表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夜の学校に消えた子供たち

作者: ウォーカー

 これは、小学校の先生をしている、ある男の話。


 都会の住宅地にある小学校。

一日の授業が終わり、外が暗くなってきた頃、

生徒の親たち数名が職員室に集まっていた。

理由は、行方不明の子供たちの捜索。

今日の授業が終わって、もうすぐ夜になるというのに、

連絡もなくまだ帰宅してしない生徒が、5人もいるという。

親たちは、子供が寄り道しそうな場所を探したが、

子供たちは見つからず、

あとは学校の校舎の中くらいしか、心当たりの場所が無かった。

そのため、生徒の親たちは、

学校の校舎の中に子供たちが残っていないか確認して欲しいと、

その小学校の職員室にやってきたのだった。


 職員室に集まったのは、

行方不明になっている5人の生徒の親たち、

それと、学校に居残っていた先生たち数人だった。

その先生たちを代表して、

初老の柔和そうなお爺さんが、生徒の親たちの応対をしている。

そのお爺さんが、その小学校の校長先生だった。

生徒の親たちと話し終えて、校長先生が他の先生に説明をする。

「今日、授業が終わってから、

 まだ家に帰っていない生徒が5人、いるそうです。

 ここに集まった親御さんたちが、

 他の場所を探したそうですが、見つからず、

 残る心当たりは、この学校の校舎の中だけです。

 今ここにいる私を含めた先生方で、学校の中を探そうと思います。」

その話を聞いて、先生たちがひそひそと話し始めた。

「夜の学校に人がいるかもしれない?

 またその話か。」

「今日は実際に子供が帰宅していないのでしょう?

 今回は、見間違いでは無いと思うわ。」

先生たちが話をしているのは、

近頃この学校に度々通報される、ある出来事についてだった。


この小学校では、先生も生徒も帰宅した後の夜遅くに、

校舎の中に誰か人が侵入しているという通報が、しばしばあった。

学校の中に明かりが点いている部屋があって、

そこに人影が見える、というのがその通報の内容だった。

しかし、確認してみても誰も見つからず、その原因は分かっていない。


先生たちのひそひそ話に、

校長先生は頷いて、確認するように話した。

「みなさんのおっしゃる通り、

 近頃しばしば通報を受けている、

 夜遅くにこの学校の校舎の中に人が入り込んでいるという話と、

 今回の出来事が、関係してるかもしれません。

 もしかしたら、

 子供たちが夜の校舎に忍び込んで、

 遊んでいるのかもしれませんね。

 何か事故が起きてしまう前に、原因を突き止めましょう。」

校長先生の話に、先生たちが頷いた。

「では、手分けをして、校舎の中を探すことにしましょう。

 親御さんたちは、この職員室で待機していてください。

 この学校の校舎の中なら、私たちの方が詳しいですから。」

「ご迷惑をおかけしますが、よろしくおねがいします。」

集まった生徒の親たちが頭を下げた。

そうして、その学校の先生たちは、

夜の学校の校舎の中に子供が入っていないか、

手分けをして探すことになった。

そして、その男も、

先生の一人として見回りに参加していた。


 その男は、

日が暮れて暗くなった学校の校舎の1階で、

懐中電灯を片手に見回りをしていた。

その顔には、疲れた表情を浮かべている。

「今日はもう帰るところだったのに、仕事が増えてしまった。

 でも、

 夜の校舎に入ってみたいって子供たちの気持ちは分かるな。

 僕も子供の頃、友達たちと一緒に、

 夜の学校の校舎に入り込んだことがあったっけ。」

その男は、しみじみと思い出に浸っていた。

「あの時の僕は、

 先生に見つかって、こっぴどく叱られたなぁ。

 そんな自分が今、こうして先生をしているなんて。

 それもこれも、

 子供の頃の学校が楽しかったからかも知れないな。

 でも実際に先生になったら、つらいことばっかりだ。

 最近、最後にちゃんと休みが取れたのは、何週前だったかなぁ。」

その男は、ため息をついた。


 その男は、懐中電灯と鍵束を持って、

真っ暗な学校の校舎の廊下を進んでいる。

廊下には、教室の窓が並んでいるが、

どれも真っ暗で、中に人がいる気配はない。

それでも、子供が隠れているかもしれないと、

その真っ暗な教室の中を、ひとつひとつ確認していく。

教室のドアの鍵を開けて中に入り、明かりを点ける。

「誰か、いるか?」

そう声をかけてみるが、返事はない。

念の為、教室の中を確認する。

生徒の机の下、教卓の下、掃除道具をしまうロッカーの中。

などなど。

そうしていくつかの教室を確認したが、どこにも子供の姿は無かった。


 その男が、いくつ目かの教室の中を確認していた時。

ふと視界の隅に、何かが動く気配がした。

「なんだ?

 今、何かが動いた気がしたんだけど。」

今いる教室の中を見回してみる。

しかし、

右を見ても左を見ても、気配の元は見つからない。

何かがおかしい。

教室のカーテンを開けて、窓の外を確認する。

その教室の窓からは、

L字型になっている校舎の、別の棟にある教室の窓が並んでいるのが一望できる。

その並んでいる教室のひとつで、窓から明かりが漏れているのが見えた。

上の方にあるその窓には、小さな人影がいくつも映っていて、

子供たちがその教室の中で遊んでいる様子が分かった。

「なんだ。

 子供たちは、あの教室にいたのか。

 あの階の教室は、どの先生が見回る予定だったっけな。

 まあいいか。

 人影が見えるあの教室に行こう。

 ぐずぐずしていたら、

 誰かが見回りに行く前に、移動してしまうかもしれない。」

明かりが点いていて人影が見えたのは、

位置的に、4階にある理科室のようだった。

そうしてその男は、4階の理科室に向かって移動することにした。


 人影が見えた理科室を目指して、

その男は、階段を上がって4階にたどり着いた。

すると、廊下の先から、

子供たちがきゃっきゃと遊ぶ声が聞こえてきた。

「子供たちの声が聞こえる。

 この先に子供たちがいるのは間違いない。」

その男が廊下を進むと、やがて、

廊下の端の柱の陰に、子供が隠れているのを見つけた。

子供は頭だけを柱の陰に隠していて、体は丸見えだった。

その男は、

子供のそんな不完全な様子に、内心微笑ましく思いながらも、

先生として叱らなければならなかった。

「こら!

 そこに隠れているのは分かっているぞ。

 出てきなさい。」

その男に叱られて、隠れている子供はビクッと体を震わせた。

それから、観念して姿を現した。

「ちぇっ。

 もう見つかっちゃったか。

 学校の廊下じゃ、隠れられる場所が少なすぎるよ。」

その子供は、確かにこの小学校の生徒だった。

反省していない様子に、その男は腰に手を当てて叱る。

「こんなに夜遅くに、学校の中に入ったらだめだろう。

 親御さんが迎えに来てるから、先生と一緒に来なさい。」

「はーい。ごめんなさい。」

見つかったその子供は、大人しくその男に従った。

そうして子供を連れて廊下を進むと、

今度は、

傘立ての影に、子供が隠れているのが見えた。

その子供は、傘に擬態しようと、必死に体を固くしていた。

そんな姿に、その男は吹き出しそうになりながら、口を開いた。

「そんなところで何をしているんだ。

 夜遅くに、勝手に学校の中に入ったらだめだろう。

 一緒に来なさい。」

「はーい。

 やっぱり、廊下だけじゃ隠れられる場所なんて無いよ。」

そうしてその男が、

子供たち2人を連れて、学校の校舎の中を歩いていると、

ばったりと校長先生に出くわした。

校長先生が、向けていた懐中電灯を下げて、声をかけてきた。

「おや、先生。

 先生も子供たちを見つけましたか。

 私もさっき、そこの廊下でこの子たちを見つけたのですよ。」

校長先生の後ろから、子供たちが顔を覗かせて、

その男が連れていた子供たちと、言葉を交わす。

「なんだ、お前たちも先生に見つかっちゃったのか。」

「うん。

 やっぱり、学校の廊下だけじゃ、すぐ見つかっちゃうよね。」

「仕方がないよ。

 僕たち誰も、教室の中には入れなかったんだから。」

校長先生が子供たちの頭を撫でて、話を続ける。

「ところで、

 4階は私の担当ではありませんでしたかな。」

「向こうに人影を見かけたので、探しに上がってきたんです。」

見ると、校長先生が連れている子供は3人。

その男が見つけた子供は2人。

つまり、

探していた子供5人全員が見つかったことになる。

その男と校長先生は、顔を合わせて笑顔になった。

「5人の子供が集まりましたね。

 これで、いなくなった子供5人全員、見つかったことになります。」

「ええ、無事で良かったですよ。

 それでは、職員室に戻りましょうか。」

そうして、その男は、

校長先生と、探していた子供たち5人と一緒に、

職員室に戻るために廊下を引き返していった。


 その男は、校長先生と一緒に、

5人の子供たちを連れて職員室に戻った。

そこには、他の先生たちが既に戻ってきていた。

職員室で待機していた親たちが、子供の顔を見て叱り飛ばした。

「こんなに夜遅くに学校に入り込んで!

 みんなに謝りなさい!」

「ごめんなさい。」

「まったくもう!

 先生方、今日はご迷惑をおかけしました。」

夜の学校でかくれんぼをしていた子供たちは、

親にこっぴどく叱られてしまった。

それから、

親子で先生たちに頭を下げて、帰宅していった。

子供たちが帰るのを見届けてから、先生たちはほっと一息ついた。

校長先生が、柔和そうな表情で先生たちに話しかける。

「夜も遅くなってしまいましたね。

 ともかくも、みんな無事で良かったですな。」

「はい。

 事故や怪我がなくて、本当に良かったです。」

「近頃あった、

 夜に人が入り込んでいるって通報は、

 きっと子供たちが原因だったのでしょうね。」

「これでやっと、我々も帰宅できますね。」

「ああ、そのことなのですが・・・」

校長先生が、言い辛そうに口を開く。

「子供たちがまた校舎の中に入り込まないように、

 しばらくは、宿直の先生がいた方が良いと思うのです。

 急な話で申し訳ないのですが、

 早速、今日から交代で宿直をやってもらいたいのですが・・・」

先生たちが顔を見合わせる。

宿直というのは、

学校に泊まり込みで番をすること。

この学校では、もうずっと前に廃止されていたものだった。

仕事を増やされることを嫌がる先生たちに、

校長先生が顔の前で手を振って話を続ける。

「いやいや、宿直勤務とは言っても、

 実際はただ寝泊まりするだけで良いですから。

 宿直室には、布団もテレビもありますし、

 電話の番だけして貰えれば、

 あとはただ泊まってもらうだけでいいんです。

 それだけでも、防犯上は十分に役に立ちますから。」

泊まるだけで良いとは言われても、

急に学校に泊まり込みなんて、やりたがる先生はいない。

先生たちはみんなうつむいて、上目遣いにお互いの様子を伺う。

そうして先生たちの間で視線が行き来して、

その男に視線が集中した。

それを確認して、校長先生が口を開いた。

「では、一番若い先生。

 今日の宿直をお願いしますね。」

「・・・はい、わかりました。」

みんなの視線に押されて、その男は宿直を断ることが出来なかった。


 その男は、宿直勤務を言い渡され、

学校の宿直室で、一人泊まり込むことになった。

他の先生達が帰って、宿直室で一人っきりになって、

その男は早速不満をぶちまけた。

「まったく。

 一番年下だからって、何で僕がこんな目に。

 ただでさえ最近は、ろくに休みも取れてないっていうのに。」

小さなテーブルに頬杖をついて、つまらなそうにテレビを見ている。

「ただ泊まるだけで良いとは言っても、

 テレビしか無いような宿直室で寝るだけなのも退屈だな。

 ・・・ちょっと、学校の中を見回りしてみようか。

 気になることもあるし。」

退屈したその男は、懐中電灯と鍵束を持って、

深夜の学校の校舎の見回りに出かけた。


 深夜の学校の見回り。

その男が向かったのは、学校の校舎の4階だった。

子供たちの話を聞いていて、気になることがあったからだ。

「考えてみると、疑問があるんだよな。

 子供たちの話と、僕の目撃情報と、食い違いがある。

 ちょっと整理して、考えてみよう。」

その男は、真っ暗な学校の廊下を歩きながら、

今日の出来事を振り返ることにした。

「子供たちを探している時に、

 4階の教室に明かりが点いていて、人影が見えた。

 それを確認しに行く途中で、僕は子供を2人見つけた。

 そのすぐ後で合流した校長先生は、子供を3人連れていた。

 探していた子供は5人だから、これで全員見つけたと思って、

 僕は校長先生と一緒に職員室に戻った。

 実際に、親御さんたちも確認して、子供たちと一緒に帰っていった。」

そこまで思い出して、その男は首を捻った。

「それじゃあ、

 4階の教室に見えた人影は、誰のものだったんだ?

 場所から考えて、あの教室は理科室だろう。

 でも今は、あの教室が何の教室なのかは無関係だ。

 学校の教室には全て、鍵がかかっていたのだから。

 現に僕は、

 どの教室を調べる時にも、鍵を開けて中に入った。」

ここで、子供たちの話を思い出す。

「見つけた子供たちは、こう言っていた。

 廊下だけじゃ、隠れられる場所が少なすぎる、って。

 この話の通りなら、

 かくれんぼをしていた子供たちは、廊下にしか隠れていなかったはず。

 鍵を持ってないのだから、教室には入れなかったのだろう。

 もしそうなら、4階の理科室の窓に映った人影は、

 子供たちのものでは無いことになる。」

別の可能性についても考える。

「あるいは、別の可能性もあるだろうか。

 子供たちの話とは食い違うけど、

 もしも、子供たちが、

 何らかの方法で理科室の中に入っていた場合。

 その場合は、理科室の中に隠れている子供がいることになる。

 でも、僕は人影が見えた理科室に辿り着く前に、

 子供たち5人全員を見つけられた。

 この上、理科室に隠れている子供がいたとしたら、

 子供たちの人数が合わなくなる。」

そうしてその男は、ある仮説に行き着いた。

「もしかして、

 学校の校舎の中には、

 6人目、あるいはもっと多くの子供がいたのか?

 そうでないと、

 人影が見えた理科室にたどり着く前に、

 5人全員の子供が見つかったことの説明がつかない。

 もしそうなら、その子供は今どこでどうしているんだ?

 親御さんが迎えに来ない理由は?」

そんなことを考えている間に、4階の理科室が見えてきた。

廊下に面した理科室の窓からは、煌々と明かりが漏れていた。

「・・・理科室の明かりが点いている。

 誰かの消し忘れか?」

理科室の窓から漏れる明かりが、静かで真っ暗な廊下の床に広がっている。

そこには、

きゃっきゃと楽しそうに遊び回る、子供たちの人影だけがあった。

「やっぱり、理科室に誰かいるな。

 いなくなった子供は5人のはずだったんだけど。

 もっと多くの子供が、この学校の校舎に入り込んでいたんだ。

 多分それが、最近の通報の原因だったんだろう。」

理科室の前までたどり着き、窓の中を覗く。

相変わらず、理科室には明かりが点いたままになっている。

しかし、その中には、誰の姿も見当たらなかった。

足元を見ると、今さっきまであった人影は、影も形も無くなっていた。

「おかしいな。

 今まで人影が見えていたのに。

 どこかに隠れたのか?」

その男が、理科室のドアの鍵を開けて中に入る。

そして、姿が見えない相手に向かって、声をかけた。

「誰かいるのか?

 こんなに夜遅くに学校にいたらあぶないから、出ておいで。」

しかし、その男の呼びかけに応える者は誰もいない。

机の下など隠れられそうな場所を確認するが、やはり誰の姿もない。

「・・・誰もいないな。

 この他に、人が隠れられそうな場所と言ったら、

 隣の理科準備室だけど。

 でも、そっちにも鍵がかかってるはずだ。」

念の為に、理科準備室に通じるドアのノブを回すと、

そこにはしっかりと鍵がかけられていた。

しかし、そのドアの小窓からは、明かりが漏れていた。

理科準備室の明かりが点いている。

そして、

その明かりの中で、じっと動かない人影が見えた。

「理科準備室の明かりが点いている。

 人影が見えるし、

 人がいるのはこっちみたいだな。」

その男は、理科準備室の鍵を開けて、ドアを開けた。


 その男は、鍵を開けて理科準備室に入った。

外から見えていた人影は、戸棚の向こうから伸びていた。

すぐそこに、その人影の主がいるはずだ。

その男は、喉をごくりと鳴らして、戸棚の裏を覗いた。

するとそこには、裸の男が立っていた。

「う、うわっ!?誰だ!」

落ち着いて、その男の姿を確認するまでもない。

それは、理科の授業で使う人体模型。

理科準備室にあった人影は、人体模型の影だった。

それが分かって、

その男は、体の力が抜けてへたり込みそうになった。

「なんだ、人体模型か。

 脅かさないでくれよ。」

そう毒づいてから、物言わぬ人体模型の頭を軽く小突く。

それから、理科準備室の中を見渡す。

机の下や大きな戸棚の中を確認するが、やはり誰もいなかった。

「理科準備室の方にも、誰もいないな。

 人が隠れられる場所は、もうここしか無いと思うんだけど。」

そうして、戸棚の中に頭を突っ込んだり、

カーテンの裏を確認したりしていて、

その男は気が付かなかった。

自分の背後。

床に映った人体模型の影。

その人影だけが、ぶるっと震えて動き始めていた。

それだけではなく、隣の理科室の床に映った机などの影。

その影の中から、

子供の形をした人影たちが、染み出すように床に現れ始めていた。

もちろん、

理科室にも理科準備室にも、その男以外に人はいない。

主のいない子供の人影だけが、

意思を持ったように、静かに動き始めていた。

子供の人影たちは、お互いに集まって手を繋ぐと、

開けっ放しになっていたドアから、理科準備室に滑るように移動していく。

そうして人影たちは、戸棚を調べているその男の背後に近付いた。

その男は戸棚に頭を突っ込んでいて、それが見えていない。

「やっぱり、誰もいるわけがないよなぁ。

 さっきの人影は、やっぱり見間違いかな。

 誰かが明かりを消し忘れて、

 それで出来た人体模型の影が、人影に見えたんだろう。

 まったく、ただのくたびれ儲けだった。

 あ~あ、もう宿直なんて放り出して、

 僕も子供たちみたいに遊んでいたいよ。」

背後に迫った人影たちに気が付かず、

そんな事を口にした時。

その男の耳元で、子供の声が聞こえた。

「じゃあ、ぼくたちと一緒に遊ぼ?」

背後で、子供たちの人影が、その男の影にそっと触れた。

子供たちの人影と、その男の影とが、手を繋ぐような形になった。

その途端。

その男の体は、

何かに捕まえられたように、動けなくなってしまった。

そして、動けなくなったその体から、

影だけが、すぅっと抜き出されていった。


 日が昇って朝になって。

早起きな校長先生が、

その男が泊まっている宿直室を訪れた。

ノックしてドアが開かれる。

「先生、おはようございます。

 昨夜は宿直、ご苦労さまでした。」

校長先生が、朝食の差し入れを持って、宿直室の中を覗いた。

宿直室の中は、

カーテンが引かれて薄暗く、テレビが点けっぱなしになっていた。

布団が敷かれていて、そこにその男が寝ている様子が見える。

テレビの明かりに照らされたその顔は、

何かに驚いたように目を見開き、口を開けたままになっていた。

しかし、

少し離れた場所から見ている校長先生は、それには気がついていない。

「先生?」

校長先生が呼びかけても、その男はピクリとも動かなかった。

「・・・よく眠っている。

 きっと、急な宿直勤務で疲れているのでしょうな。

 起こすのは気の毒だ。

 もう少し寝かせておいてあげよう。」

校長先生は、差し入れを宿直室の入口に置くと、

静かにドアを閉めて去っていった。

しかし、

それからいつまで経っても、

その男は二度と目覚めることは無かった。


 その小学校では、

今でもたびたび、夜に人影が目撃されている。

しかし、

何度調べてみても、そこには誰も見つからないという。

そうして今夜もまた、

その学校の理科室に、人知れず明かりが点いている。

そこでは、

楽しそうに遊び回る子供たちの人影に混じって、

大人の人影が、静かに佇んでいた。



終わり。


 夜の学校の校舎に人影が見えるという怪談に、

少しでも推理要素を入れたくて、この話を作りました。


お読み頂きありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ