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17.



 子供たちと遊んだあの日から、1週間ほど経っていた。

 過去の神獣使いがどんなことをしてきたのか……レイのところで講義を受け続けることで、短い期間のうちに沢山の知識を得られていた。

 今日もレイの所に来て、先代の神獣使いがしてきた事について、神殿にのみ伝わっている詳しい情報を教えてもらっていた。


「今日の講義はこのくらいかな……。だいぶ沢山説明してきたけれど、どうかな?ジュリエッタ嬢?」

「……ええ。本当に勉強になるわ」


 手元の古い手記から目を離すことなく、ぼんやりと答える。

 ふわり、と爽やかな風が窓から入り込んで――。

 誘われるように顔を上げた先――私の机に腰掛けるようにして、いつの間にか、彼がすぐそこにいた。

 ――どきん。

 瞬間、心臓が飛び跳ねる。

 温かな日差しが差し込む窓辺で、彼の銀糸の髪がきらり、と光を透かしていた。

 近距離で合った目。

 宝石のようなその瞳は……光を集めて反射しながらも、やっぱりどこか、偽物のような気がしてしまうのは何故だろう。

(……ちょっと私。しっかりしなさいよ)

 自分に言い聞かせるように、心の中で呟く。

(相手はレイよ?得体の知れない神官相手にどきどきするなんて、どうかしてる)

 魔法のような一瞬を、こほんと咳払いで壊したのは私だった。


「随分とお行儀が悪いんじゃないかしら?神官様?」

「生憎、僕は真面目とはほど遠い性格でね」


 私の皮肉に気分を害する様子もなく、楽しそうににこりと笑顔を浮かべるレイは、意地悪そうに言った。

 そのままの距離を保ったまま、彼の長い指が伸びてきて――私のハニーブロンドを一筋、さらりとすくい上げる。その毛先に、彼の唇がそっと触れたのを見て、私の心臓はまた、小さく跳ねた。


「ところで、ジュリエッタ嬢。このあと少しだけ、時間はあるかい?」

「あるけど……」


(何よ、キザなことしちゃって。神官のくせに貴族の令嬢に色目使う気?)

 彼の手をやんわり払って、じろりと軽く睨む。

 レイは「ごめんごめん」と両手を挙げると、全く悪びれていない様子で手を差し出してきた。


「君に是非、会いたいと言う人たちがいてね」





 彼の手に引かれるまま、パーシーとロロを引き連れやってきたのは、宿舎棟の近くにある別の棟。

 隅まで掃除が行き届いた、清潔な廊下。穏やかな表情の女性神官たちが行き交い、とても温かな雰囲気だ。

 ここが何処なのかは、聞かなくてもわかる。だって……至る所から、子供達の元気な笑い声が聞こえてきていたから。

(ここがあの子たちの暮らす場所なのね)


「さぁ、ここだよ」


 彼はその中の一室、一際子供達の声がする場所の扉を開けた。

 途端、わあっと歓声が上がり、子供達が駆け寄ってくる足音がする。


「レイだ!」

「レイ~」

「レイ……と、え?!お姉ちゃん?!」


 子供のうちの誰かがそう言った瞬間、びたりと子供達が動きを止めた。


「約束通り連れてきたぞ。お前達、会いたがってただろう?」


 レイの言葉に、子供達がわっと動き出した。

 一斉に部屋の隅にある戸棚へと向かい、なにやらごそごそした後に、何かを大切そうに抱えて走って戻ってくる。

 彼らが抱えていたもの――それは、見覚えのある絵本たちだった。


「あ……」


 それぞれに本を抱えた子供達が、ずらりと私の前に並ぶ。その中から、あの盲目の少女――ナナリーが一歩、前に進み出て言った。


「ジュリエッタ様……!沢山の絵本を、ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」


 彼女の声に続いて、子供達が揃って頭を下げる。

 私は突然のことに動揺して、あわあわと両手を振った。


「ちょ……ちょっとみんな!顔を上げて!そんなにかしこまることないわ!」


 私の言葉に、子供達は顔を上げたが……どの子も、きらきらした瞳でこちらを見つめていた。


「絵本はほら、この前遊んでもらったお礼としてあげただけなのだもの……!そんな、感謝されるようなことじゃ……」

「わ、私たちみんな、とっても感謝しています!」

「ナナリー……」


 前回会った時にはあんなにも控えめだった彼女は、ぐっと背筋を伸ばし、しっかりと顔を上げていた。


「本当に、本当にありがとうございます!ジュリエッタ様。私たち、こんなに素敵な贈り物を貰ったのは初めてで……!どうしても直接お礼を言いたくて、レイ様にお願いしたんです!」

「……そうだったの」


(マーサの言っていた通りね)

 喜んでもらえて、本当に良かった……と、心からほっとする。


「じゅりえったさま!ぼく、たくさんべんきょうしましゅ!」

「僕も!いただいた絵本で、沢山お勉強します!」

「私も……!」

「ええ。お勉強はとてもいいことよ!頑張ってね」


 わらわらと寄ってきた子供達は、次々にどの本が気に入ったのか、どんなことを知ったのかについて話してくれた。

 しゃがみ込んで彼らの話に応える私を、壁に寄りかかったロロが嬉しそうに見守ってくれている。

 子供達と楽しい会話を交わし、しばらくして……あまり長居しては、と、腰を上げたその時だった。


「ジュリエッタ様……!」


 くい、と袖口を引かれたかと思えば、ナナリーが真剣な顔でこちらを見上げていた。


「どうしたの?ナナリー」


 彼女はぐっと本を握る手に力を込めていた。


「私、沢山沢山勉強します!だから……その、」

「ん?」

「……っ私!ジュリエッタ様の侍女になりたいです!」


 正直、驚いた。

 彼女が懐いてくれているのは大変嬉しいと感じていたけれど……私の侍女になりたいだなんて。

 驚きに言葉を失った私に、ナナリーはくしゃりと顔を歪ませた。


「レイ様から聞きました……。ジュリエッタ様は、とっても偉いお家のご令嬢なのですよね……。や、やっぱり、私みたいな不自由のある孤児じゃ、だめでしょうか……?」

「そ、そんなことないわ!ナナリー、そんな風に思ってもらえて、私、とても嬉しい」

「それじゃあ……!」

「ええ。貴女が沢山勉強して、私の家……ユロメア公爵家の侍女になってくれるのを、私とっても楽しみにしているわ」

「はい……!」


 嬉しそうに笑うナナリーの頭に、レイがぽんと手を置いた。


「じゃあナナリー、名門ユロメア家の使用人試験に合格できるよう、一生懸命勉強しないとな」

「うん、私、頑張る……!」


 微笑ましい彼女の願いに和んでいたから、いつの間にかロロがすぐ隣に来ていたのに気づかなかった。


「ロロ?」


 彼は身を屈め、じっとナナリーを見つめると……やがて、ふむ、と満足そうに頷いた。


「真っ直ぐにリーエのことを思っている。とても純粋で、良い子だな」

「そうでしょう?」


 ロロの言葉に、まるで自分が褒められたかのように嬉しくなる。


「こんな可愛いナナリーが侍女になってくれたら、私も嬉しいわ」

「そうか。……なら」


 言いさして、ロロがそっと腕を伸ばした。彼の長い指先が、優しくナナリーの目元を覆う。


「神獣殿?何を――」


 レイが問いかけた、その瞬間――。

 ふわりとした温かな光が、ロロとナナリーの全身を包み込んだ。


「これは……っ?!」

「ちょっ……」


 レイの驚く声がする中、どんどん眩しくなっていく光の強さに、私は目を閉じてしまい……。

 光が収まったころ、そろそろと目を開くと、ちょうどロロが、ナナリーの目元から手を離したところだった。


「ちょっとロロ!今のはなに――」


 慌てて飛びついた私に、ロロは得意そうに微笑んでいる。


「いや、なに。これほど優秀な侍女志望者ならば、すぐにでも連れ帰れば良いと思っただけだ」

「そうじゃなくて!今の光は一体なんなの?」

「何って、神聖力だが?」

「神聖……えっ?」

「俺の大切なリーエの侍女になるんだろう?そのための障害になりそうなものは、ないほうがいいだろうと思ってな」

「ちょ、ちょっと待って……神聖力、侍女になるため……障害、って」


 はっと思い当たることに気がついて、勢いよく振り返る。

 ナナリーは……彼女を心配したレイとパーシーに挟まれ、呆然としていて。


「……うそ……」


 大きく目を見開き、顔を上げた彼女には――。

 大きな傷跡があったとは思えないほど、滑らかな肌に大きな瞳が、輝いていた。






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