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夢物語。

「それって、絶対いいもんじゃないだろ」


言いながら怪しい笑みを貼りつけた黒須に、おれは呆れかえる。


コイツと会って十数年、嫌がらせ以外のプレゼントをもらったことなど一度もない。


『失敬だな。わたしはこれでも寛大な方だろ? まだ、出来損ないの君を処分せずに猶予をあげているんだからさ』


「はいはい。よく言うよ。放火に水責め、かまいたちで腕の皮剥がされたこともあったけ」


あの時は、包帯越しでも痛みが全く和らがず床の飯を口を近付けて、直で食う羽目になった。


『悪戯はほどほどにってことだよ』


「で、今回はどれだよ? この前みたいに全身やけどした状態で水風呂にぶん投げんのか?」


整えてやるとか訳の分からないこと言いやがって、全神経から火花でも出たのかと思ったよ。


『いいや、武御雷。君のさやとの面会を許可しよう』


「え、それ本気か?」


『ただし、毎週日曜日のメンテナンスの日だけだ。それ以外の日は訓練に集中してもらうよ?』


「珍しいじゃん。黒須がおれの行動を制限しないなんて」


『何言ってるんだい。パトリシアとの友情の育みも手助けしてあげただろう』


「白々しいな、ああなることがわかっていたからエリア間の移動まで許可して、パトリシアを巻き込んだんだろ」


『ハハッ、そこは想像にお任せするよ』


まあ、誰の策略だとしても、結果だけはおれの所為で、おれの責任だけどな。


「とりあえずは、感謝しとくよ。おれの暇つぶしを奪わないでくれて」


『なんのなんの、君が楽しく過ごせるのがわたしの悦びでもあるからね』


「噓くせえ……」


その後、限界を迎えた身体を引きずって自室に戻った。


魔力が枯渇した身体は思ってるよりも疲労を蓄えていたようで、おれは部屋に戻るなりベットに自分を投げ出す。


「用意しとけって言ったけど、さやはどんな話を聞かせてくれるのかな?」


次のメンテの日の事を考えると、へとへとの身体に活力が湧き出す。


不思議だなあ。さやと話してた時のことを思い出してる時は自然と安心できる気がする。


もしかしたら、さやが貢献したことってのはメンタルケアとかだったりするのかな?


そうやって思考を巡らせている内、いつの間にかおれの意識はまどろみの中へと飲み込まれた。



「こんにちは、王子様」


薄暗い病室で身体起こしたさやが、入口のおれに気づく。


「こんにちは。って、無理に起きなくていいから」


そんなさやを手で制して、ベットの横に腰掛ける。


「そう? じゃあ今日は横になってままで話すわね」


「うん、それにしても楽しみだな。今日はどんな話聞かせてくれるの?」


おれを知らないさやは、果たしてどんな会話を用意したのだろう。


「そうね、じゃあ私が子どもの頃によく父さんにしてもらった一人の勇者と五人の魔物のお話はどう?」


「へえ、さやの父さんが話してくれた話か……」


それは家族の会話などしたことがないおれには、新鮮な話題かも知れない。


「ええ、あなたも男の子だからお姫様のシンデレラストーリーより英雄譚の方が聞きたいかと思ってね」


「なにそれ?」


さやの口から聞き慣れない言葉が、次々に出て、おれは思わず聞き返した。


シンデレラ? 英雄譚? なにそれおいしいの?


「あらら、そっか。あなたはこういう類のお話は初めてなのね」


「うん、初めて聞く」


親が居ないのだから、当然と言えば当然だけど。


「それなら私も張り切って、話しちゃおうかしらね」


なぜかやる気に満ち溢れたさやは、声に力を込めて意気込む。


おれとしてはどちらでもいい。けど、本人が楽しいのに越したことないかな。


「じゃあ早く聞かせてよ、その英雄譚ってやつを」


「ええ、物語は田舎の小さな村にある少年が生まれたところから始まるの」


そう前置きしたさやが、静かに語り出す。


『昔々、あるところに特別な人一倍の勇気を持った少年が居ました。少年はいじめられている子を助けたり、相手が大人でも悪いと思ったことはハッキリ口にする子でした』


当たり前な気もするけど、この少年がおれみたいに強くないと考えると、それってすごいのかな?


『そんな少年は村では有名人で、その時たまたま訪れていた隣の国の王様に偉く気に入られ、お城へと招待されました。そして」お城に着くと王様が言います。「実は君に来てもらったのは頼みがあるからなんだ」』


急にうさんくなったな。まあ、ただの子供をなんの用もなく城に呼ぶなんてありえない。何かあるに決まってるよな。


『良い子の少年は「いいよ」と内容も聞いていない頼みごとを二つ返事で引き受けます』


「いや、なんでだよ!」


おれは、耳を傾けていたさやの声を思わず遮る。だって、この少年おかしいだろ?


なんで、よくも知らない王様の頼みを疑いもしないんだよ、アホかよ。


「どうしたの? もしこのお話が嫌なら他のお話に変えるけれど……」


申し訳なさそうにするさやを見ていると、こっちが申し訳なくなってきた。


「いや、ごめん。続けて」


おれから聞きたいと言ったんだし、少しのツッコミは我慢しよう。


「じゃあ、続けるわね?」


さやは、止められたところからもう一度語り出す。勇気ある少年と世界を知りたいお姫様の冒険譚を。

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