88 ●山科言継
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(1535 12月 ●山科言継視点)
吉田宗忠は幕府お抱えの医員として財をなし、
今では土倉(金貸し)や酒蔵で大きくなった商家の当主である。
私、山科言継は朝廷の内蔵頭として財政を切り盛りしていた。
山科家は家格としては羽林家で、内情は朝廷同様に火の車。
家財や書物を預けて金を借りることもあった。
家業は笙・装束であるが内職で医業もしていたこともあり、
家伝の医学書を写すことで経済的に助けてもらうこともあった。
その吉田宗忠から紹介したい人物がいるから、と
誘われてついていったら、最近作られたばかりの屋敷に連れて来られた。
聞いてみれば土佐一条家の京屋敷だそうだ。
土佐一条家といえば摂家の庶流と言われてはいるが実際は一条家の嫡流であり、
先日、一条房冬様は正二位に叙せられている。
これまたとんでもない屋敷に連れてこられたと思った。
朝廷の財政は武家からの献金で成り立っている。
あくまで献金なので、かき集めるのは大変だ。
ここ数年、一条家からは多額の献金、献上がある。
一条家に大きな収入源があるわけではない。
土佐一条家から膨大な金品が一条家を通して朝廷に流れこんでいるのだ。
昨年の即位式でも一条家の金銭的な貢献度は公家筆頭といってもよかった。
前もって約束があったのか、すぐに奥に通された。
今回、当主となった房基様が京に来られたので
面会の約束を取りつけ、私にも声をかけたのだそうだ。
しばし待っているとまだ子どもに見える男子が入ってきた。
「よくきてくれた。久しいの宗忠」
吉田宗忠がこれに応える。
「おひさしゅうございます。この度はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます」
「さて、初めましてになりますな。山科様。一条房基と申します」
どう見ても子どもなのだが、まとう雰囲気は武家の当主のようだった。
「初めまして山科言継でございます。いつも朝廷へのご支援ありがとうございます」
「臣として当然のことです。今年は無事即位も行われて安堵しております。宗忠、もっとこちらに寄らぬか、話ができぬぞ」
「本日は山科様をお引き合わせしたくまかりこしましたので私はこちらで控えております」
「そう申すな、いろいろと話したいこともあろう」
「身分が違いますれば、ご容赦願います」
「身分? わしは気にせぬ。山科様も気にされぬであろう?」
「私も気にしません。今日は一条様に会わせていただいた身でありますれば」
「・・・・ふむ。私のほうが年下であるし、官位も下だ。山科様には上座に移っていただき、宗忠は私の隣に座ればよかろう、そうしよう。山科様も私のことは[房基]と呼んでくだされ」
そういうと一条房基は近づいてきて、吉田宗忠と私の間にどかりと座られた。
「これで話しやすくなった。山科様には済まないが、まずは宗忠の話を聞いておきたい。
宗忠、問題はあるか?」
「問題ありません」
「酒は?」
「問題ありません」
「船は?」
「問題ありません」
「避難準備は?」
「本当に起こりますか?」
「京に法華の寺はいくつある?」
「・・・・・」
「国破れて山河在り。山科本願寺が燃え落ちるなど誰がそう思った? 法華の寺が燃えぬと思うのは現実が見えていないとしか言えぬ。京に法華の寺はいくつある?」
「21あります」
「その21が全て燃えるとして周囲を含めての被害予想範囲の地図を用意しておくように」
「わかりました」
「以上だ。聞いておきたいことがあれば文を寄こせ」
矢継ぎ早に2人の会話が続いた。
法華の寺と角倉家と一条家の関連がわからない。
素直に一条房基に聞いてみることにした。
「今の話はどういうことなのでしょう?」
「本願寺と法華の争いはまだまだ続く。身近に法華の寺や本願寺の寺があれば避難の道筋や持ち出すものの整理をしておいたほうがよい」
一条房基が強い眼の力でこちらを見据えて答える。
「房基様は我らと見えているものが違います。ですが、言われてみればその可能性は高いと気づきます」
「いざとなればこの屋敷か、北にある山城の一条の別邸を頼ってください」
「もう少し詳しくお聞かせ願えませんか?」
それからしばらくは状況説明と推察と洞察の混じる話が続いた。
まるで武家だ、それもとびきりの軍略家のようだった。
気づいたら土佐一国は平定されていた。いつの間にか
土佐一条は公家ではなく、武家でもない、不思議な家になっていた。
公家の家格は上から
摂家、清華家、大臣家、羽林家、名家、半家
それぞれの家格で最終的な役職上限はほぼ決まっていました、
この時代、関白は摂家の中の持ち回りでした。
山科家の羽林家は最高は大納言までの家格です。
なお五摂家の序列は
近衛家・一条家・九条家・鷹司家・二条家の順になります。
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