武御雷と優しい少女。その三
「じゃあ気を取り直して、遊びましょっか」
パトリシアが、場の空気を変えるため手を叩いた。
「気を取り直すもなにも、アンタの一人芸を見せられただけの気がするんだけど……」
自分の行動のせいで起こったことを、連帯責任みたいに言うな。
「ほらほら、細かいこと気にしない!」
「うん、まあ。アンタがいいなら、おれはどうでもいいけど」
気にするも何も、そんなのはパトリシアの羞恥心の問題だ。
それに、おれとしてはアレが気にするようなことなのかもわからない。
「ぐっ、やめて! 年下の子に気を遣われるとお姉さんとして立場がありません!」
おれの言葉を聞いて、パトリシアが胸を押さえ、その場に膝から崩れ落ちた。
感情の忙しい奴だなあ。
最初に会った瞬間から、そんなもん欠片もなかったから安心してくれていいのに。
「で、遊ぶって何するんだ? 言っとくけど、この部屋、着替えとベット以外何にもないよ」
おれには遊ぶってのが、いまいちよくわからない。
けど、この部屋では楽しくなさそうなことくらいはわかる。
「流石に、あたしだってそのくらい考えてますよ」
「あ、そうなんだ」
よかった、パトリシアも流石にノープランではなかったらしい。
「あれ、もしかして考えてないと思われてました? ノープランで誘いに来た思ってましたか?」
「まあ、正直今から考えるのかと……」
「はあー傷つくなあ。あたしだって、ちゃんと黒須さんに許しをもらって君の楽しめそうなこと考えてきたのになぁぁ、はあ〜」
声でか。
今のでお姉さんの威厳、吹き飛んでっただろ絶対。
「いや、ごめんな。おれそんなの知らなかったからさ」
「まあ、いいです。それじゃあ外に出ましょ」
「え、外って、機密エリアから出るのか?」
「はい、今日は君にこの施設を案内してあげようと思って」
「気持ちは嬉しいけど、無理だよ。おれはメンテナンスの時以外、このエリアから出ることは禁止されてる」
「大丈夫ですよ? さっき言ったでしょ黒須さんに許しをもらったって」
「あ、」
そういえば言っていた。
てっきり遊ぶ許可でも貰ったのかと思ったけど、そういうことだったのか。
「だから、安心して。今日、どこに行こうとも責任は黒須さんが取ります!」
「……」
その発言は本人に聞かれたら、真っ先に責任を取らされそうだった。
でも、正直楽しみではある。
おれが十五年間生きてきたこの場所が、一体どんなところなのか見れるのは。
「そ、それじゃあ出発進行だー!」
さっきからやる気が空回りしているパトリシアが大声を上げながら、外に出て行く。
「一緒に歩くのやめとこうかな……」
おれはその姿に少しだけ躊躇してから、後に続いて歩き出した。
「ここが、居住エリアだよ」
まず、案内されたのはおれ以外の結社の人間が生活する居住エリア。
「ふーん、別にこれといって何もないな」
それが、おれのこのエリアの感想だった。
食堂、風呂、二人一組の部屋。そこで生活する人々が居るだけだ。
「まあ、遊びに行きたいなら外に行けばいいしね……」
「ああ、結社の人は出入り自由なんだっけ?」
「うん、だからここにあるのは最低限の生活設備だけ」
「ふーん」
まあ、おれみたいな危険人物でもないんだから、当然と言えば当然か。
「あはは、次行こっか」
パトリシアは引きつった笑顔で、次のエリアへと歩き始める。
次は、娯楽施設なる所を見せてもらった。
卓球やビリヤードという卓上でする数種類のゲームがあるらしい。
「まあ、とは言ってもみんな外に遊びに行くから、あたしも使われてるの見たことないんだけどね」
「へえ、以外とみんな楽しそうなんだな」
おれが見る結社の人たちは、いつだって遠慮がちに微笑んでる大人たちという印象だったので少し意外だ。
「卓球、やってみますか?」
赤と黒のラバーが貼り付けられたうちわ形の板を見ていると、パトリシアが横から提案してくる。
「いや、やめとく。たぶん一振りで壊しちゃうし」
「あ、そうですか。じゃあ次行きましょうか」
「うん」
「最後は……ここですね」
今日一日を通して、続いた探検ツアーも終わりが近づき、パトリシアが最後に訪れたのは医療エリア。
ここはメンテナンス時たまに通るので、少しばかり馴染みのある光景だ。
「あ、そうだ。最後にここの七不思議を話してあげますね」
「七不思議? なにそれ」
「あそこに病室があるでしょ? 一番奥の病室。あそこ、十五年間一度も空室になったことがないらしいの」
「へえ……」
「噂では、同じ人がずっと使ってるって話だよ!」
十五年か……重い病の人でも居るのかな?
それとも、ひょっとしておれみたいな能力の持ち主がもう一人居たりして、なんてな。
そんなの居たら、おれも遊び相手くらい居たよな。
「それで、あと六つは?」
この話のおかげで、少し七不思議に興味が湧いたおれは、残りの六つも興味本位で聞いてみる。
「ごめんなさい、あたし一つしか知らないんです」
しかし、そこはパトリシアの安定の使えなさが発揮され、残念な結果となった。
「……いや、アンタの脳みそで二つ目だよ」
「はあ!?」
こうして、おれの休息日は特に真新しいこともなく終わりを告げる。
それでも、いつもと違う今日を少しばかり楽しんでいたのは、ここだけの話。




