合流
「おい、どこにいってたんだ?」
遺跡の奥へ向かう途中でビリーと合流する。
シドーがいないことが分かり、遺跡中を探していたのだろうか。
少し苛立っているようだった。
「さん…」
「敵情視察とお答え下さい」
シドーが散歩と答える寸前にミューがシドーに耳打ちする。
「敵情視察だ」
とシドーは答える。
「……それならいいが、あまりふらふらしてくれるなよ」
トップなんだからと、ビリー。
「ああ、これからは一声駆けていくよ」
「それより」
ビリーはステラを見る。
「シドーと合流できたようだな」
「……はい」
ステラはシドーと手を繋いで、耳を真っ赤に染めている。
俯き加減の表情はビリーには見えないが。
(そうか、思いを伝えられて、良かったな……)
と好意的に解釈した。
……後ろでミューがニヤニヤ笑っているのが気になるが。
「ビリーさんも早く奥さんを貰うといいですよ」
「は? どういう意味だ」
その時、ステラが
「さぁ、行きましょう! ぐんぎ、軍議が有るんですよね、さぁ!」
といち早く反応し、ビリーに詰め寄る。
「お、おう、随分と積極的だな、うん、行こう」
ビリーは違和感を覚えつつも、遺跡の一室に割り当てられた部屋に向かう。
細かい数字が書かれた地図に、慌ただしく動き回る部下たち。
入ってくる色々な情報の正誤を判断し、正しいと思われる情報を掲示板に張り出していく。
別の者が、張り出された情報をまとめ、意味のある報告にまとめ上げていく。
そこは魔王軍の司令部だった。
「おお、魔王様」
部下の1人がシドーに声をかけてくる。
シドーは鷹揚に頷くと。
「スズとユズの2人は? もう来ているか」
「はっ、既に到着されています」
「よし、行こうか、ステラ」
とステラに呼びかける。
「えと、そちらの方は?」
部下が視線をステラに向けると、ステラはそそくさとシドーの後ろに隠れる。
「ああ、俺の妻だ」
「ええ? あっ、はい、おめでとうございます?」
シドーはステラに自己紹介するように促すが、
ステラはシドーの背中から出てこようとしない。
「……恥ずかしがり屋なんでな、また皆に紹介する」
司令部の奥に設けられた会議室に歩いていく。
「あれって、ステラじゃないか? ほら、勇者パーティの?」
部下の1人が別の部下とひそひそ話をする。
「ああ、それっぽいが、妻ってどういう事だ? 指環もしてないのに」
「はいはい、それまで~」
とミューが部下の頭を杖でコツンと叩く。
「新しい情報を仕入れてきましたよ~ 情報整理に戻るのです」
ミューは杖で地面を叩くと、2人の頭上に穴が空き、何十枚もの「特殊な紙」が落ちてくる。
アナライズスキルによって分析された情報を、魔力で紙に貼り付けたもの。
写真と呼ばれるものだ。
「ええ!? まだ前のが終わっていませんよ」
「あら、足りなかったようですね~」
もう一度、ミューが地面を叩くと、追加で何枚かの写真が落ちてきた。
「わかりました、わかりましたから」
部下は必死にミューに訴える。
「私達が会議している間に分析を終わらせるのですよ」
「無理です、絶対無理」
「……いいですか、無理ってのは嘘つきの言葉なんです」
ミューの表情が真剣になる。
「これは戦いです。戦場で無理と叫んでも敵は待ってくれません。先に死んでいった仲間の無念を晴らし、これから死んでいく仲間を減らす為、戦って下さい。」
「ミュー様……」
部下は、一瞬感極まった表情を浮かべ。
「騙されませんよ?」
もう一度地面を叩こうとするミューの杖を掴んだ。
「おい、馬鹿やってないで行くぞ」
とビリーがミューの手を取り、会議室に歩いていく。
ぎゃー馬鹿! 離せ! 自分で歩くから! というミューの抗議の声を残して。