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3 十歳3

『……この国の成り立ちに関係することだからでしょうか』

 なんて、王子様にはそれっぽいことを言ったはものの、実際のところこの国の成り立ちについてリゼッタはある程度把握済みだ。何故ならゲーム内で説明があったし、なによりあのゲームはその世界設定を全く活かせていないことで有名な作品だったため、逆に詳しくなった。


 人間領域の国は七つあり、そのうちのひとつがリゼッタの住む国アイン。各国の初代国王は人命救助や復興支援に尽力した人たちから選ばれているため、血筋とか神話的ななにかとかは一切ない。そのうえ、国名だって古代エルフ語の一から七をくじ引きで割り振っただけで深い意味は一切ない(確か、アインは六)。全くない。変に意味を持たせて後の世で騒乱の種となっては困るからと、機械的に割り振られただけのもの。

 プレイヤーにしてみれば逆に意味深すぎて色んな考察が飛び交ったのだが、前文明とか魔王とか文明崩壊とか国の成り立ちとかには何ひとつ触れることなくストーリーは進み、これといって悲劇的な展開もなくゲームはさらっとエンディングを迎える。え? ねえ、意味深な世界設定必要だった? と前世の自分も思った記憶がふわっとあるくらいに。

 勿論この世界で読む歴史書の中にはそういう裏話的なものはなく、もっと重厚で意味深な表現がされている。初代国王達は救国の英雄たちで、各種族からも一目置かれていた特別な人たちで、国名もその英雄たちに所縁のあるものだとかなんとか。まあ、それっぽい正史がちゃんとある。


 リゼッタとしては事実がどちらかなんて重要だと思ってないし、公的に明らかにする必要性は欠片も感じていない。むしろ誰だって自分の生まれ育った国には誇りを持っていたいだろうから、意味深な方が都合がいいとも思っている。答え合わせしてみたいかもなぁという程度の好奇心はあるけれど、そこまでこだわりはない。もしも正史ともゲーム情報とも違うのなら多少は興味が出てくるかもしれないけれど、それはそれ。その時だ。

 むしろちゃんと把握しておいた方がいいのは国の成り立ちよりも世界崩壊に関わる情報の方だろう。リゼッタはアインの侯爵家の次女。国を安定させ、よりよい方向に発展させることは生まれ持った責務と言ってもいい。であればこそ、リスクを正しく把握することは極めて重要なことだ。魔王とはなにか。そもそもどうやって生まれたのか。それは一体しかいなかったのか。本当に消滅したのか。など。幼い頃に習った内容では死と疫病をばら撒いた存在とのことだったが、それでは現存する前文明の遺産が少ない理由にはならないので、恐らく習った内容は真実の全てではない。人間の死と建造物や書物の寿命は別物だ。混乱や悪意、疑心暗鬼が蔓延していた時代ということもあり大小様々な争いが勃発していたそうなので、破壊や喪失はその末路なのかもしれないが、果たして本当にそうなのだろうか。個人的には、魔王が破壊したと言われた方がしっくりくる。世界を崩壊できる力があるのなら、人間の文明を破壊するなんて簡単なことだろう。

 そういえば、争いが少なければ少ない程魔王が生まれる確率は減るとされているが、何故そう言われているのかも気になっている。

 魔獣が発生するのは人間の負の感情が要因とされているのであり得ない話ではないが、根拠らしい根拠が今のところ見つかっていないのでそこはきっちり調べて安心しておきたい。じゃないと転生者という自分の存在になにかしらの意味があるのではないかとふとした瞬間に気になってしまって、正直気が休まらないのだ。


 だって、ゲームでは使われなかった意味深な情報が実は転生者に向けた警告(または予言)だった、という展開の話もありそうじゃないですか。

 

 人の生死に関わらないラブストーリーが発生するだけなら別にいい。好きにして。でも、断罪された悪役令嬢が冤罪で不幸になった結果国が傾くとか、実はヒロインの性根が腐ってた影響で国で魔獣が大量発生するとか、追放された悪役令嬢の復讐劇で国が滅ぶとかは心底困る。

 リゼッタは国にも世界にも滅んでほしくない。平和で平穏な暮らしが一番大事。なので、心身の安寧のためにも、国や世界のためにも、前世にあった意味深な情報の真偽の程はなるべく早めに確認しておきたい。

 そのための、王宮図書館だ。

 

 

 

「お嬢様に相談したいことがあります」

 家庭教師の先生が真剣な顔でそう言われた。王宮図書館の許可証をいただいたんです、と雑談交じりにお話ししたら、食い気味のテンションで分かりやすい熱意を込めて。

 リゼッタの家庭教師を務めるのはシシル伯爵家の次女で、名前はネネカ。年齢は二十代前半のふんわりとした穏やかな女性だ。穏やかな見た目に反して学園卒業時の成績は実技も含めて上位五位に入るとても優秀な方。どんな質問にもなにかしらの返答をくれる。わかることは当然だが、わからないことがあっても、ここはわかるがここはわからないと丁寧に噛み砕いて包み隠さず伝えてくれる。調べられることは調べてくれるし、我が家の蔵書を一緒に調べたこともある。子どもだからと見縊ったり、曖昧に流したりするようなことはない。身分の関係上リゼッタの方が情報を持っている場面もあり、なおかつ秘匿した方がいい情報についてはちゃんとそう教えてくれる。

 侯爵家の令嬢の家庭教師に選ばれるだけの倫理観とマナーと引き際を備えた、冷静沈着でとても賢い人だ。

 と、思っていたので、ネネカが爛々と目を輝かせているのに割と普通にびっくりした。

「はい、なんでしょうか」

「私をお嬢様の専属侍女として雇っていただけませんでしょうか。生涯お嬢様にお仕えし、命の続く限り尽くすことをお約束します」

 なんか唐突にめちゃめちゃ重いこと言い出したな。

「あわよくば王宮図書館に同行させていただきたいです」

「直球すぎでは?」

 優秀さとか倫理観とかどこに置いてきちゃったんだろう。根回しの欠片もないな。

「王妃殿下の侍女見習いとして勉強させていただいた経験もありますので、経歴として不足はないかと」

「そもそも先生の成績なら王宮図書館への許可証を頂くのは難しくないのでは?」

「そうですね、学園をある一定以上の成績で卒業した者に与えられる権利のひとつで、一層までは自由に閲覧可能です」

 なるほど、そういう感じなんだ。話が読めてきた。

「王宮図書館は層で区切られているのですね」

「はい。物理的な入館許可証で入れるのは五層まで。以降は特殊な契約紋が必要になると噂で聞いています」

「何層まであるのですか?」

「非公開の情報となっています」

 それはそうか。機密情報の規模を気軽に明かすわけがない。

 でも、そこなら建国秘話のようなものがあってもおかしくないし、もしかしたら前文明の遺産などもあるかもしれない。やはり王宮図書館に通うのがリゼッタが知りたいことへの近道な気がする。

「私がどこまで許可されているのかはあとで確認します。ですが、六層以上の許可が出る保証はありませんよ?」

 例えリゼッタに許可が下りたとしても、それだけ厳密に管理されている場所なら同行者が許されない可能性もある。むしろその可能性の方が高い。となればネネカが侍女となったとしても、六層以上とやらにある情報を閲覧できるかどうかはかなり分の悪い賭けと言えるだろう。

 当然ネネカだってそれくらい想像の範囲内だろうに、しかし気にした素振りは一切なく。

「承知しております」

 むしろ熱意が増している。なんでだ。

「六層以上の書物に興味があるわけではないの?」

「ないと言えば嘘になりますが、私は情報の開示に制限や規制があることは当然だと考えています。国民全てが同等の情報を得ることが幸福とは一切思っていません。ですので、私が一定の閲覧権しか得られないことには納得しています。それが適切かの判断はできませんが」

「権限の有無については私も同意します」

「ですが、それはそれとして、私は私が知らないことがどれだけあるのかに興味があるのです」

 えー……? 知識が欲しいのではなということ? 判断難しいこと言うなぁ。

「つまり、……未知の規模を知りたい、ということですか」

「ええ、はい、その認識は私の感覚にとても近いものです」

「でも、結局知らないことは知らないままでしかないじゃないですか。先生は好奇心も知識欲も強そうですし、いずれ知らないことを知りたくなるのでは?」

「確かに否定はできません。ですが、私はそこまで命知らずな性格ではないので」

 いやいや待って待って。その発言、微妙に気になるんですけど。

「あの、先生? 六層以上って命を賭ける感じの場所なんですか?」

 ネネカはやんわりと微笑んで、そうですね、と少しばかり思案する様子を見せた。

「学園には王宮図書館に関する不穏な噂がいくつかありました。『過去に不審な死に方をした人がいる』『入ったまま出てこない人がいる』といったありがちなものから、『本に喰われる』『化け物の住処だ』と言った珍しいものもあります」

「『本に喰われる』はいくつか実態の想像ができますが、王家の管理下にある王宮図書館で化け物の住処などという噂がたつのは、なんというか、不思議ですね」

 本に喰われるというのは、本に夢中になりすぎた人がいるとか、もしかしたらそういう魔術が書かれた本を読んだ人の実話かもしれない。どちらにしろないと言い切ることはできない。

 不審死とか出てこない人というのは、入っちゃいけないとこに入ったためなにかしらの防衛機構に排除されたんだろうなと思うけど、化け物とはなんだ。というかこの世界に化け物という概念があることに驚いた。更にそれが国によって厳格に管理されているだろう施設に対する噂で出てくるというのがまた驚きだ。しかも、住処だという。

「先生は噂を調べたんですか?」

「調べるというほどのことはしていませんが、教師の何人かは妖精が図書館の管理に関わっているのではないかと言ってました。実際に見たことがあるという証言はありませんでしたが」

「なるほど、妖精という可能性があるのですね。――確かに、決まった姿かたちを持たない妖精なら不可思議な化け物に見えてもおかしくなさそうです」

 リゼッタが呟くように言うと、ネネカも頷いて ね? と小首を傾げた。

「面白い場所だと思いませんか?」

「面白そうだとは思いますが、先生の好奇心が満たされる保証はありませんよ」

「承知しております」

 なら、まあいいか。ネネカが優秀な人材であることは間違いないので、そういう侍女がいるのもありな気がする。どうせ決めるのはリゼッタではなく父と母だ。侍女なら母の管理範囲かな。家庭教師からの転職になるなら父だろうか。

「わかりました。お父様とお母様に話をしてみます」

 とりあえずふたりともに聞いておけば間違いないだろう。

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