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風の終わり  作者: 竹内すくね
一部
6/37

テスト・4



 ハイゴブリンの攻撃を避け、懐に飛び込んでいくプリカ。彼女の戦いを見ながら、トーマは我知らず拳を握り込んでいた。突風同盟の試験官、彼女なら何とかしてくれる筈だ、そう思いながら彼は息を呑む。

「……く、う」

「生きてる?」

 苦しそうに息を吐き、寝返りを打ったレオにトーマは声を掛けた。

「俺が、死ぬ事は有り得ん」

 レオは唸りながら上半身を起こして頭を振る。

「農民、俺の身に何が起こったのだ?」

「あの人が助けてくれたんだよ」

 トーマは、広間の中央で踊るようなステップを踏んでいるプリカを指差した。レオは彼女の動きに瞠目する。

「何だあの女の動きは? 信じられん、同じ人間とは思えんな」

 速い、と言うか速過ぎる。まるで風だ。ハイゴブリンは動きに付いていけず、棍棒をやたらめったら振り回すだけである。

「これで助かるね」

 レオは頷かなかった。確かにプリカは速い。しかし、それだけでハイゴブリンを倒せるのかと言えばそうではないのだ。彼は傍に置かれていた剣を掴み、それを杖の代わりにして立ち上がる。

「農民、貴様はまだ動けるか?」

「動ける、けど……」

 トーマはその続きを言いよどんだ。動けるが、動けたところで何をしようと言うのだ。彼は唾を飲み下し、レオの返答を待つ。

「このままでは全員死ぬぞ。俺たちも戦いに加わるのだ」

「そっ、そんな、どうして? だって、あの人に任せていれば平気じゃないか」

「俺としては気に入らんが、奴がモンスターを倒せるのなら座して傍観するのも良かったかもしれん。だが、あの女では無理だ」

 レオは片手で剣を振り、感触を確かめた。本調子とはいかないが、まだ戦える事を確認して、息を吐く。

「細過ぎる。速いが、小さな武器であのモンスターの肉を貫けるような力を持っているとは思えん。いずれは力尽きるだろうな」

「ちょっと待って、あの人は試験官なんだよ? 僕たちの出る幕はないと思うんだけど」

「俺の生き死にが掛かっている。ならば俺が出ないでどうすると言うのだ。農民、貴様とて同じだ。ここで動かなければ死ぬだけだぞ」

「でもっ」

 トーマは広間の中央へ視線を逃がした。そこには、彼の持ち物であるスコップが転がっている。

「……なるほど、貴様の武器は手元にないのか。良し、まずはそれを回収するぞ」

 そうではない。武器がないなら戦わなくても良いのではないか。トーマはそう、言おうとしていたのだ。

「ゴブリンが襲ってくるかも知れんが、俺が道を開く。貴様は後に続けば良い」

 だが、言わない。

 恐怖はある。しかし、死にたいとは思わない。プリカではハイゴブリンを倒せない。レオの言った事が本当だったなら、このまま立ち尽くしている自分は彼女を見殺す事になるのだから。

 トーマは頷き、息を精一杯吸い込んだ。勇気はまだ残っていると信じて、ハイゴブリンを睨み付ける。



 ゴブリンが異変に気付き、奇声を上げた。先ほどまで立ち尽くしていた者が動き出したのである。トーマと、レオだ。ゴブリンの知能では彼らが何をしようとしているのか、考えられない。それでも、動いている。

「ギイイイイ!」

 気付けば、数匹のゴブリンが先頭を走るレオに襲い掛かっていた。

 剣が煌めき、一番最初に飛び掛かったゴブリンの足が切り落とされる。床に落ちて動けなくなったところを足で踏まれて、それきり動かなくなった。

 同胞の死を悼むよりも、まず報復を。次いで、新たなゴブリンが床を舐めるように駆ける。

「そこで寝ていろ」

 そのゴブリンの頭をレオが剣で串刺しにした。彼は剣を抜き、振り向きざまに背後にいたゴブリンを薙ぎ払う。

「……何をしている!?」

 トーマたちの行動に気付いたプリカが叫んだ。注意の逸れた彼女にハイゴブリンが棍棒を叩き付けたが、プリカは何とかその攻撃を回避する。瓦礫が飛び散り、周囲のゴブリンへつぶてとなって降り注いでいた。

 レオが飛んできた石をガントレットで防ぎ、トーマに視線を送る。

「大丈夫っ」

 トーマは短く答え、落ちていたスコップを掴んだ。しゃがみ込んだ彼にゴブリンが飛び付こうとするが、トーマはスコップの腹でそれを撃退する。吹き飛ばされたゴブリンが固まっていたモンスターと衝突して叫び声を上げた。

「ギイイイイイィィイイイッ!」

 ハイゴブリンが棍棒を振り回しながら咆哮する。ゴブリンたちは怯えて広間の隅に我先にと駆け出した。

「……お前ら、気は確かなのか?」

 モンスターから距離を取ったプリカがトーマたちの傍に駆け寄る。彼女は少年たちを心配しているのではなく、邪魔をするなとでも言いたげな目をしていた。

「問題ない。無事だ」

 プリカに答えるのはレオだ。彼はつまらなさそうに彼女を見遣り、やはり細いなと呟く。

「……そういう意味で言ったのではない」

「それよりも女、あのモンスターを倒す術はあるのか? 何やら、攻めあぐねていたように見えたが」

 レオは口の端をつり上げた。プリカの頭に血が上るが、彼女は滾る感情を冷静に処理していく。

「……関係ない。これは私の任務だからな」

「何……? 貴様、俺の質問には――っ!」

「ないんですね」

 今まで口を開かなかったトーマの声に二人が反応した。彼はまっすぐにプリカの瞳を捉えている。その目に気圧されるような形で、彼女は逃げるように視線を逸らした。

「ないん、ですよね。あいつを倒す方法なんか」

「…………ああ、ない」

 トーマは落胆しなかった。何となく、予想は付いていたのである。

「……私はハイゴブリンを倒せないだろう。しかし、助けは来る筈だ。地上にはもう一人試験官がいただろう?」

「だが絶対ではない。それに、助けを待つような真似は気に入らん。俺はレオ・バーンハイト。自らの力で道を切り開いてみせようではないか」

「……さっきまでのびていた者の台詞とは思えないな」

「何だと貴様ぁ!?」

 レオがプリカに詰め寄った時、ハイゴブリンが怒りにその身を震わせていた。モンスターは床を踏み砕く勢いで彼らに近付き、棍棒を横薙ぎに払う。

「伏せろっ」

 身を低くして攻撃を避けた三人は、モンスターから再び距離を取った。

「……鈍いのが唯一の救いだな」

「や、やっぱり今の内に逃げちゃえば。三人なら、何とかなるんじゃないんですか?」

 トーマは出入り口を指差す。そこにもゴブリンが固まっていたが、ハイゴブリンと戦うよりは、あそこを無理矢理に抜けた方が助かるのではと、彼は思った。

「駄目だろうな。先も言ったが、俺たちが逃げ出せばゴブリンは足止めを仕掛けてくるに違いない。三人が三人とも、上手くその囲みを突破出来るとは思えん」

「……時間を掛ければ、後ろからハイゴブリンに襲われておしまいだ」

 しかしハイゴブリンを倒す手段はない。

「じゃあ、こうやって逃げ回るしか出来ないんですかっ」

「……死ぬよりはマシだろう」

 トーマは何も言えなかった。眼光の鋭いプリカが強く見据えたからと言うのもあったが、助けが来るのなら、下手に動くよりもこうやって時間を稼いでいる方が助かる確率が高いと感じたのである。

 だが、彼はそう思わなかったらしい。レオは剣を構えて、ハイゴブリンに向かって走り出したのだ。トーマたちの呼び掛けの声を無視して、モンスターの攻撃を床を転がる事で回避する。

「おおおおっ!」

 レオは勢いを殺さぬ内に両膝を着き、上半身の力だけでハイゴブリンの足を切り付けた。肉を両断するには到らなかったが、

「ギイイイイイイイイイッ!」

 苦悶の表情を浮かべるモンスターを確認して、ダメージは通っているのだと気付く。レオは追撃を加えようとして背後から剣を振り下ろすが、ハイゴブリンは振り返って棍棒を払った。

「……考えなしが」

 プリカは苛立たしげに呟き、レオを両手で抱えてその場から脱出する。彼女がついさっきまでいた場所を棍棒が通り過ぎていき、その様子を見ていたトーマは震え上がった。

「けっ、怪我は?」

「俺が傷を負うとでも思ったか」

 プリカはトーマの傍へレオを投げる。鎧が間抜けな音を立てて軋んだ。

「貴様っ、俺が怪我をしたらどうするつもりだ!?」

「……本物だな、お前」

 ハイゴブリンは足を押さえてトーマたちを強く睨み付けている。

「……倒せもしないのに勝手な真似はするな。お前が死ぬだけならまだしも、私たちまで巻き込むつもりか?」

「死にたくないならやらねばならんだろう。何もしないで殺されるなど、バーンハイトには許されん。そうだろう、農民?」

「僕、バーンハイトじゃないし。それよりプリカさん、あの、力持ちなんですね」

 女性に対してこんな事を言うのは躊躇われたが、気になったのだから仕方がない。トーマは少しだけ目を伏せていた。

 プリカは気にした素振りを見せず、自身の腕を掲げてみせた。

「……ああ、私は肉体を強化する魔法が使えるからな」

「貴様、魔法使いだったのか?」

「これぐらいしか出来ないからな、魔法使いと呼ばれる域には達していない。それよりも、目上の者に対して貴様とは……」

 言い掛けて、プリカは背後から走ってきたゴブリンを蹴り飛ばす。

「……まずいな。なりふり構わず私たちを殺す気らしい」

 殺気立ったゴブリンたちを見回して、トーマの手が震えた。

「雑魚を黙らせるには親玉を潰すのが一番だ。農民、俺に続け。死ぬ気で掛かれば何とかなろう」

 ならないと思った。トーマは今までに生きてきて、一番頭を使った。どうすれば助かるのか、どうやって逃げ出すのか。

「時間など残されておらん。今やらなければ死ぬぞ」

「……不用意に動くなと言っている。今、私たちに何が出来る?」

「あ、あのっ」

「……なんだ?」

「その魔法って、僕たちにも効き目があるんですか?」

 結局、自分だって馬鹿なのだ。毒されたのかもしれないが、彼の言う事にも一理ある。今動けなければ、これから先ずっと、何も出来ない。可能性があるなら賭けてみるべきだ。トーマが出した答えは、ハイゴブリンを倒す為のもので、レオに同意するものだった。



 プリカが先行してハイゴブリンに向かう。モンスターは闘争本能に駆られて棍棒を振るった。彼女は跳躍し、ハイゴブリンの背後に回る。

 後に続くトーマたちも戦闘に加わり、まずはレオがハイゴブリンの厚い胸板目掛けて剣を振るった。その攻撃はモンスターの素手によって受け止められる。

「来るぞ農民!」

 レオが叫んだ途端、ハイゴブリンは彼に向けて棍棒を払った。鎧を着込んでいたとして、まともに食らえばただでは済まない攻撃である。それをトーマがスコップの腹で防いだ。衝撃に歯を食い縛り、彼は悲鳴のような叫びを上げる。

「プリカさんっ!」

「……分かっている」

 プリカはハイゴブリンの背を蹴り、モンスターの肩に着地した。両手にダガーを構え、ハイゴブリンの両目に突き刺す。固い肌とは違い、柔らかな眼球はいとも容易く刃を飲み込んでいった。ハイゴブリンは痛みに耐えかねて呻き、怒りに任せて叫ぶ。

「持たない……っ!」

「女っ、早くしろ!」

 プリカはダガーを引き抜かず、空手のままでモンスターから飛び降りた。彼女はハイゴブリンの腕を押さえている二人に近付き、両手を向ける。

「……これで打ち止めだ。しくじれば終わりだぞ」

「やる前から失敗を恐れてはっ!」

 身体強化魔法の効果は、それを行使する術者だけに与えられるものではない。対象を選ぶ事も出来るのだ。

 トーマたちがハイゴブリンの攻撃を受け止められているのは、プリカが彼らに魔法を掛けたからである。尤も、魔法の効果は長く続かない。更に言えば、もとから力の弱い――例えば彼女のような――者に掛けても大幅なパワーアップは望めない。しかし、最初から力の強い者に掛ければその効果は低位の魔法とは思えないほどに高まるのだ。

「農民っ、役割を果たせよ!」

 レオがハイゴブリンの手から剣を抜き取る。勢い余ってモンスターの指を切り裂くが、彼らの狙いはここではない。

「……最後だ。不本意だけど、預けるぞ。私の命」

「う、わ……」

 トーマの体に力が沸き起こる。こんこんと、枯れない泉のように力が流れる。増していく。魔法を限界まで使用したプリカがふらつき、彼の後ろで膝を着いた。

 ハイゴブリンが自由になった腕、その行く先は正面にいるトーマである。モンスターは彼を殴り潰す勢いで、

「うわああぁぁあぁぁああっ!」

 拳を振るった。

 が、届かない。

 両手を広げたトーマがハイゴブリンの攻撃を一人で受け止めているのだ。

 身体強化魔法の重ね掛けである。プリカは残った力を全てトーマに注いだのだ。彼は潰されまいと必死に耐える。気の遠くなる痛みと重みが、いつまで経っても終わらない。

「良くやった農民!」

 力を込めようとして姿勢を低くしたのが、ハイゴブリンの運の尽きだった。その体勢はレオにとってあまりにも都合が良い。剣を振り下ろし、首を斬り落とす為にはあまりにも。

 レオにとってはまるで、覚悟を決めたハイゴブリンが自ら首を差し出しているように見えていた。

 確かな手応えを感じ、

「ここまでだ、下郎」

 首を、落とす。

 ハイゴブリンの体に一瞬間だけこれ以上ない力が入り、その後はもう、あっけなく崩れ落ちた。その衝撃で堆積していた埃が舞い上がり、やがて全ての音が止む。

 魔法の効果が切れたトーマはスコップを取り落とし、その音で周りにいたゴブリンたちが奇声を上げた。

「……来るか?」

「そんな……」

 余力は残っていない。与し易いゴブリンと言えども、トーマたちはもうまともに戦えないのだ。多勢に無勢、あの数で来られては嬲り殺されるしかない。

 しかし、長の死を間近で見てしまったゴブリンたちはトーマたちを避けて散々に逃げ去っていく。やがて全てのモンスターがいなくなった後には、プリカの溜め息が殊更にうるさく聞こえる有様だった。

「や、やった……」

「……何とか繋げられたか」

 強敵に勝利した喜びよりも、生き残った事が何よりも嬉しかった。トーマは大の字になって床に寝転がる。

「見たか俺を! 後世まで語り継がれるであろう俺の八面六臂の活躍を!」

 レオだけとても嬉しがっていた。彼にとっては強敵を倒した事の方が大きいのだろう。

「流石は俺だっ、レオ・バーンハイトの名は未来永劫語り継がれるであろう!」

「……あのうるさいのをどうにかしろ」

 どうにか出来ていたならここまで付き合わされてはいない。トーマは曖昧に笑って、苛立っているプリカを受け流した。

「見たか農民、俺の凄さを!」

「あはは、凄かったよ」

「うむ。しかし貴様も良い仕事をしたな。女、貴様の魔法も中々のものだったぞ」

「……ああ、光栄の極みだね」

 プリカは皮肉っぽく呟き、ハイゴブリンに刺したままだったダガーを回収する。そして、トーマたちに向かって頭を下げた。

「すまなかった。こんな事になったのは全て、私たち突風同盟のミスだ」

 頭を下げられた二人は顔を見合わせ、何の事だか分からないと言った風な顔を浮かべる。

「あの、僕はそんなの気にしてません。だってプリカさんは僕らを助けてくれたじゃないですか」

「……いや、しかしだな」

「モンスターを倒せたのだから、俺から言う事は特にない。それに、だ」

 レオはハイゴブリンの首を掴み、プリカの方へ見せ付けるように突き出した。

「これでテストは文句なしにクリアだろう?」

 プリカは目を丸くしていたが、レオの言葉を理解して、また、彼の気性をも理解出来た気がして喉の奥で笑む。

「……ああ、そうだね」

「うむ、では地上に戻るとしよう」

 トーマたちが歩き出したと同時、広間の入り口から一人の男が姿を現した。もう一人の試験官、コビャクである。

「……遅かったじゃないか」

「それは俺の台詞だ。プリカ、何があった?」

 コビャクはまず、広間に点々と転がっていたゴブリンの死体を見て、それから、中央に転がる首をなくしたハイゴブリンの死体を確認して驚きの声を上げた。

「まさか、ハイゴブリンが?」

「……そのまさかだよ。コビャク、これは私らのミスだ」

「だから気にするなと言ったではないか」

 偉そうにふんぞり返るレオへ訝しげな視線を送り、コビャクは腕を組む。

「誰がやった?」

「無論、俺だ。まあ、少しはこいつらも働いたがな」

 レオの言葉が信じられないコビャクはプリカを見た。が、彼女はその通りだと言わんばかりに両手を上げる。試験官の彼女がいたとは言え、新人プレイヤー二人を加えた三人でハイゴブリンを打倒したとは未だに信じられなかった。

「……コビャク、私はこいつを推薦するよ。間違いない、文句もないだろう?」

 プリカはレオを指して立ち上がる。

 良かったと、トーマは素直に思った。一時はどうなる事になるかと思ったが、これで全て終わりである。全員が生きて戻れる。しかも、レオにとっては十全な結果だろう。地上に戻ったら自分だけでも宿を探して、それからゆっくりとギルドを見つけよう。そう思い、トーマはほっと息を吐く。

「ああ、文句はない。詳しい話はまた後で聞くとしよう。とりあえず、今はここを出るのが先だ」

 コビャクの後にレオが続き、それからトーマが歩き出した。

「……ああ、それと」

 トーマの肩をプリカが掴む。

「この子も推薦するよ。彼がいなければ、私たちは死んでいた。命の恩人だし、何より突風同盟に相応しい力も持ってる。どうだい、文句はあるか?」

「ほう、お前がそこまで言うとはな。良いだろう。勿論、許可だ」

「おお、良かったではないか農民!」

「え? えっと?」

 意気揚々と歩き出すレオ。足早に広間を後にするコビャク。

「あ、あの? じっ、実は僕……!」

「名前は?」

 プリカに見つめられ、トーマは思わず名乗ってしまった。本当はこのギルドに入りたいと思っていなかったんですと、そう言おうとしたのだが。

「……トーマ。ん、トーマ」

 プリカは口元を覆っていた布を外して、笑う。

「これで借りは返したよ。良かったじゃないか、お友達と離れ離れにならなくて」

「う、あ。…………はい」

 ――やたら笑顔の男と綺麗な女には気を付けな。

 トーマは今更ながら、旅立つ前に母親が言っていた事を思い出し、忠告を無視する形になってごめんなさいと心の中で謝った。

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