63 ●千利休の土佐日記 後編
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(1533 秋 ●千利休視点)
婚儀前日からは私たちも中村城に宿泊した。
個室があるわけでなく、いくつかの部屋に分かれて寝る。
この時代に転生して初めて柔らかく暖かい綿の敷布団と羽毛の掛布団で寝た。
とんでもない!
翌朝はお膳に白米、あおさの味噌汁、炙った干し魚。
何よりも、削り節ののった豆腐に醤油がかかった小鉢。
泣きながら食べた。嬉しくて切なくて泣きながら食べた。
とんでもない!
婚儀当日というのに朝から房基様がやってきた。
「泣きながら食っているのか? うまいか?」
「うまいです。すごいです」
「味噌と醤油はまだまだだが、豆腐は濃い味でよいものができたと思う」
「うまいです。すごいです」
「ちょっと時間がないが、茶をたててくれ」
「これからですか?」
「花嫁を待たせているんだ、すぐ頼む」
とんでもない! 無茶ぶりだ!
皆が並んで食べている片隅に茶道具一式が置いてあったのが
不思議だったが、最初からそのつもりで用意されていたようだ。
皆の視線がささるなか、なんとか茶をたてる。
「よい点前だった。腕をあげたな。また頼む」
それだけ言うと帰っていった。去り際に小さな声でこう言い残して。
「(これで皆に一目おかれただろう、人脈を広げておけ)」
とんでもない! 周りは豪商ばかりで、子どもは私一人なんだぞ!
結局、何度か茶をたてることになった。
前日に続いて大商談会は続いており、前日から合流した商人たちは
味噌と醤油と布団の担当者に必死に食い下がっていたが
まだ生産量が少なく、一般販売は未定との返答に落胆しきりだった。
婚儀翌日の夕方、皆が城下を見下ろせる場所に案内された。
日が暮れて、あたりに闇が広がる頃に川の向こう側から火の玉が上った。
『ひゅーーーーーー、ドーーーーン!』
花火があがった! 花火があがったのだ!
前世の花火よりも小さく、形も崩れがちで、色も少なかったが
確かに花火だった。あぁ、これが見せたくて呼んでくれたのだ。
なぜかそう思えた。
『ひゅーーーーーー、ドーーーーン!』
『ひゅーーーーーー、ドーーーーン!』
・・・・とんでもない!、火薬の量産に成功していると気づいた。
種子島に鉄砲が伝来したのは確か10年も先のはずだ。
堺が鉄砲の巨大生産拠点になるのは更に10年近く先なのだ。
火薬の供給を握る土佐はこれまで以上の存在になるだろう。
とんでもない!
こうして各地の豪商に茶坊主として名前を売った土佐旅行が終わった。
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