56 婚約進展
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(1533 夏 10歳)
祖父房家から呼び出される。家臣たちはおらず、祖父房家、父房冬の2人だけが待っていた。
「大友家の雪姫を迎え入れる準備を早急にすすめることになった。先方が用意出来次第、秋にも輿入れとなるであろう」
『急な話ですね。あちらが12か14くらいになるまでは婚約したままだったはずでは?』
「2年前、津野との戦のときから話を進めていたのだ。
大友は一条が大内家と結びつきを強めているのをおそれているようだ。
津野との戦を理由に大内、大友双方への兵糧の取引を控えさせてもらっていたが あっという間に津野を下して支配下においたのに驚いていたようだ。
大量に武具防具を購入していることも聞き及んでいてそれらが相手側に流れたり、兵を援軍として送りだすことを警戒しているらしい」
『そもそもこちらにそんな余裕はないのですけどね』
「雪姫を迎えいれたら、その後、お前に家督を譲るつもりだ」
じじいがいきなり爆弾発言かましやがった。
『父上がいらっしゃるのに、そのようなことは無理でしょう!』
父房冬に顔を向けると、父は更に驚くことを言い出した。
「わしは玉といっしょに京へ行くことにした」
『父上、どういうことです?』
「お前を京で育てたかった。身重の玉を京に連れてはいけず、赤子のお前を京に連れてはいけなかった。
3つの時にいきなり文殊菩薩様の話をしてからは嵐のような日々であった。穏やかに育てられずすまぬと思うておる」
『何をおっしゃいます。わがままばかりでいたらぬことばかりです』
「京でしかできぬこともある。公家には公家の戦い方がある。朝廷は魑魅魍魎が跋扈しておる。
房通とともに土佐の窓口として京でお前の力添えをしたいのだ」
「房冬がお前のために京へ行くと言い出した。わしもよくよく考えたがそれが最善手のように思える。わしは中村に残る。幼いお前をあなどる者もいよう。わしが後ろでにらみをきかせてやる。何より、お前の側でお前がどんな世をつくるのか見てみたい」
『まだ早すぎます。まだ早すぎます・・・・』
「早すぎることはない。評定に集まる家臣どもはすでにお前を認めておる。
津野平定で見事な絵を描いた。
本山攻略をどうするのかまかせてみたら、まさか本山と長宗我部を呼びつけるためにわしらを人質に差し出すとは思わなんだ。戻ってきた時の本山の驚いた顔は今でも忘れぬわ」
「長宗我部もお前のことばかり話をしておったわ」
「戦わずして勝つ。わしらには到底できぬと悟った」
「わしにもできぬ。それにお前は知略だけではない。津野攻めの折、お前が預けてくれた兵は皆精強だった。聞けば、お前も訓練に参加し、槍も刀もふるうというではないか。鳶が鷹を産んだのだ、誇らしく思うぞ」
「先日、房冬とともに猿楽の舞台を見に行った。
帰りの道中の道端で民が平伏しておった。
通り過ぎた後ろで、供の武士に何かを渡しておった。
尋ねてみると”よい山芋が取れたので御所様に食べていただきたい”と言っていたそうだ。
立派な山芋だった。短冊に切った山芋に、お前の作らせた鰹節をのせ、お前の作らせた醤油をかけて食した。
うまかった。ほんとうにうまかった。
あぁ、土佐に来て本当によかった、と思えた。
お前が文殊様の話をした後、半信半疑だった。
文殊様に教えを授けられたにしてはお前は知らないことが多すぎる。
だがな、お前に導かれているこの土地の民には笑顔があふれている。わしも笑顔が増えた。
民に賞賛されるべきはわしではない、お前だ。だからお前に家督を譲りたくなったのだ。
受けてくれるな? いや、受けてくれ」
受けるしかなかった。11の秋に結婚が決まった。
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