69 ●一条雪の1日
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(1534 1月 ●一条雪視点)
朝、目が覚めるとたいてい隣にある房基様の布団はたたまれている。
鍛錬のために中村城まで走っていらっしゃるそうだ。
側仕えの絹に起こされることもあるが最近は自分で起きられている。
旦那様と同じように自ら布団をたたんで旦那様の布団の隣に並べる。
自分でやれることは自分でやる。一条家にはそんな家風がある。
綿が入った敷布団と羽毛が入った掛布団は画期的な品で
房基様に願って、豊後の父と母、兄弟達に送ってもらった。
布団をたたんだら、用意されている着物に着替える。
気配が伝わったのか、絹がやってきて身支度を整え直してくれる。
いつもの朝だ。
昨年の婚礼の後、房基様は慌ただしく戦の準備をし戦に出られてしまわれた。
義母上の玉姫様と、心細い日々を過ごした。
義父上の房冬様や、当主の房家様は
「心配することはない、逆に戦ぶりを見に行けずに残念だ」
などとおっしゃっていた。
1カ月も経たずに本山氏と長宗我部氏を下して帰ってこられた。
一条家の朝食は豪華だ。
五穀の入った米に、味噌の汁もの、米ぬかで漬けた青物、
茹でた卵、これに焼いた魚か肉がついてくる。
豊後にいた頃は少食だったが、こちらに来てからは
食べるモノが皆とてもおいしい。
驚くべきは、房基様が同じ部屋で同じモノを食べること。
そして、房基様の側仕えの方も、私の側仕えもいっしょに食べる。
房基様は
「皆がいっしょに食べるほうが楽しかろう」
とおっしゃる。絹などは恐れ多いと縮こまって食べている。
義母である玉姫様が食べに来られていっしょに食べることもある。
時には房家様、房冬様もいっしょに食べに来られる。
「どれが誰の膳か区別をつけておらん。運ぶ者と並べる者は分けておる。
毒を盛るのは難しい。毒見をしなくてすむから皆が温かい食事ができる。
だから父上も御所様もここに来るのだ。
それに美しい娘といっしょの食事に惹かれるのかもしれぬ」
などとおっしゃる。
食事が終わると義母上である玉姫様に一条家の奥むきのことを
教わる時間がある。玉姫様のご都合が悪いときには
玉姫様の側仕えの方からいろいろと教わる。
公家としてのしきたりなど覚えることがたくさんある。
絹は絹で玉姫様の側仕えの方から更に細かいことを教わっているらしい。
玉姫様はとてもお優しい方で可愛がってくださる。
源氏物語が大好きで、話が止まらなくなるほどだ。
房基様も書物が好きなようで、皆がおもいおもいの書物を読んでいる
静かな時間が私はとても好きになった。
一条家では1日3度の食事を摂る。
昼をまわった頃に2度目の食事がある。
朝食よりも少な目だ。最近、房基様は「麺」にこだわっていらっしゃるそうで
蕎麦の実を粉にして練った黒くて細長い「蕎麦」や
麦の実を粉にして練った白い「饂飩」などを
鰹節のかおる醤油の汁をかけて食べることが多い。
昼食を終えると、房基様と街に出る。
領民の生活を見てまわるのだという。
いっしょに見てまわるために馬に乗るようになった。
房基様は少し小さな馬に一人で乗る。
私は更に小さな馬をあてがってもらって練習している。
街を見てまわるときは家臣に乗せてもらって2人で乗る。
早く一人で乗れるようになりたい。
街に出ると皆が声をかけてくれるのが嬉しい。
もちろん周りは家臣達に囲まれてはいるが見るもの全てが珍しい。
絹をはじめ、豊後からついてきている武士たちは街歩きには猛反対だった。
房基様は
「雪は人形や仏像ではなく「人」だ。
食べているもの、着ているもの、誰かの世話になって生きている。
生かされている。どのように作られ、どのような人に支えられているのか
知るべきであり、感謝するべきなのだ。
これが一条のやり方だ。雪は一条にきたのだから一条のやり方に慣れてもらう」
とおっしゃった。
水車が動いて麦の粉ができるカラクリを見た。井戸で水をくんでみた。
洗濯しているのを近くで見た。石鹸をつくっているところを見た。
工房で瑠璃の器ができるところを見た。
試しに吹いてみたけれどうまくできなかった。
御所に戻ると文を書いたり、書を読んだりして過ごす。
房基様や玉姫様に勧められて日記を書いてみたりする。
夕食は軽いものだ。房基様は家臣や来客と食べられることが多い。
私は玉姫様たちと食事をし、その日にあったことを話しながらすごす。
玉姫様の京のいろいろな話がいつも楽しい。いつか京へ行ってみたい。
房基様が戻られると2人で寝所に移る。
男女の営みはまだない。でも房基様と布団を並べて寝る。
寝る前に房基様が笛を吹く。琵琶を奏でることもある。
それがとても心地よい。土佐に来て私は本当に幸せだと思う。
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