一 冥々夜市
闇夜に浮かぶ提灯の灯りが領分を照らすが、些か不気味である。
色合いのせいだろうか。
蝋燭の灯りが小さいのだろうか。
ざわめきの声のせいだろうか。
それとも此処が現世ではないから、だろうか。
此処は、冥々の者達が集う市。
家と家の屋根を行き渡る紐に高く釣り下がった提灯とは別に、青く灯る蛍火が浮かんで妖しく夜闇を照らす。その灯りに照らされているからか、輪郭がぼやけた世界がまたいっそう奇々怪界なる景色となる。
行き交うもの達の姿はそれぞれに特徴があるものだから――いや、彼等の姿こそ、奇怪なる夜を創り出していると言っても過言ではない。
例えばだが、そこの宿屋の主人だ。頭には角が二つある。頭に角が在ると鬼と思ってしまいがちだが、角の無い鬼もいる。鬼以外にも角のある妖などはいるものだから、一見では何とも言えない。まあ、一眼見ただけで人間で無いことだけは判然としただろう。
それと、そこの飴売り。見た目は、どう見ても白地に黒と茶斑の猫だ。だが普通の猫と違って、成人の男性程度の背丈があり、尻尾は二股。所謂、猫又だ。その猫又は、肉球のついた大きな手で熱い飴を練り、切っては、慣れた手つきで忽ち白い猫の形へと変えていく。
愛想も良いし、腕前も見事。だが、金を持っていないと代わりのものを要求されかねないから気をつけた方が良いだろう。
後は、そこの飯盛旅籠の売れっ子女郎だろうか。あれも一見では判りにくいが、狐だ。言葉巧みに男を嵌めていく……これは、人だけでなく妖も嵌っているようだ。良い夢が見れるのだとか。
その隣にいる女は肉吸いという妖だ。どう見ても別嬪の人間だが、本来は醜い姿をしている……なんて噂もある。その姿で男に近づき、まぐわっている間に肉を喰われるか、生気を吸われるか……どっちにしろ碌なもんじゃない事だけは確かだろう。ただ、手腕は相当なものだという話だから、まあ、一度試してみる妖もいるようだ。生きて帰れるかは保証できないが。
面妖な――現世であれば、そんな言葉が使われただろうか。だが此処は、現世ではない。ましてや幽世でもない。
生者と死者の狭間に生きるもの達が、偶然見つけた異界。入り口さえ見える者ならば誰でも訪れる事ができる此処は――――『夜市』と呼ばれている。
◆◇◆◇◆
異界への入り口は、其処彼処に点在する。時折、人間がうっかり潜り抜けたりもしてしまうが、帰って来れる保証はない。延々と異界へ通じる常夜の道で彷徨うことすら有り得る。
『神隠し』なんて言葉があるが、まさに此処に入り込んでしまった人間がそういった扱いになるだろう。常夜の道は真っ暗闇で、特別な目でもない限りは己が姿すら視認する事も叶わないのだから。
もし、人の身で夜市へとたどり着けたのなら、それは相当な強運の持ち主か――はたまた、鬼を見やる目を持つ者だろう。




