『死に戻り最弱勇者、無限の絶望を超えて』
「は……? ここ、どこだ?」
目を開けた瞬間、悠真は見知らぬ草原に立っていた。草は膝の高さまで茂り、遠くには見たこともない山脈が連なっている。空は蒼く澄み渡り、けれどその静けさは現実感を伴わなかった。最後に覚えているのは、下校途中にトラックのクラクションが耳を裂いた光景。そして、衝撃と暗転。
(まさか……死んだのか、俺?)
恐怖と混乱の中で立ち尽くす彼の前に、突如として光の粒が舞い、白い衣を纏う人物が姿を現した。神々しい威圧感に思わず後ずさる。
「篠崎悠真。お前は不運な事故で命を落とした。だが、我は哀れんで異世界での新たな命を授けよう」
「……異世界転生? 小説とかアニメでよくあるやつ……?」
神は静かに頷き、一冊の黒い書を取り出した。ページは風にめくられるように自ら開き、奇妙な文字が光を放つ。
「授けるスキルは《リセット》。死ぬたびに、お前は経験と記憶を引き継いで再び立ち上がる」
「……死ぬたびに、強くなる?」
「そうだ。ただし――無限ではない。死ぬ苦しみも絶望も、すべて記憶に刻まれる。それに耐えきれるかどうかは……お前次第だ」
光に包まれ、悠真の意識は途切れた。
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転生した先は、小さな辺境の村だった。石造りの家々が並び、行き交う人々は剣や農具を手にしている。だが、悠真はすぐに己の無力を思い知らされた。剣を握れば手は震え、魔法を放てば火花すら散らない。村の子どもたちにすらからかわれる、まさに最弱の存在だった。
「なんだあいつ、剣も持てないのかよ」
「村人以下だな」
笑い声に頬を熱くしながらも、悠真は諦めなかった。夜、初めての魔物討伐に参加した。だが現れた狼型の魔物に一太刀も入れられず、牙を突き立てられ、血の海に沈む。
――そして目を開けると、再び村の宿屋のベッドにいた。
「……本当に戻ってる。全部、覚えてる」
痛みも、恐怖も、血の匂いも。すべてを引きずったまま、再び彼は剣を握る。胸は震えていたが、足は前へ進んでいた。
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何度も、何度も殺された。狼の群れに喉を裂かれ、盗賊に胸を貫かれ、毒草を食べて悶え死んだ。凍える川に流され、崖から転落して全身を砕かれたこともある。だが死ぬたびに、彼は学んだ。剣の握り方、魔物の癖、毒草と薬草の見分け方。死を糧に、少しずつ前へ進んでいった。
「クソ……今度は、やらせない!」
十度目の挑戦で、彼は初めて魔物を斬り伏せた。手は切り裂かれ、足は震えていたが、確かに勝った。全身に熱い達成感が走る。死を超えて積み重ねた努力が、ようやく結果となって現れた瞬間だった。
その夜、悠真は焚火の前で剣を見つめた。刃には無数の傷が刻まれている。それは、自分が何度死んだかの証明でもあった。
「俺は……まだ進める」
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成長を実感し始めた頃、悠真の前に“異質”な存在が現れる。銀髪の青年。片手で巨岩を粉砕し、魔法を自在に操るその姿は、人間離れしていた。彼の足元には討伐した魔物の死体が山のように積まれている。
「……お前も転生者か?」
青年は口元を歪めた。「そうだ。俺のスキルは《支配者》――全てを従わせる力だ。お前のような雑魚とは違う」
その声は愉悦に満ち、瞳は冷酷に光っていた。悠真は直感する。この男は強すぎる。比べることすら愚かだ。
圧倒的な力の差。悠真は剣を構えるが、青年の魔力が奔流となって叩きつけられ、一瞬で地に伏した。呼吸すら奪われる絶望の力に抗えなかった。
「次に会う時は、もっと楽しませろよ」
冷笑を残し、青年は去っていった。悠真は血を吐きながら、またしても死を迎える。だが、その悔しさすらも力に変えて、彼は再び目を覚ました。
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「負けるものか……俺は死ぬたびに強くなる」
血に濡れた手を握りしめ、悠真は立ち上がる。終わりなき死のループ。その果てに何が待つのかはわからない。だが彼は誓う。
「必ず勝つ。神だろうと、この力で超えてみせる!」
闇を切り裂くように瞳が輝いた。彼の物語は、まだ始まったばかりだった。
久しぶりの投稿です。
今、2作品の連載の書き溜めを書いているので、やっぱり疎かになっちゃいますね、、
もしも!万が一!作品が前回の最高順位(26位)を更新があわよくば出来れば、百話程の長編を上げたいと思います。
もし、優しい方がいらっしゃれば評価をして頂くと嬉しいです。厚かましいですが、どうかよろしくお願いします。