武御雷と優しい少女。そのニ
「あの、タケミカズチくん」
簡易ベットの上で天井を眺めるおれを、パトリシアが退屈なのか意味もなく呼ぶ。
「……」
まあ、意味がないので当然答えてやる必要もないのだが。
「あれ、タケミカズチくん? もしかして寝てますか、あたしがせっかく来たのに寝ちゃってますか?」
いや、人の休息日に勝手に来たんだから知らないだろ。
「……起きてる。けど、そろそろメンテの時間だから遊ぶなら、その後にしてくれるか」
日曜は毎週、昼間に身体の精密検査をされている。
理由としては、訓練の調整と健康の為らしい。
「あ、なるほど。君の休日ってぐーたらしてるだけじゃないんですね。あたし、てっきりこのまま明日まで寝てるのかと思いました」
パトリシアの失礼な発言に、おれはまたしても笑いが込み上げる。
「アンタほんと面白いね。そんなんしたくても黒須が許さないよ。アイツは毎週おれを殺さない薄皮一枚のところまで追い込むのが生き甲斐なんだから」
昨日の訓練といい、黒須の訓練強度は良く出来ている。もちろん悪い意味で。
しかし、それを聞いたパトリシアは、真面目な顔で首を横に振る。
「そんな事ない。期待されてるんですよ、きっと」
静かにけれど、強いその言葉で。
おれは目の前の女性の素直さに負け、黒須の悪口はここまでにしておく。
「そうだね、期待はされてるかも」
黒須の最終兵器であるおれは、もちろん期待されているけど、それはパトリシアが思ってるような綺麗なもんじゃない。
おれが黒須に応える時、そこはこの世の地獄と化すのだから。
「じゃあ行ってくる。もし、メンテ後にまだ居たら遊んであげるよ」
この部屋、何もないからな。
おれが留守にする一時間で、流石に自室に帰ってそうだけど。
「大丈夫ですよ? あたしどこでも寝れるので」
この女、人の部屋で寝る気だ。本気の目をしてやがる……!
部屋を後にしたおれは、機密エリアを出てすぐそこにある。
怪我人や病人が収容される医療エリアの専用の部屋に入る。
「やあ、おはよう。一週間ぶりですね、武御雷」
「ああ、うん。お互い面倒だと思うけど、今日もよろしく」
こんな危険な人間と二人で検査なんて、する方もされる方も嫌で仕方ない。
黒須の命令じゃなかったら誰がやるかって感じだ。
「あっはっは、大丈夫ですよ。私も仕事ですので」
そう言って、白い歯を見せると結社の医者はテキパキと検査の準備を始めた。
その後、医者の言う通りに検査を順番に終えていき、終わったところで時計を確認する。
時刻は十二時半。ちょうどあれから一時間ほど経っていた。
概ね想定内の時間で終わってよかった。
どうでもいいとはいえ、嘘はつきたくない。
おれは検査室を早々に出て、機密エリアの自分の部屋に向かう。
「おーい、戻ったぞ」
扉を開け、中にいるであろうパトリシアに帰還を告げる。
しかし、中に入るとパトリシアの姿はなく、ベットの上で寝てもいない。
「……自室に帰ったか」
おれは、当たり前といえば当たり前の状況に特に感想も無く、その場に腰を下ろす。
ベットに背中を預け、何の気無しに天井を見ていると微睡みが迎えに来た。
おれは、その迎えに逆らわず共に夢の世界へと意識を送り出した……
「きゃあああああっ!?」
「は? え、どうしたどうした!?」
瞬間、鳴り響いた悲鳴におれは飛び起きて辺りを見回す。
「きゃあああ! こっち見ちゃダメだって!」
その言葉と共に、視界に入ったパトリシアは何故か腕で身体を隠しながら叫んでいる。
ん? どういう状況だ、これは。
さっきまで部屋に居なかったパトリシアがなんで衣服を纏わずにおれの部屋で絶叫しているんだ。意味がわからない。
ああ、夢か。これは夢なんだな。
「それだったら説明つくわ」
そう言って、おれはもう一度ゆっくり目を閉じる。
「え、寝た? この状況で冷静に二度寝されるのは女子として複雑なんだけど……まあ、これはこれでチャンスだしいっか」
やかましい夢だな。主人が寝ようとしてんだから、さっさと空気中に霧散しろ。
そして、おれの願いが叶ったのか。辺りは静寂に包まれる。
ようやく静かになった。これでやっと眠れる。
「んっんん!」
なんてことはなかったみたいだ。
静寂の中、咳払いをした彼女がおれに声をかける。
「あれぇ〜タケミカズチくん、もう戻ってきてたんですね〜」
おれは開いた半眼で、衣服を身につけているパトリシアを見上げた。
「ああ、居たんだ戻って来るなら寝ちゃったから気づかなかったよ」
「これは関係ない話だけど、居住エリアのお風呂入っていい時間は夜しかないの」
パトリシアはよくわからない前置きをして、唐突に聞いてもいない居住エリアの話を始めた。
「へえーそうなんだ? まあ人が多いと時間とか人数決めないと大変そうだね」
「そうなのだから、個室のお風呂が羨ましくって、つい、ベットに着替えを置いたまま入っちゃいました。てへっ」
パトリシアは関係ないどころか、事の核心を語り終え、うざいキメ顔する。
本当にムカつくな。
申し訳程度に知らないフリしたおれの労力を返せ。




