3話
あれから一ヶ月が経った。
私たちは順調に学生生活を送っていた。
特にレノ王子とは友人としてとても仲良くさせてもらっていた。
最近は待ち合わせをして一緒に登校するようになった。
レノ王子は安全上の観点から寮暮らしではなく、王都に家を作って生活しているらしい。
それも私の家のすぐ近くだ。
最初にそれを知った時はかなり驚いた。
ともかく、こうしたこともあって、毎朝一緒に登校することが出来るのだった。
レノ王子とは毎日一緒にいるが気が合うので、全く嫌なことが無い。
相性が良いと言うが、これがそういうことなのだろう。
噂好きの生徒たちが私たちのことを「お似合いのカップル」だと言っているが、私は満更でもない気分だった。
こうして私たちは学園生活を楽しく送っていた。
ただ、一つ悩みごとがあった。
マーク王子がずっと私の後をついて来るのだ。
いつどこにでも、私の後方でずっと私のことを監視してくる。
特に何かしてくることもないが、気持ちは悪い。
私は屋敷の外に出る。
そこにはすでにレノ王子が立っていた。
別にそこで待たなくていい、と何回も言っているのだが、「女性を迎えに上がるのは私の国ではマナーだ」と言って聞かないので、今では何も言っていない。
私はレノ王子に向かって挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう、シャーロット。今日も綺麗だ」
「あ、ありがとうございます……」
レノ王子は息をするように私を褒めてきた。
これもレノ王子からすれば「女性を褒めるのはマナー」だそうで毎日褒めてくれる。
しかし一ヶ月経った今でも私はまだ慣れず、照れてしまうのだった。
そして他愛の無い話をしながら私たちは学園へと向かう。
そして学園に着くと生徒たちが小さく騒ぎ始める。
「来たわ!」
「ああ、レノ王子、今日も素敵……!」
「シャーロット様もとてもお綺麗だわ……!」
「お似合いの二人ね……」
そんな声がそこら中から聞こえてくる。
「て、照れますね……」
「あはは、これは困った……」
私達は二人で見つめ合ってはにかみ合う。
その時、その空気を遮るように声が響いた。
「おい!」
声の方向を振り向く。
私が振り返ったその先。
そこには怒りを滲ませたマーク王子が私を睨んで立っているのだった。
***
「えっと、マーク王子、何でしょうか……」
「お前、どういうつもりだ」
マーク王子は怒りを滲ませながら私に詰め寄る。
「どういうつもり……ですか?」
私はマーク王子の質問の意図が分からなかった。
なので首を捻って不思議そうにしていると、マーク王子は一層怒っていた。
「何故俺の元に帰ってこないんだ!」
「……ええと?」
「お前の怒りが相当深いことは分かった。今までそれを理解していなかった俺の非も認めよう。だから、もう帰ってこい、な?」
どうしよう。
マーク王子が何を言っているのか、本当に分からない。
別にマーク王子に怒っていないし、そもそも帰ってくるって何のことだ?
「あの、マーク王子、本当に何を仰ってるか分からないんですけど……」
レノ王子も横から応援に入ってくれた。
「マーク王子、彼女は自分の意志で私と親しくしてくれています。そのような発言はやめていただきたい」
「お前には聞いてない!」
レノ王子が言葉を発した瞬間、マーク王子が激昂する。
「シャーロット、今なら許してやる! 俺の元に帰ってこい!」
マーク王子のその横暴な口ぶりに、私はだんだんと腹が立ってきた。
そして、マーク王子のことを突っぱねた。
「嫌です! そもそもあなたが婚約破棄したんですよね! 今さら戻るわけありません!」
「な……」
マーク王子は唖然とした表情になる。
そして私を怒りが篭った目で睨みつけた。
「そうか、俺がここまで言っているのに、お前はそれを突っぱねるんだな……」
マーク王子が拳を握りしめる。
様子が尋常ではない。
次の瞬間、私に向かって飛びかかってきた。
隣にいたレノ王子がそれを体を使って阻む。
マーク王子がレノ王子の顔を殴り飛ばした。
周囲の生徒から悲鳴があがった。
「い、今レノ王子を殴ったわ!」
「どうすればいいの!」
マーク王子は怒鳴る。
「ふざけるな! お前ら俺のことを馬鹿にしてやがって!」
マーク王子がもう一度レノ王子を殴ろうとする。
しかし今度はレノ王子はそれを受け止めた。
「これで正当防衛ですね」
「なっ……!」
そう言ったレノ王子はみるみるうちにマーク王子を取り押さえてしまった。
「離せっ……!」
「そうはいきませんね。私を殴ったあなたを今離したら、シャーロットにも同じことをするかもしれない」
「そいつは俺のことをコケにしたんだ! 許さないぞ!」
レノ王子は周囲の生徒に呼びかける。
「誰か! 教師の方を呼んできて下さい!」
生徒たちは慌てて教師を呼びに行った。
そしてすぐに教師が連れて来られる。
教師は取り押さえられているマーク王子を見て困惑している。
「今、マーク王子がシャーロット嬢に殴りかかろうとし、それを阻止しました。その際私も危害を加えられています。それはここにいる生徒全員が見ていました」
「ほ、本当ですか?」
教師は辺りを見渡す。
生徒たちは首を縦に振った。
教師はレノ王子の言い分は真実だと認めたようだ。
「わ、分かりました」
その後暴れているマーク王子は複数人に取り押さえられながら連れて行かれた。
「シャーロット、大丈夫だった?」
レノ王子が心配そうに私に問う。
「それはこちらの台詞です! なぜあんな危ないことをしたのですか!」
「いや、あのままではシャーロットが危なかったからさ」
「それでも、代わりに殴られるなんて危ないです! 血が出てるじゃないですか……!」
「シャーロットを守れた名誉の負傷さ」
レノ王子は口の中を切っているのか、口から血を垂らした。
私はそれを慌ててハンカチで拭う。
「ありがとう」
レノ王子はにっこりと笑う。
私は顔が赤くなった。
そうしてやり取りをしていると、さっきの教師が小走りでやって来た。
「レノ王子、シャーロット様。少しお時間よろしいでしょうか。ついてきて頂きたいのです」
「どうかしましたか?」
「はい、マーク王子なのですが、レノ王子を出せ! と一点張りで……」
「そうですか、わかりました。ですがシャーロットを連れて行くのは──」
レノ王子は私がついていくのを断ろうとした。
さっきみたいにマーク王子が暴力を働こうとすると危ないと思ったのだろう。
しかし、私はレノ王子の言葉に割り込む。
「いえ、構いません。私もついていきます」
「シャーロット……」
「レノ様、すみません。しかし、ここでしっかりと話しておきたいのです。私は婚約を戻したりしないと」
「……分かった。けど、危ないから出来るだけ私の側にいて欲しい」
「分かりました」
私はこくりと頷く。
そうして私達はマーク王子の元へと案内された。
マーク王子は学園のある一室で事情聴取を受けていた。
しかし私達が来るまでは何も喋らない、との一点張りで教師たちの手を焼かせていたようだ。
「……失礼します」
私達は扉を開けて中に入る。
椅子に座って教師たちから事情を聞かれていたマーク王子は、入ってきた私達をぎらりと睨みつけた。
「私達をお呼びのようですが、何でしょう?」
「……」
「何か言ってください」
レノ王子がそう言うとマーク王子は語りだした。
荒唐無稽な作り話を。
「俺には分かった。……シャーロット、お前はそいつに脅されているんだろう?」
「はっ?」
「少し冷静に考えてみて分かったよ。普通、この俺を見捨ててそいつなんかのところにいかないよな。ということは、シャーロット、お前は脅されていたんだ。今まで気づかずすまなかった」
「え、いや、あの……」
私達たちは何を言っているんだと呆れた。
そんな訳あるはずがないだろう。
マーク王子はレノ王子を睨みつける。
「おい! これは国際問題だぞ! 我が国の貴族を脅すなんて!」
いや、何を言っているんだ。
そもそもマーク王子がレノ王子を殴った時点で国際問題になっているが。
レノ王子は額に手を当て、呆れ気味にため息をついている。
「いや、もうすでに国際問題ですが……。何を言っているんですか?」
「黙れ! 俺はもう騙されない!」
「いえ、ですから私はシャーロットを脅してなどいません」
「ならばその証拠はあるのか!」
脅していない証明は出来ない。
なぜなら、私達が一緒にいる理由はごく個人的な感情によるものだからだ。
感情を証明する手段はない。
「無いだろう! ならば決闘だ!」
そして、マーク王子はまたとんでもないことを言い始めた。




