雨と蝉の夏に
蝉が鳴き出したら、
待っていたように
雨も降り出した。
山と空の間が
見えなくなるくらい。
蝉に鳴かれたら、
空は困るのかしら。
それとも水が少ないと、
蝉は頼んだかしら。
大人しい雨だった。
偶然の中には
確かな必然があって、
その必然の中には
偶然がまたあるという。
人と人にしてもそう。
雨が降る間の蝉は、
霧のような柔らかな
音色で鳴いた。
濡れた音というのか、
聞こえるかーって。
昔、こんな景色に
いたと思っていた。
そうだったよねって、
雨が呟いてくれた。
皆、一緒だったねって。
こうして始まった夏は、
一人の夏に変わりない。
自然の中に入ろうと、
草木を刈り、土を掘り、
時々、魚を釣りにゆく。
誰かといたはずの夏は、
残りの夏に変わりない。
笑い転げたことも、
泣き疲れたことも、
いつか雨に溶けていた。
必然の中には
煌めきの偶然があって、
その偶然の中には
必然がまたあるという。
夏と夏にしてもそう。
必然と偶然の入れ子。
良くも悪くも宇宙は、
蝉と雨の夏を置いた。
そして考えなくてもいい
その夏を考える人も。
ここに生まれるように、
ここに感じるように、
蝉と雨の夏を置いた。
そして万物が安らげる
その動きを創る詩までも。
この空虚な心の地下に、
丁寧に置いた。
必然として置いた。
そして偶然の声を知った。
この夏から始めよって。