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大賢者の作戦

 「うう、理不尽ニャ」

「何で私達まで」

スズとユズの姉妹は会議室で不平を漏らしていた。


「ごめんな、とばっちりに巻き込んで」

とシドーは申し訳無さそうな顔をする。


朝っぱらからランが小一時間説教を始めたのだが、

不運にも2人はそれに巻き込まれてしまったのだ。

曰く、四天王としての自覚が足りないだの、

人に対する仕置が甘いだの。


「それより、あの幸せそうな面で寝ている人」

2人はステラに視線を送る。

朝からあれほど説教されたにも関わらず、

ランがミューとビリーを迎えに行った僅かな間に爆睡していた。


「本当に大賢者なんですかにゃ?」

とジトッとした目線を向けてくる。

確かに、魔王軍に入ってから賢者らしい事は何一つしていない。


「ええと、これから! これから頑張ってくれるから」

ステラの無防備な寝顔を眺める。

可愛いな、と少し見とれていると。

「シっ、戻ってきましたよ、早く起こして」


「ステラ、起きて」

シドーはステラの身体を揺すると、寝ぼけ眼をこすりながらステラは眼を覚ます。


「えへへ、シドーさん」

といいながらシドーに抱きつく。


「フシャアアアアア! 何やってるにゃ!」

「やばいです、やばいです、もう来ますよ」


「入るわよ」

とランがミューとビリーを連れて入ってくる


「や、やぁ」

とシドーはぎこちない笑みを浮かべる。

「何よ、気味悪いわねぇ」


と空いている席に着席する。


「それでは、さっさと会議を始めましょう」


「ステラは?」

ランが見る限り、ステラの姿が消えていた。


「た、体調が悪いとかで、自室に戻ったニャ」

「は、はい、そうです」


「……フン、軟弱ね」

ランは不機嫌そうにドサリと椅子に座った。


「では、ユズ、会議進行宜しく」

「かしこまりました、魔王様」

とユズが立ち上がり、掲示板に貼り付けられた地図の前に立つ。


「では、先日の人類軍の撃退と、……セーラ様の王都襲撃について、ご報告致します。」

ちらりとランを見る。

「私じゃなくて、皆に説明なさい」

「す、すいません」


(雰囲気悪いな)

ユズはランの顔色を伺っている。

魔王は恐怖で人々を支配するが、それは部下にも当てはまるのだろうか。

(良くないよな、こういうのは)

「ユズ」

シドーは小声でユズに声を掛ける。

「頑張れ」

ユズは口元を僅かに歪める。


「……失礼致しました、では報告に入ります」


ユズは的確にまとめ上げられた情報を皆に共有していく。


バトー率いる魔界侵攻軍が、人類圏に撤退したこと。

魔王四天王筆頭のセーラがアカンナ王都を襲撃したこと。

それに応じて、第二回世界会議が開催される事。


「現在、我々は人類軍とは休戦状態です」


「なら、まず行うべきは魔王軍の再建ね」

ランが皆を見渡す。

「セーラを呼び戻し、散っていた魔王軍を再集結させる、

四天王が集結し、魔王が立てば、全盛期の威容を取り戻すのに時間はそうかからない」


「いや、事はそう簡単じゃない」

とビリーが異論を挟む。

「王都を襲撃したセーラを魔王軍に戻せば、王都襲撃は魔王軍の総意とみなされる。

そうなると戦争は止められないだろう」

ビリーはセーラを取り込むことが、相手に攻め込む口実を与える事を懸念しているのだ。


「あら、望むところでしょう、戦争は」

ランが凶悪な笑みを浮かべる。

「前回は失敗したけど、今度こそ根絶やしにしてみせる。

攻めてくるなら返り討ちしにして、そのまま人類圏へ攻め込めばいい」


「そんな計画なら、俺はこれ以上、話を聞くつもりはない」

ビリーはそっぽを向く。

「俺は魔界を守ることができればそれでいい、わざわざ攻め込む必要も感じないからな」


「……魔王四天王の名が泣くわよ、ビリー、その名前重かったら返上したら?」

ランはビリーの態度が気に入らない様だった。

かつての彼なら、否応なしに賛同し、率先して人類排除に動くはずなのに、賛同してくれない。

無性に腹が立つ。


「ラン、そこまでにしておけ」

その時、シドーがランを静かに制する。


ランは剣の魔王や、魔界最強の剣士として力を発揮していた頃のイメージが

焼き付いて離れないのだろう。

だが、それは自分のイメージの押し付けに過ぎない。

相手の変化を否定することなど、あってはならないのだ。


「今の魔王は俺だ、口を謹んでもらおう」

シドーの迫力にランはたじろぐが、強気の姿勢は崩さない。

「ふうん、魔王としての風格が出てきたじゃないの、勇者様」


「それで、どうするつもり? 作戦は有るんでしょう」


「有ります」

とその時、シドーの膝に横たわっていたステラが立ち上がり、凛々しい表情を見せる。


「まずは対話を、そこから全てを始めましょう」

「……ふん、軟弱ね」

突然現れたステラに一瞬あっけにとられていたが、ランはすぐに普段の態度に戻る。


「対話すれば、何かが変わるとでも? 馬鹿ね、それが叶うなら戦争なんて起こらないわ」

「馬鹿かもしれません、ですが、やれるだけの手は打っておきたいんです」

ステラはランの眼をはっきりと見据える。


「まずは、セーラさんにお会いします、彼女の真意を聞くのです」

続けろ、とばかりにランは頷く。

「彼女が王都を襲撃したのは理由が有るはず、これが人類の魔界進行に対する報復だというのなら、まだ筋は通ります、後は交渉して互いに納得する形で収めることができれば……」

「相手がセーラの首を要求してきたら?」

ランが意地悪げな表情を浮かべる。

「……今は答えられません、対話無しでは想像上の答えしか出せませんから」

ステラは敢えて答えを明言しない。

明言すればそれに対して、ランが反論してくることが読めるためだ。


「……いいわ」

ランはステラに折れた。

魔王軍再建にはセーラの力が必要だ、

どんな形であれ、セーラには早々に接触したいと思っていた。


「で誰がセーラの所に向かう訳?」

「私とシドーで行きます」

ステラは食い気味で即答した。


ビリーは思った。

(こいつ、土壇場に紛れて2人きりになろうとしていないか?)

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