#03 TS少女、初配信!
「はぁはぁ……」
あー、顔が見えなければ大丈夫なんてことは無かった。いや、私の考えが甘かったのかも知れない。今の私は心臓がはち切れんばかりに緊張している。
あの後2週間が経ち、私の所第一次審査を通過した。という、メールが来たのだ。第一次、つまり次があり、第二次審査は事務所で面接を行うとのことであった。あの時、何を言ったか覚えていない。というか喋っていないかもしれない。だから、これは絶対落ちたと思ってた。結果は見事採用。そのメールが届いた時は詐欺やイタズラじゃないか疑った。
画面に映る「6103人が待機しています」という数字は、1000人もいないだろうと思ってた私を瀕死に追い込むには充分な数字であった。
「あ、後、何分……?」
めるライの2期生は私を含め、5人いる。初放送の自己紹介は一人30分で順番に2時間半することになっている。そして私は一番最初。まさかのトップバッターを任されたのだ。
基本的に視聴者は時間が経つごとに増えていく。だから、トップバッターは1番視聴者はが少ないため、マネージャーさんが私の事を考慮して、1番目にしてくれたのだろう。
しかし、私のせいで視聴者が減ったら……などというプレッシャーもかなりある。正直、私は自分が面白いかどうかと聞かれると、否と答える。逆に誰かに私の事でで笑われてると、心のライフが赤ゲージに入るほどの雑魚メンタルである。
放送の開始は20:30からとなっている。時計を見ると放送開始まで3分を切っている。
「もう、時間、ない……」
よし、覚悟を決めよう……
「すぅ……はぁ……」
無理だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
あ、やばいあと1分なのにさっきより精神状態がヤバい!
えぇい! もうノリでなんとかしよう! いや、私それでぼっちになったていう前科が2回もあるじゃないかぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「あっ! もう配信始まってる!?」
【初配信】はじめまして、雛聖愛雛天です【めるライ2期生】
6154人が視聴中
コメント:キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
コメント:始まった!
コメント:始まった!
コメント:キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
コメント:始まった!
コメント:初見です
コメント:私も初見です
コメント:初見なのは当たり前だろww
私は慌ててミュートを解除した。
ここからどうすればいいんだろう?!
コメント:まだー?
コメント:まだー?
コメント:まだか?
コメント:1分経過
コメント:初配信から放送事故か?
コメント:まだー?
もう2分経ってる!? 30分という時間は長いようで意外と短い。 だから、たった2分の時間も大切にしなければいけない
早く、何か言わなきゃ……とりあえず挨拶を。
「こ……」
コメント:こ?
コメント:こ?
コメント:こ?
コメント:こ?
「ここ、こここ、こここここ……」
コメント:なんだなんだ
コメント:おい大丈夫か?
コメント:落ち着いて
コメント:落ち着け
コメント:落ち着け
コメント:もちつけ
緊張し過ぎて「こ」の次の「ん」が口から出てこない。
コメントで「落ち着け」と言われるが、私は止まらない。
「ここここ、ここここここ、ここここここコケーッ!?」
コメント:コケーッ?!
コメント:コケーッ?!
コメント:コケーっ?!
コメント:ww
コメント:うるせぇw
コメント:あ、鼓膜が
コメント:どうしたどうした
コメント:大丈夫か?
コメント:何があった
「こんにちは」と言おうとしたが、私は緊張のピークに達してしまい、鶏のような叫び声をあげてしまった。
「はっ! あわわ、えっと、こんにちは! 初めまして! 雛聖愛雛天といいます。あ、めるライの2期生です!……よし、言えた」
コメント:慌ててるのかわいい
コメント:あたふたしてるのかわいい
コメント:かわいい
コメント:かわいい
コメント:かわいい
コメント:最初の「コケーッ!?」からの小声での「よし」のギャップがやばい
コメント:1人目から濃ゆいなww
先程叫んだ反動か、緊張が解れ、今度は途切れ途切れだが、言うことができた。
「さ、先程は叫び声をあげてしまい、申し訳ありません、でした」
コメント:ええんやで
コメント:ええんやで
コメント:落ち着いた?
コメント:素直に謝れてえらい
コメント:可愛いから許す
コメント:まだ緊張してる?
「ありがとう、ございます。皆さんが優しい人達で、良かったです。思っていたより多くて、怖くて……」
コメント:怖くないよー
コメント:怖くないよー
コメント:怪しくないよー
コメント:↑怪しい
コメント:BGM無いの?
コメントで言われて、音楽が流れてないことに気づく。
「あ、ごめんなさいごめんなさい。えっと、これかな?」
EDとして使う予定だった音楽が流れる。
「あーっ! 間違えた。これEDのやつだ! こっちかな? はい、こっちです」
コメント:もう配信終わりかw
コメント:開始5分で終了
コメント:↑早いww
コメント:この曲好き
コメント:この子は良い素材を提供してくれそう
コメント欄でネタにされている。うぅ……
ここまででもう5分使ってしまっているため、少し急ぐ。
「では自己紹介、したいと思います。
えーっと、名前は雛聖愛雛天。年齢は人間でいうと女子高生くらい。天界でいつも一人ぼっちで、友達が欲しくて下界に降りてきた穢れなき天使、です。好奇心旺盛な割に、とても臆病で、自ら寄って来るが、目が合ったりこちらから近づくと空へと逃げ出してしまう。
※とても傷つきやすい繊細な子なので取り扱い注意、です……あれ? これ、まんま私じゃん」
コメント:ずっと下向いてるw
コメント:カンペ読んでるなこれww
コメント:カンペそのまま読んでるの草
コメント:最後が素が出てて草
コメント:草草の草
コメント:草
私の設定文は今日送られてきていたことに配信前に気づいたため、まだ読んでいなかった。設定というより、完全に私のことを言っているのだけど……
何か演じることになると思いますって、マネージャーの人に言われてたのに……
「あれれぇ? おかしぃぞ?」
コメント:ぶふぉww
コメント:突然の声マネw
コメント:急に名探偵出てくるなww
コメント:似てて草
コメント:上手いんだがww
いつもの癖で声真似でつっこんでしまった。
「あっ、うっかり……ごめんなさい……」
コメント:ええんやで
コメント:ええんやで
コメント:ええんやで(3回目)
コメント:もっとやって
コメント:他に何かできるん?
コメント:他にあるなら聞きたい
「え、はい。じゃあ、やらせていただきます」
お私は大きく息を吸う。
うっ……いつもは1人の時にしてるから、また緊張してきた……もう、一回やってるんだ。頑張るんだ私……
今から言う台詞は某田舎日常アニメの挨拶である。
「にゃんぱすー」
コメント:にゃんぱすー
コメント:にゃんぱすー
コメント:似てる
コメント:似てる
「どうですか? あんまり自信ないんですが……」
コメント:上手いよ
コメント:上手い
コメント:上手い
コメント:上手だった
コメント:自信もって
コメント:もっとやってほしい
コメント:もっとやって
私の声マネに対するコメント欄の反応はとても良かった。アンコールを唱えるコメントもあるが、そろそろ次にいかないと、時間がやばい?ゆばい?
「ごめんなさい、声マネはまた別の機会にやらせてもらうということで、配信前に募集していたマシュマロを読んでいきたいとおもいます。
まずは一通目です」
彡□[VTuberになった理由は何ですか?]
「VTuberになった理由ですか。やっぱり友達が欲しかったからです。私、コミュ障なので……昔は、少しだけなら会話できてたんですけど、今は全く喋れなくてなってて……このままじゃマズイなと思ったんだですけど、中々最初の一言が出てこなくて……」
コメント:めっちゃ共感した
コメント:涙でそう
コメント:あっ、目から汗が…
コメント:つハンカチ
コメント:俺が落ちた理由が分かったかもしれない…
「そこで、2期生募集っていうのを見て、これだ! と思ったんです。でも、あの時のことは気の迷いだったと思ってます」
コメント:涙止まった
コメント:涙腺が崩壊しかけたけど、なんか元に戻った
コメント:草
コメント:草
「次のマシュマロいきたいと思います」
彡□[初めまして。尊敬する先輩っています?]
「尊敬する先輩は風馬先輩ですね」
コメント:風馬は草
コメント:あいつの尊敬するポイントが分からんのだが
コメント:なんで風馬なの?
コメント:ただの厨二病だぞ?
「厨二病だから尊敬してるんですよ。あんな堂々と羞恥を晒せるメンタルを私も見習いたいです」
コメント:なるほどw
コメント:納得w
コメント:あのメンタルはワイも見習いたいww
コメント:よく風馬はあんな恥ずかしい台詞言えるよな
コメント:貶してるのか褒めてるのかw
コメント:たし蟹
「け、貶してなんかいませんよ?! そんな恐れ多いこと……」
いや、本当に貶してなんかいなからね。ただ、褒める所がある意味残念な部分だっただけで。
あれ? これ普通に貶しちゃってる? んっ、気のせいにしておこう! だって怖いもの!
「では次のマシュマロいきます」
彡□[初めまして。相談したいことがあります。
僕は好きな人がいて、その人に告白がしたいです。でも、突然告白されても相手が困りそうなので、まずはデートに誘いたいんですが、どう誘えばいいんでしょうか?]
「えぇ、普通に誘えばいいんじゃない? ……ごめんなさい、友達さえいない私には誘い方とか分からないです」
コメント:なぜこれ選んだし
コメント:何故言ったし
コメント:そもそも恋愛相談するのが場違いな希ガス
コメント:↑それな
コメント:草w
本当に何でこれ選んだのかな? それに、普通に誘うってなんだ?
「普通に誘うってなんだと思いますか?」
コメント:哲学
コメント:「デートしよう?」とか?
コメント:分かんねぇ
コメント:普通…普通ってなんだ?
コメント:コメント欄は混乱している
考えれば考えるほど分からなくなってきた。
コメント:もう30分経ってるけど大丈夫なの?
「え? あ……」
配信開始から既に30分が経っていた。つまり、次に配信する同期の配信が開始する時間である。
タグとかファンネームとかまだ全然決まってないのに……!!
「あわわわわ、ど、どうしよう?!」
ピロリン♪
メールが来た。マネージャーからだ。
『10分延長しますので、落ち着いてタグなどを決めてください』
「マネージャーの人からメールが来て、10分延長してもらえるとのことです。なので、タグとか決めていきましょう!」
マネージャーさんには迷惑をかけてしまった。後で、謝罪のメールを送ろう。
それから、コメントで色々案を出してもらった結果、配信タグは『#ひななま』、イラストタグは『#ひなーまーと』、ファンネームは『#親鳥』となった。
最後に次に配信する慈棘御棘さんへとパスを渡し、配信を終了した。
「疲れたぁ……」
緊張の末に叫んだり、配信を延長させてもらったりと、色々やらかしたりしたが……後半の方はいつの間にか普通に喋れていて、最終的には初配信は上手くいった、と思う。結果よければ全てよし! あ、忘れないうちにマネージャーの人に謝っとこう。
なんか今までで一番力を振り絞った気がする。いつもは11時くらいまで起きているのだが、今日はとても眠い。
そのまま、私はベッドに潜り込む。
「はぁ、でも結構楽しかったなぁ……」
あー眠い。おやすみぃ……zzz……
ちなみに、この配信を見てる1期生はゆかりんだけです。コメントを打たなかったのは、しるるが緊張し過ぎてしまうからと、運営に止められた。
小飴ゆかり
めるへんライブ1期生
桃髪ツインテールの美少女。
めるライを引っ張るリーダー的存在。偶に壊れる。
10万人突破記念の衣装は飴模様のフリル
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