7 般若心経
(1525 秋 3歳)
祖父、房家、父、房冬と面談をした翌々日
今度は大広間で人と会うことになった。
上座に当主である祖父、房家。
一段下がったところに父、房冬。
その向かいにお坊様が1人、年配の武士が1人。
房冬「今日は石見寺住職の大覚様に来ていただいた。
もう1人控えておるのは相談役の安並弥忽である。」
大覚「はじめてお目にかかります。大覚でございます。」
安並「安並弥忽です。」
『一条万千代丸でございます。』
房冬「今日お2人に来ていただいたのは、先日話してもらった夢の話を
聞いていただこうと思ったからだ。」
『・・・なるほど、親の欲目かどうか見定めに呼び出されたわけですね。
ご足労おかけして申し訳ありません。』
大覚「見定めるなどと大層な話ではありませぬ。文殊菩薩様のお話しを
是非ともわたしくにもお聞かせ願えればとまかりこしました。」
(侮蔑やあざけりの顔色ではないな、2人ともひとかどの人物のようだ
ただ、あれもこれも話をすると長くなるだけ、ボロもでやすい。
どうしたものか?)
『・・・・お2人とも囲碁や将棋を指されますか?』
大覚「どちらもそれなりにたしなんでおります。」
房家「なぜそのようなことを聞くのだ?」
『文殊菩薩様からいただいたお言葉はわずかなものなのです。
けれども多くの知恵をぎゅうぎゅうに押し込んでいただきました。
何故そうなのか、どうしてそうなるのか、
私自身も根本を説明できないことが多くあります。
例えば、種をまいて芽が出て、実る。
どうしてそうなるのか、説明できないのです。
そうなるとしか知らないのです。』
『囲碁や将棋の話ですが、百の言葉をかわすよりも
1局指しただけで、相手が何を考え、どのような人物なのか
感じることはないでしょうか?
もちろん、深すぎておしはかれないこともありえます。
いかがでしょう、1局指してみませんか?
指しながらなにげない会話をしながら探ってみませんか?』
大覚「おもしろい!、実におもしろい!、是非お手合わせ願いたい。」
安並「拙者も異存ありませぬ。強くはありませぬが拙者は将棋で。」
大覚「では私も将棋にいたしましょうか、」
安並「大覚様お先にどうぞお願いいたします。」
大覚「いえいえ、安並様こそお先にどうぞ。」
『・・・お二人同時にお相手いたしましょう。
お二人ともに互いの局面が見やすいように、大覚様は囲碁で、
安並様は小将棋でいかがでしょう?』
大覚「別々で2面指しですかっ!」
安並「それはあまりにも舐め過ぎではござらぬかっ!」
さすがに2人ともに声に怒りが混じる。
『あらためて言葉にいたしますが、わずか3歳で
囲碁も将棋も指せること自体が異常なのです。
おそらく長い時間はかからないと思っております。
おじいさま、どうか囲碁と小将棋の準備の手配をお願いします。』
(さて、準備が整う間にもこちら主導で話を続けておこうか。)
『失礼なもの言いをして申し訳ありませんでした。
準備が整うまでに、心を落ち着けていただきたい。
怒りの感情は勝負事には禁物ですよね?
ここに来た目的を思い返してください。
私の本質を見定めにきたはずでしょう?
あやかしや物の怪らしくない姿をお見せいたしましょう。』
そういうと、正座していた足をくずし、右手、左手で印を結ぶ。
目を閉じ、深く息を吸い、深く息を吐く。幾度か繰り返した後、
印をとき、手を合わせおもむろに「般若心経」を唱え始めた。
『仏説摩訶般若波羅蜜多心経
(ぶっせつまか はんにゃはらみた しんぎょう)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
仏説摩訶般若波羅蜜多心経
(ぶっせつまか はんにゃはらみた しんぎょう)』
目をあけると2人ともに深く平伏し、身動き一つしないままであった。
大覚はついた手だけでなく体もブルブルと震えているほどだった。
ちょっとハッタリかまし過ぎたかな?
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