5 一条房基、覚醒
(1525 秋 3歳)
『一条房基として新しい人生が始まります。』
・・・・・・・・・
目をあけると暗い板張りの天井が目に入った。
ゆっくりと体を起こす。
額から濡れた布切れが落ちた。
手をあげると、小さな2つの手が目に入った。
どうやら転生前の意識が目覚めたようだ。
事前の説明だと今日で満3歳。1525年か。
「あ・え・い・う・え・お・あ・お」
「きゃ・きぇ・き・く・きぇ・きょ・きゃ・きょ」
「しゃ・しぇ・し・しゅ・しぇ・しょ・しゃ・しょ」
ゆっくりと声をあげてみる。
幼児の声、まだ舌もうまくまわらない。
「か・け・き・く・け・こ・か・こ」
「さ・せ・し・す・せ・そ・さ・そ」
気をつけながらゆっくりと言い直すとなんとかなりそうだ。
前世で50年も生きていたから違和感が激しい。
『万千代丸様っ!』
隣で寝ていた女性が大きな声をあげて近づいた。
額に手をあて、ほっ、と一息ついた。
「お熱は下がったようですね。お加減はいかがですか?』
「大丈夫だ・・・のどが渇いた。」
女の名は「竹」、身の回りの世話をしてくれているうちの一人だ。
不思議なことに3歳までの記憶もまた自分の中にあることに気づく。
それからは少し慌ただしくなった。
水を飲まされた後は無理矢理寝かしつけられ、
医師のような中年男に苦い青汁のようなものを飲まされ、
汗だらけの体をふきあげられ、再び寝かしつけられた。
どうやら2日ほど熱にうなされ過ごしていたようだった。
汗のにおい、水の冷たさ、人のぬくもり、
触感、薬湯の苦さ、どうやら本当に転生したようだ。
(さて、これからどうしていけばよいだろうか)
まずは生き抜くことだ。
一人では生きていけない。
信頼できる味方をつくらねばならない。
人間関係の把握、人心の掌握、家督争いを乗り越え、領地開発、外交と戦乱
・・・これを高校生にやらせるのは無理がありすぎるだろう?
腹をくくって俺がやるしかないだろうなぁ。
一条 房基
土佐一条氏3代当主
父:一条房冬、母:玉姫(伏見宮邦高親王娘)
1522-1549
天文18年(1549年)4月12日に自害。理由は不明。
最終官位は従三位右近衛中将兼阿波権守。享年28。
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