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風の終わり  作者: 竹内すくね
一部
5/37

テスト・3



 地下一階の大広間には、頭や腕のないゴブリンの死体が散らかっているままだった。トーマは吐き気を堪えてその場に踏み止まる。当たり前の光景なのだが、少しは期待もしていた。誰かが片付けてくれているんじゃないか、と。

「農民、時間はあとどれくらい残っているのだ?」

「うーん、二、三十分くらいは」

「余裕があるな。袋が重くて少し疲れた。おい、ここで休んでいくぞ」

 レオはトーマの返事を聞かずにその場に座り込む。

「そんなに疲れるなら、鎧なんか着なければ良いのに」

「格好が付かんだろう。俺は誇り高きバーンハイトの長子なのだぞ。何も知らない者どもに威光を見せびらかさんでどうする」

「どうもしなくて良いんじゃないかな」

 トーマはレオの隣に座り、息絶えているゴブリンを眺めた。街に着いてからまだ一日と経っていないのに、既に神経は磨り減り、感覚が麻痺している。ここで暮らす限り、村と同じように平穏には暮らせない。分かってはいたのだが、やはり、辛かった。

「ねえ、街に戻ったらどうするの?」

「決まっている。まずはギルドの頂点に立ってだな……」

「……無理じゃないかな」

「無理な事などない。農民、後ろ向きな考えは貴様の悪い癖だぞ」

 前向き過ぎるのもどうかと思ったが、トーマは口に出さずに胸にしまっておく。

「もしもの話で良いよ。もしも突風同盟に入れなかったら、その時はどうするの?」

「万が一にも有り得ない話ではあるが、そうだな、その時は……宿を探す」

「宿?」

「そうだ」とレオは頷いた。彼は自分の体を見ようとして首を動かす。

「随分と汚れてしまった。風呂に入りたい。少し、眠りたい」

 レオはその足で別のギルドを探すとでも言うと思っていた。だからトーマは吹き出す。確かに、そうだ。自分だって汚れてしまったし、疲れている。早く宿を探して眠りたい。

「貴様、何を笑っている!」

「い、いや、君がそういう事を言うとは思ってなかったから」

「ふん、俺だって人間だ。生きている限りは腹も減るし喉も渇く。何もおかしい事はない」

「そ、そうだね」

 憤慨した様子で立ち上がると、レオは鞘から剣を抜いた。その切っ先をあらぬ方角に向けて彼は吼える。

「突風同盟など知るか! 最初から俺には合わなかっただけよっ、それよりも宿だ! 俺に相応しい最高の宿を探すのだ農民!」

「宿まで君と一緒なの?」

「当然だ! 臣下たる者が仕えるべき主を置いてどこへ行こうと言うのだ!」

 トーマは、レオと出会ってからまだ少ししか経っていない事に気付く。自分たちは友人と呼べるような間柄ではないのだろう。しかし、友人になっても良いと、いや、なりたいと思った。生き馬の目を抜くような生活が待ち受けていたとしても、まっすぐな彼となら上手くやっていける。そんな気がしていた。

「良いよ、宿を探そうか」

 言ってからトーマも立ち上がる。瞬間、強烈な重圧を感じた。背中に嫌なものを感じて振り向くと、そこにはゴブリンが立っている。

「……何、だ?」

 レオはたじろぎ、数歩下がった。彼の怯えた様子を見て、トーマは息を呑む。

「ギイイイイィィィィィイイイイ!」

 耳を劈くような声を上げたのはただのゴブリンではない。レオよりも大きな、異常に発達した筋肉を持つ巨大なゴブリンだ。今まで倒してきたゴブリンとは比較にならない。そこにいるだけで、ただ、恐ろしい。

「何だこいつはぁ!?」

 レオは巨大なゴブリンに剣を向けるが、その切っ先は震えている。

 ゴブリンは醜悪な笑みを浮かべて、その手に持っていた棍棒を床に叩き付けた。石で出来ている筈の床があっけなく砕ける。強烈な膂力を見せ付けられ、トーマの膝ががくがくと震えた。

 一体、何が起こっているのか、分からない。



 嫌な予感は当たる。

 プリカは得物のダガーを抜いて、広間の様子を陰から観察していた。

 二人の少年の前に現れたのは、緑がかった肌、大きな耳、皺だらけの鼻、不揃いの歯を持つ――――ハイゴブリンだ。近寄りがたいのは風貌のせいだけではない。並のゴブリンでは有り得ない、巨体のせいでもある。更に、ハイゴブリンは戦いに関しての知能も備わっている。素手でも生身の人間を軽く吹き飛ばせる力を持ち得ながら、武器まで使うのだ。人間の落としていった武器や、時にはその場にあるものを利用する。

 ハイゴブリンはここのゴブリンを束ねている、言わば親玉だ。縄張りを荒らされ、仲間が殺されている事に対して腹を立てているらしい。しかし、おかしい。ハイゴブリンはつい数ヶ月前に討伐されたと聞いていたのだ。ある程度の安全が保障されているからこそ、テストを行ったのである。

 ゴブリンの長、ハイゴブリンはゴブリンが突然変異したものとされていた。突然、生まれるのだ。それでも、この時期にハイゴブリンが出現した事は今までにない。

 油断していなかったと言えば嘘になる。街でも最大を誇るギルドだと言うのに胡坐を掻いていたのは事実だろう。テスト生を送り込んでも大丈夫かどうか、しっかりと確かめておかなかったのは自分の手落ちだ。

 少年たちはゴブリンや大ムカデには苦戦を強いられなかったようだが、ハイゴブリンが相手となると話は違ってくる。熟練のプレイヤーでも単独での戦闘は避けるべき、多数で挑むべき相手だと言われているのだ。素人には荷が重過ぎる。

 ハイゴブリン単独でも危険だ。加えて、

「うっ、わああああああ!?」

 ハイゴブリンが姿を見せるとなると、それだけでは済まない。



 突如現れた巨大なゴブリンに恐怖した。だが、体は何とか動く。トーマは逃げ出そうとして振り向くが、その光景を見てしまい、吐息を漏らした。

「う、あ……」

 広間には出入り口が三つ。その全てから、ゴブリンが姿を覗かせていた。何匹いるかなど、数える気は失せている。広間全体にモンスターの声が反響しており、トーマたちの心をじわじわと揺さぶった。

「ギイイイイィィイィィイイィ!」

 ハイゴブリンが咆哮を上げると、ゴブリンが広間に向かって猛然と飛び出してくる。

「うっ、わああああああ!?」

「伏せろ農民っ」

 トーマに飛び掛ろうとしていたゴブリンが、レオの剣の錆となった。胴体を切り裂かれ、苦悶の声を上げながら床を転がる。

「後ろ!」

 トーマの声に反応したレオが後ろに向かって剣を払った。二匹のゴブリンが斬撃を喰らって吹き飛ぶも、次から次へとゴブリンは彼らに襲い掛かる。

 広間には奇声を発して走り回るゴブリンが多数おり、中央ではトーマを庇いながらレオが剣を振るっていた。

「くっ、農民! 貴様も武器を取れ!」

「そっ、そんな!?」

「俺だけでは無理だ!」

 レオは決して凄腕のプレイヤーではない。トーマと比べればまだ戦えるレベルに達しているのだが、彼とて駆け出しのプレイヤーである。装備こそ並大抵のものではないが、それだけなのだ。誰かを庇いながら戦うような事は出来ない。

「ここで死にたいのか!?」

 一喝され、トーマはスコップの柄を握る。

 死にたい筈、ない。まだ街に来て一日も経っていない。死にたくない。母親と会いたい。村に帰りたい。楽しい事も、何も経験していないまま死ぬのは嫌だった。

「くっそおおお!」

 相手はモンスターである。だが、彼らにも命があるのだ。仲間を守る為に生きている。それでも、自分以外の命を糧にしてでも、他者を踏み付けにしてでも生き延びたい。

 トーマはスコップを振るい、ゴブリンを弾き飛ばす。彼の働きを見て、レオを笑った。この状況下で笑ったのである。

「そうだっ、それでこそバーンハイトの臣下に相応しい!」

 レオも剣を操り、ゴブリンの頭を串刺しにして、胴体を薙ぎ、足を切り払っていく。

 トーマたちが倒したゴブリンの数は十を超えた。しかし、まだまだ数が残っている。ギナ遺跡中のゴブリンが集まっている事を考えれば、氷山の一角にも過ぎない。

「ああああああああっ!」

 足元に纏わり付くゴブリンを踏み潰してレオは前方を薙いだ。剣を奪おうとするモノをガントレットの表面で殴り飛ばす。一々上げる奇声が耳障りで彼は顔をしかめた。

 スコップの先端に喰らい付こうとするゴブリンを、トーマはそのまま床にぶつけて押し潰す。群がるモンスターを蹴り飛ばして、意味の成さない声を上げた。

 レオの背中にゴブリンが張り付けば、トーマがそれを払って潰す。一方で、トーマの死角の敵をレオが切る。二人は次第に、互いの背中を預け合いながら戦っていた。

 疲労感は勿論ある。だが、それよりも興奮が勝っていた。ハイゴブリンの醜悪な笑み。傷の痛み。ゴブリンの奇声。迫る死への恐怖。今止まれば、もう二度と動けなくなる。そんな強迫観念に後押しされて、トーマとレオは己の得物を振るい続けた。

「ギイイイイイイイィィイ!」

「……なんだ?」

 ハイゴブリンが高く声を上げると、ゴブリンたちの動きが止まる。ゴブリンは皆、自分たちを束ねるモノへと視線を注いだ。その期待に応えると言わんばかりに、ハイゴブリンは棍棒を振り払う。近くにいたゴブリンが天井や壁に吹き飛ばされたが、しでかした当の本人は気にする素振りを見せない。

「来るか、化け物め」

 遂に、ハイゴブリンが動いた。ここが自らの領土だと宣言しているかのように、知らしめるかのように悠然と歩く。トーマたちは雰囲気に呑まれてしまって動けず、広間の中央で武器を構えるしか出来ない。

「どう、するの?」

「戦うしかあるまい。……奴の一撃は俺が受け止める。その隙に攻撃を加えろ」

「僕が!?」

「ならば貴様が受け止めるか?」

 ハイゴブリンが右手にぶら下げている棍棒を見て、トーマは首を横に振る。

「それより、逃げようよ。ゴブリンたちも動いてないし」

「俺たちが逃げれば追い掛けられる。この数相手では囲まれて終わりだぞ」

「でもっ」

「くどい!」

 レオは剣をハイゴブリンに向けて、深く息を吸い込んだ。

「俺の名はっ、レオ・バーンハイト!」

 彼の声に呼応するかのように、ハイゴブリンが大きく足を踏み出す。一歩、二歩。手の届く距離まで近付いたところで、棍棒を上段から振り下ろした。レオは両手でグリップを握り、剣を振り上げる。

「貴様などに――っ!」

 レオが棍棒を受け止めている隙にトーマが走り出した。彼にはあの巨体を一撃の下に倒せる自信はない。しかし、やらなければやられるのはこちらなのだ。

 トーマの動きに気付いたハイゴブリンは右手だけで持っていた棍棒に左手を添える。力が加わり、レオの膝が崩れ落ちていった。それでも、彼は必死の形相で攻撃を受け止め続けている。

「このぉ!」

 ハイゴブリンの背面に回ったトーマはスコップの腹で背中を強打した。だが、まるで効いていない。彼の腕力が低過ぎた訳ではない。疲弊しているからとは言え、鉄の塊で殴打したのだ。並のモンスターなら悶絶し、あるいは死に到ってもおかしくない。

「う、く……」

「ギイイィィィイイイイ!」

 ただ、やはり相手が悪い。ハイゴブリンの恵まれた肉体には打撃が通り難いのだ。その事実にトーマが気付いたのは、レオが限界を迎えた時である。

 レオは床に両膝を着き、許しを乞うかのような体勢でハイゴブリンを見上げていた。にいいと、口元を歪ませたモンスターは棍棒を一度持ち上げ、容赦なく振り下ろす。

 轟音が呻き声を掻き消した。石造りの床が粉々に砕け散って穴が開き、粉塵が舞い上がる。昂ぶったハイゴブリンは棍棒を天井に突き出し、雄叫びを発した。

 トーマは、一歩も動けないままだった。現状を理解したくない。モンスターの死ならば、ここで見た。嫌と言うほど見て、殺した。だが、人間だってゴブリンと同じくあっさりと死んでしまうのだ。レオの死を理解した瞬間、スコップは手から零れ落ちる。戦意を失い、その場にへたり込んだ。彼の取った行動は最悪と言える。諦めずに立ち上がり、逃げ出せば良かった。

「ギイイ……?」

 この場に留まると言うのは、ハイゴブリンの次なる獲物として立候補している事に他ならない。

 戦闘での巻き添えを避ける為、広間の端に固まったゴブリンたちが口々に声を上げる。何を言っているのかトーマには分からなかったが、ハイゴブリンを煽る声には違いなかった。

 持ち上げられた棍棒を見遣り、トーマは心中で母親に詫びる。何も出来なくて、ごめんなさい、と。



 ――全く。全く。全くだ。

 何も考えないで奥まで行かずに、最初にゴブリンを倒していた段階で大人しく地上に戻れば、こんな目に遭わずに済んだのだ。誰も苦しい思いをせずに終わったのだ。

 彼女は両腕に抱えていた者を見遣ってからこれ見よがしに舌打ちして、広間の隅の床へぞんざいに放り投げる。

「痛……っ」

 放り投げられたのはトーマだ。彼は自分の体を手でまさぐり、その感触を確かめている。

「……生きている証拠だ。良かったな、少年」

「生きて……? 僕、生きてるんですか?」

 背の低い黒髪の女は口の端をつり上げた。尤も、彼女は赤い布で口元を覆っている為にトーマにはその表情が読み取れない。

 トーマは中央で怒り狂っているハイゴブリンに視線を移す。

「助けて、くれたんですか?」

「……任務だからな」

「任務?」

「……覚えていないのか? 私は試験官のプリカだ」

 その時、数匹のゴブリンがプリカに向かって駆け出していた。歯を剥き出しにして、親玉の戦闘を汚した乱入者へと襲い掛かる。

 プリカはベルトに差していた諸刃の短刀、ダガーを二本抜いた。両手にそれぞれ構え、飛び掛かるゴブリンの喉を的確に捉えて、突き刺す。彼女がダガーを引き抜いてその場で回し蹴りを放つと、三匹のゴブリンが床に倒れ込んだ。

「うわ……」

 無駄のない流麗なプリカの動きに、トーマは思わず息を呑む。彼女は倒れているゴブリンの急所に刃を突き立ててとどめを刺していった。

 別のゴブリンがプリカに向かおうとするが、ハイゴブリンが叫び、彼らの動きを止める。

「……お前のご主人様も無事だ。全く、厄介なものを着込んでいるから重くてしょうがなかった」

「あ、あ……」

 トーマのすぐ近くには、レオが仰向けで転がされていた。苦しそうに唸っている。彼はまだ、生きていた。

「本当に、良かった」

 だが、プリカの言った言葉が引っ掛かる。

「でも、コレは僕のご主人様なんかじゃないです。と言うか、僕は誰かの物になった覚えはないですから」

「……そうなのか? まあ、私には関係ない。それよりも、今はアレをどうにかするのが先だな」

 プリカは顎をしゃくってハイゴブリンを示したが、トーマにはアレをどうにかするのは不可能だとしか思えなかった。

「……少し辛いが、何とかなるだろう」

 ダガーを逆手に構え、プリカはトーマたちを庇うように前へ出る。

「本当ですか?」

「……任務だからな」

 嘘だった。

 プリカにはギナ遺跡程度のモンスターには倒されないと言う自信があった。しかし、ハイゴブリンは別である。今の時期にあのモンスターと対峙するなんて思いもしなかった。

 彼女の機動力は突風同盟でも群を抜いている。そのスピードに付いていける人間もそうはいない。そこに加えて、プリカは低位の身体強化魔法、回復魔法を習得している。生存能力にも優れている彼女には単独での任務が与えられる事が多く、また、その任務全てを完遂してきた。

 それでも、分が悪い。

「モンスターの注意を引き付ける。隙を見つけて地上に戻り、コビャクにこの事を伝えろ」

「プリカさんは……?」

「……言ったろう」

 プリカはくるくると、慣れた手付きでダガーを回しながら広間の中央に向かって歩いていく。ハイゴブリンの正面で立ち止まり、ステップを踏んだ。

 ハイゴブリンが棍棒を振り上げ、下ろす。周囲には石の砕ける轟音が響き渡り、その衝撃による粉塵が舞い上がった。

 力は強いが、頭は弱い。プリカはハイゴブリンをそう評す。彼女がこのモンスターと戦闘するのは初めてだった。が、速さでは負けていない。プリカは煙に紛れて跳躍し、ハイゴブリンの肩にダガーを突き刺す。

「ギイイイイィィイ!」

「……こいつっ」

 硬い。刃は肉を抉れずに、皮を剥ぐだけに止まった。ならばと、プリカは一度距離を取り、ダガーを鞘にしまう。掌を右腕にかざすと、淡い光がその部位を包んだ。彼女が習得した身体強化の魔法である。低位の魔法である為に特定の部位のみ、それも短い時間しか強化出来ない。それでも、何もしないよりはマシだと言えた。

 猛るハイゴブリンに怖じず、プリカは床をジグザグに走り回る。モンスターが棍棒を振り上げたのを見計らい、一息に懐へと飛び込んだ。ハイゴブリンの喉を狙ったが、やはりそこもダガーのような武器では通らない。皮を僅かに裂く程度のダメージしか与えられなかった。

 ハイゴブリンは蛮声を轟かせ、左腕でプリカを追い払おうと試みるも、彼女はするりとその場から飛び退いた。モンスターは自らの胸元を叩く破目になり、苦しそうな呻きを漏らす。

 プリカは一度息を吐いた。自分が鈍重なモンスターに掴まるとは思わないが、あまりにも決め手がなさ過ぎる。周囲を取り囲むゴブリンたちは相変わらずで、トーマたちが逃げ出せる隙など生まれそうにない。ゴブリンを束ねるハイゴブリンさえ倒せば彼らにも混乱が生まれるだろうが、強化魔法を使ってもダメージを与えられないのでは絶望的である。それでも、時間さえ経てば地上にいるコビャクが不審に思い、ダンジョンへ様子を見に向かうかもしれない。問題は、それまで時間を稼げるかどうかだ。彼女の体力とて無限ではない。疲弊すれば足は重くなり集中力も途切れる。ハイゴブリンの攻撃をいつまでも回避し続けられるかどうか分からない。それに、モンスターが気を変えてトーマたちを襲えば、そこで終わりなのだ。

 ――全く。全く。全くだ。

 爪先を床に当て、床を鳴らす。性懲りもなく、ハイゴブリンが棍棒を振り上げた。プリカが床を蹴ってモンスターに飛び掛かる。彼女が身に着けている布がたなびいて、まるで赤い風が吹いたように見えた。

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