どんな魔法でも、人の心を自由には出来ない@人間サイド
竜族の襲撃から3日。
瓦礫をどかす音や、男たちの掛け声が木霊する。
都の復興が始まったのだ。
そんな中、魔女アビーはベットに横たわり、物思いに耽っていた。
仮にも大臣で有る身。
有事に姿を見せないことがどれだけ不利になる事か。
分かっていながらも病気と称して引きこもざるを得ないのだった。
竜公女セーラとの決闘の光景が心から離れない。
勝てなかった。
勝てると思っていたのに。
挙げ句、自分が殺そうとした男に助けをすがる。
(みじめ……)
イビーはすすり泣く、何度目になるか分からない。
金銀・財宝・地位。
他人からの称賛、尊敬。
自分が欲しかったのは、そんなものだろうか。
違う。
自分に自分を認めて欲しかった。
いや、許したかったのだ。
自分には生きる価値が有ると
イビーは自身の魔力を確かめる。
衰えてはない。
世界最高峰だ。
魔王と打ち合う、人間の粋を超えた力。
並ぶものなど、いよう筈も無い。
途端に、心が曇る。
これでも勝てない、手に入らない。
(それに……)
最後に現れた男、シドーの心が気にかかる。
世界会議で見かけてからずっとだ。
一度目は忘れようとした。
彼が生きているという現実が怖かったから。
復讐されるのが怖かったから。
見間違いだと、自分を納得させようとしたのだ。
幸い、その後の消息は聞かなかった。
二度目は、より一層の恐怖が襲ってきた。
殺した筈の男が魔王として復活する。
復讐される恐怖。殺される恐怖。
だが、それだけではない。
彼はまだ、自分の事を仲間だと思っているのでは?
その疑問が心から離れない。
殺そうと思えば、殺せた筈だ。
都を滅ぼす事も。
でもそうしなかった。
竜公女を都から引き離し、自分たちと都を救ったように見えた。
より、相応しいときに復讐する為、敢えて引いたのか?
いや、シドーはそんな事を思いつく男ではない。
彼は自分たちを救うために姿を見せたのだとしたら?
そうすれば辻褄が合うのだ。
自分は、彼に何をしたのだろうか。
罪の意識。
イビーの心を縛り、身動き出来なくさせているのは、罪の意識だった。
どんな魔法でも、人の心を自由には出来ない。
自分の心すら……
その時、遠くからどぉーん、どぉーん。
と城壁を叩く様な音が聞こえた、
違う。
扉を叩く音だ。
イビーは自室の扉に何重にも防御結界を張っていた。
他人が中に入ってこられない様にする為だ。
突破できるのは、世界広しといえど、
十指に入る実力が必要。
(まさか……)
イビーはとある男の顔を思い浮かべる。
杖を取り出そうとして止めた。
殺されて当然の事をしたのだ。
それに、今の苦悩から解放されるのなら、死も悪くないと思った。
音がだんだんと近づいてくる。
イビーは覚悟を決めた。
どりゃああ。
怒鳴り声と共に、巨漢が1人なだれこんでくる。
「なんだ、なんだ、こんな所に引きこもりやがって!」
バトーだった。
イビーは残念に思う中、どこかホッとした気持ちが浮かんだ事に驚いた。
「おい、修行に付き合えよ! 別にベッドでの運動でも構わんがな、ガハハ」
バトーは豪快に笑う。
相変わらず、デリカシーも何も感じられないが。
今は却って頼もしい。
「貴方がいると、悩むのが、馬鹿みたいに思えてくるわね」
イビーはクスりと笑った。