172 ●信長と濃姫
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次回更新は12/17(日)
(1549 ●織田信長(15)視点)
元服して織田三郎信長と名乗るようになったのは天文15年(1546)。翌年には今川との戦で初陣を飾り、政務にも参加するようになった。父信秀は古渡城、私は那古野城に分かれて住んでおり、転生者である兄信広は安祥城を任されていた。弟勘十郎(信行)と柴田勝家は共に父信秀の側にいて離れていた。まだ幼い頃に転生者同士で協力して作り上げていたクロスボウや長柄の槍は、私や兄信広の支配下にいる一部の兵のみでの運用にとどまっていた。
父信秀は尾張守護の斯波氏の下にある守護代織田大和氏の庶流で、清洲三奉行の一家から伸し上がりつつある化け物である。尾張を統一している訳でもないのに東の今川義元と争い、美濃守護である土岐氏を支援し、斎藤利政(道三)と争っている。もちろん尾張国内でも守護代や他の奉行とも争っている。その中で朝廷から公家を招き、津島や熱田の港を押さえ、寺社との付き合いも深い。とても跡を継いで同様に出来るとは思えないほど精力的に動いているのだ。精力的といえば兄弟が20人以上いる。父の側室の数はわからないほどだ。
だが、その父信秀の勢いにブレーキが掛かっていた。東では今川・松平の連合軍に敗北。六角氏、朝倉氏と協力して攻め込んだ美濃攻めでは大敗北。尾張内部でも謀反が起こる。なんとか国内は鎮圧するが、状況を立て直すために斎藤利政(道三)と和睦し、私と蝶姫の婚姻が決まった。会ったことはないが、織田・六角・朝倉に攻め込まれて逆に跳ね返すなど、斎藤利政(道三)は父信秀以上に化け物なのだと思った。転生者である斎藤義龍も苦悩しているのではないだろうか。
そんな激動の中で蝶姫との婚儀が執り行われる。これから濃姫と呼ばれるようになるであろう、まだ幼い女性が目の前にいる。きちんと顔を合わせたのが婚礼の夜なのはこの時代ならではなのだろう。
「お前が言うには、前世では男だった、と。今世では好きな相手でなければ抱かれるつもりはなく、仮面夫婦として過ごしていきたい。史実通りに子どもが生まれないままなら、何年か先に離縁して構わない、と」
『その通りです。それに未だ14歳で成長途上の体で出産したくはありませんので、2,3年はセックスレスでいたいと思っています。この時代の感覚ならばそれだけの期間妊娠しなければ離縁の理由にもなるでしょうし、義父信秀殿のように多くの側室を迎えることも出来るでしょう。ハーレムを作ることに反対するつもりはありません』
にこやかな顔をしてはっきり言ってくれる。まぁ、父が父だから複数の側室を迎えることにはなるだろうが、俺もまだ15歳だから跡継ぎのことまで考えるには早過ぎる。
「男らしいサバサバとした性格なのだな。理解ある正室を迎えられて喜ぶと思えばよいのかな」
『わかっていただけで嬉しゅうございます』
にっこり笑う。白い歯が眩しい。白い歯?
「お歯黒はしていないのだな」
『アレは嫌いです。土佐製の歯ブラシを使っています。美濃よりも土佐の方が紙質も良いですが、併せて硯や筆も上質なものが作られているようで、歯ブラシも京や堺などに売り込んでいると聞いています。結婚するに当たり椿油や香り高い石鹸なども贈られました』
「土佐か。一条房基はやり手のようだな」
『この琵琶もどうやら土佐製のようです』
そう言うと先ほどから抱きかかえている小さな琵琶を撫でた。
「弾けるのか?」
『先の嫁ぎ先で学びました。この琵琶は置いて逃げ出したのですが、今回の婚礼の贈答品として届きました。どうやら私の琵琶の師匠は土佐で元気にしているようです』
「何か弾いてくれ」
音を整えた後、奏でられたのは聞いたことのあるアニメの主題歌だった。
『最近、練習している曲です。この琵琶とともに楽譜が数点添えられていました』
「……10年先に生まれたアドバンテージがこれほどあるとはな。父信秀はまだ尾張統一さえしていない。一条房基は土佐と伊予の2国を治めている。三好長慶は京に入った。このままでは差が開く一方だ。正直焦っている」
『ですが、美濃にいる兄斎藤義龍も明智光秀も殿(信長)に協力するつもりのようですし、尾張には何人もの転生者が揃っています』
「兄(信広)も弟(信行)も柴田勝家も離れ離れだ。妹の市もまだ覚醒前だし、もう一人の弟(有楽斎)は多くの弟の内のどの子かさえわからない。俺自身が家督相続するまで後何年も掛かるだろう。それまでは実質一人で道を切り拓くしかないのだ」
『殿は一人ではありません。私が側におります。毎夜会っていても不都合のない間柄です。これから先どうやっていくか相談する時間はいくらでもあります』
「協力してくれるのはありがたい。よろしく頼む」
居住まいを正して深く礼をした。
『私は女として好きなように生きたいのです。そのためには早く戦乱の世を終わらせる必要があります。殿には頑張っていただかねばなりません』
その夜から蝶姫の部屋は討議の場となり、ほぼ毎夜通うことになった。検討する項目を整理するために多くの紙が用意され、転生者同士でしかわからないようなカタカナや単語が列挙されていった。息抜きとカモフラージュの為に毎夜琵琶が奏でられ、楽譜も増えていき、その楽譜もまた偽装に一役買ったのだった。
信長と蝶姫が手をたずさえました。織田陣営の転生者は頭数は多いですが皆まだ若いため実権を持っていない上に離れ離れのままです。
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