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武御雷と優しい少女。その四

「くっそがぁぁぁぁ」


運動場の中央、おれは気を抜くとすぐ崩れ落ちそうな足に力を入れ直すっ!


そうして発光した身体と白髪頭の状態を、必死で保ち続けること二分。


そろそろ体力の限界が近づいている。


『うん、思ったより安定してきているね。これなら、あと少しで次のフェーズに進めるよ』


「次のフェーズって、なんですか? もしかして武甕雷たけみかずちくん、次は空飛べるようになったりするんですか!!」


あれから、一週間。


おれは自分の魔法にも慣れ始め、身動きせず保つだけなら三分は維持できるようになっていた。


ただ、それでもまだ動くとなると、軽く歩くだけで二分。走ったり攻撃行動に移行すると一分で、バテてしまう。


「アイツら、何してんだ?」


集中して声までは正確に聞こえないが、なにやら訓練そっちのけで、隅で話しているパトリシアとモニター越しの黒須が見える。


人が真面目にやってる時に、見るだけの奴らは全く呑気なもんだな。


★ ★ ★


パトリシアのくだらない本気の質問を、黒須が優しく微笑み、やんわり否定する。


『流石に、跳躍は可能だが飛行はできないだろうね。次のフェーズというのは、あの状態での戦闘訓練のことだよ』


武御雷の力を発動出来る様になったといっても、それだけでは賢者たちには到底披露できない欠陥品。


世界を跪かせるには、賢者も震え上がる力の解放が必要だ。しかし、約束の時までもう時間が無い。


黒須は武御雷の成長の速度に焦りを覚えていた。


「ああ、そういえばタケミカズチくんがあのピカピカ姿で動いてるの見たことないですね」


『おそらく、わたしの読みでは彼は、すでに少しくらいなら動く余裕があると見ている』


「ホントですか? だって昨日やっと三分間光れるようになったばかりなのに」


『ああ、その証拠に彼は能力発動後、膝をつくことがなくなったんだよ』


「あ、確かに! 最初の二日くらいは終わったら汗だくで動けなくなってたのに、最近は普通に歩いてる」


そう、武御雷には余裕が出てきている。ならば負荷を上げてやらねば、これ以上成長できない。


『そうだ。だから、武御雷の自続時間が五分を超えたら、わたしは新しいフェーズに移ろうと思っている』


「うわぁ、まだ厳しくなるんですね」


『ああ、この世を救うには彼の力が必要だ。そして、君の協力もね?』


「あたし、ですか? 別にあたしはなにもしてないと思いますが……」


『そんなことはない。君のおかげで武御雷は前より少しばかり明るくなったし、やる気も出てきている。これは君のおかげだよ?』


「え〜そうですかぁ?」


『そうだとも、君の明るいその性格で武御雷もつられて明るくなっている。だから、これからも彼のサポートをよろしく頼む。彼が世界を変えることを応援してやってくれ』


「はい! 任せてください」


黒須の言葉に嘘はなかった。

武御雷の進化の為には間違いなくパトリシアが必要で、更なる友好関係を築いてもらう必要があった。


もっとも、嘘はでなくともパトリシアの受け取った意味が、正しい意味であったかは不明だが。


『ありがとう、君の協力に感謝する。では

そろそろ彼も限界のようだし行ってあげたらどうだい』


黒須が手を向けた先には、疲れ果て肩で息をしている武御雷の姿があった。


★ ★ ★


「おつかれさま〜タオル使う」


「ああ……って、何事もないような顔でおれの隣に立つなって言ってるだろ」


手が届く距離にまで近づいてくるパトリシアを、追い払う。


「大丈夫だよ。あたしは君がそんな酷いことする人じゃないって信じてるから」


しかし、パトリシアは一歩下がって笑うと何の保証があるのか、そんなことを言ってくる。


「いや、そういうことじゃなくて、危険性の話をしてんだよ。おれは」


一歩間違えば、全身粉砕骨折とかさせかねないんだよ。こっちは。


「まあまあ、とりあえず汗拭きな。通り雨にあったみたいにびしょびしょだよ?」


「ったく、おれもだけど。アンタも自分がか弱いって自覚持てよ?」


差し出されたタオルを、パトリシアの手に触れないよう恐る恐る受けとる。


「か弱いなんて、そんな褒めたって何も出ないよぉ?」


「褒めてねえよ! 気をつけろって言ってんだよ!」


『二人とも本当に仲がよくて、わたしも嬉しい限りだよ』


遠くから聞こえた黒須の声に、もう反論するのも面倒だった。



おれの遠慮をよそにパトリシアは、その後もおれとの接近を恐れなかった。


朝は朝食を持ってきて、訓練中はずっとそばで見守ってくれていた。


そんなパトリシアを見ている内に、おれは知ったことがある。


それは、人間にもおれを恐れない奴が居るってこと。

おれのことを平均的な人間と同じように恐れず疎まず接してくれる奴が居たんだ。


おれだって誰かと分かり合うことが出来るんだっ!




そんな幻想を夢見始めていた。あの日までは……

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