フェイは瞬時に思考を巡らせた。
(物理攻撃は効きにくい。なら、魔術で攻めるしかない!)
杖を片手に構え、詠唱を開始する。
「――魔力よ 集まりし 雷を造り出し 我が敵を撃ち抜く一撃となれ!
サンダーアロー!」
杖先に黄色の魔法陣が浮かび、一条の雷の矢が形を成す。
「初級魔術の詠唱か」
水晶を見つめる人物が呟く。
「だが、あのゴーレムは――」
次の瞬間、その目が見開かれた。
「『連発』!」
フェイが固有スキルを発動させた瞬間、全身に淡いオーラが纏わりつく。
「サンダーアロー!
サンダーアロー!
サンダーアロー!」
同じ魔術が、立て続けに放たれる。
一本だった雷の矢は、重なり合うように肥大化し、凶悪な光を放ち始めていた。
フェイが杖を突き出す。
次の瞬間――
雷は轟音と共にゴーレムへ叩き込まれ、激しい爆発が起こった。
煙が晴れる。
そこに立っていたはずのゴーレムは、ボディを黒く焦がし、完全に沈黙していた。
「……っ」
会場が、一瞬だけ静まり返る。
職員たちは互いに顔を見合わせ、言葉を失ったまま動かない。
遅れて、審判が我に返ったように駆け寄り、状態を確認する。
「ゴーレムの機能停止を確認!
よって――試験の合格を認めます!」
「やったぁ! やったね、フェイ! 合格だよ!!」
客席で、メイが飛び跳ねるように喜ぶ。
(……いつも通り、やっただけなんだけどな)
フェイは苦笑しながら、頬を掻いた。
水晶越しに観ていた人物は、静かに笑う。
「初級魔術の連続行使……いや、矢の数は増えていない」
「威力そのものが、異常なまでに引き上げられている……」
「あれが、彼の固有スキルか……」
「――フフッ」
「なかなか、面白いものが見られた」
こうして試験に合格したフェイ。
だが、彼自身がスキル『連発』の本当の価値を理解するのは――
まだ、これからだった。




