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武御雷と優しい少女

コンコンコン。


「ん?」


翌日の朝。おれは部屋の扉が鳴らす、小気味の良い音で目が覚める。


朝食かな? それにしてはいつもより早いな。


「そこに置いといて、着替えたら食べるから」


配膳係に言い捨て、おれは着替えようとロッカーを開ける。


中には同じデザインのトレーニングウェアしかない。


なので、どれを取っても変わらない。が、おれはいつもの癖で一番右の服を手に取る。


コンコンコン。


着替えてる最中、またしても部屋の扉がノックされた。


「おかしいなあ」


いつもなら食事を扉の下から入れたら、そそくさと立ち去るのに。


今日はなんだって、しつこくノックしてくるんだ?


コンコン──


さっきからの法則上、三回叩くと分かっていたおれは二回叩かれたところで、すぐさま扉を開く。


「おい、うるさいぞっ! 要件があるなら扉越しに言……」


「おはよう、タケミカズチくん! 今日はお姉さんが朝食持って来てあげたましたよー!」


そこには、扉を開けるや否や飛びかかる勢いで朝のあいやつをするパトリシアの姿があった。


……え? なにが起こってるんだ、これ。


「もう、タケミカズチくん。おはようって言われたらなんて言うんですか?」


「え、ああ。お、おはよう」


「うーん、イマイチ元気かないけど合格ということにしてあげましょう。それじゃあ召し上がれ」


パトリシアはそう言って、おれに固形食と栄養ドリンクを強引に手渡す。


「えっと、ありがとう」


「いえいえ、気にしないでください! 私もここに来たばっかりで友達とかいないですから」


「そっか」


「はい」


やっと会話の着地点を見つけた。これで立ち話も終われるな。


しかし、せっかく来てくれたんだ、見送りくらいはしてやろう。


「……」


「……?」


そう思い、その場に立っているおれにパトリシアはお互いに無言の中、困った顔様子で笑う。


「え、いつまで居るの?」


「え!? 居ちゃダメだったんですか? 君が今日お休みって聞いたから遊びに来たんですけど……」


ああ、居座るつもりだったんだ。通りで一向に出て行かないわけだよ。


「そういうことなら、言っておかなくちゃね。やめといた方いいよ? おれと遊ぶなんて」


「大丈夫大丈夫! あたし、弟居ますし男の子の遊びだって好きだし、昔彼氏とも朝まで遊んでたんですから!」


「いや、そういうことじゃなくて」


こんな身体のおれと遊んでも危ないんだって、ちょっとは危機意識持てよ。


「う、うぅぅぅ」


そんな、おれの思考が顔に出ていたのか。


パトリシア突然老婆の如く顔をくしゃくしゃして、突然泣き出した。


「え、おれと遊べないのがそんなに悲しのか!?」


確かに、孤独が辛い気持ちは分からなくもない。


でも、昨日会ったばっかの見ず知らずのガキ相手に遊ぶの断られて泣くって……この人、少し心配になってきたなぁ。


「ごめん、言い方が悪かった。おれと遊ぶのはパトリシアが危ないからやめた方がいいってことだ」


「うぅ、違うんです。それで泣いてるわけじゃないんです」


あ、違うのか。


この状況で考え得る可能性がそれしか無かったから勘違いしちゃったじゃないか。


「え、じゃあなんで涙流してるの?」


「うぅ、それはですね。その彼氏に『女っ気がなさすぎてドキドキしない』ってフラれたの! それ思い出したらあたし悲しくって!」


いや、知らねえよ!!


突然泣き出すから、何かと思ったら本当に一ミリも関係ない話じゃねえかよ……なんだこの女。


「おう、そっか。だったら尚のことこんなとこ居ないで自室で落ち着いてきなよ」


おれは、もう危ないとかより一刻も早く出ていって欲しくて、微塵も心に無い言葉をかけた。


「ううん。大丈夫辛いけどあたし頑張りますから、君が楽しいお休みになるよう協力させてください」


「いや、だから……」


気遣いに気遣いで返され、おれは上手い言葉が浮かばなくなる。


いっそ強引に追い出してもいいが、また身も蓋もないことで泣かれでもと考えると、ゾッとした。


「わかった、好きにしなよ。その代わりなるべく直に触れるのはやめてね」


「あれぇ〜もしかしてタケミカズチくん、くすぐりとかに弱いのかなぁ〜?」


パトリシアが突然うざい口調で距離を詰めてくる。


それに対して、おれはその手が触れる直前。冷えきった目で通告する。


「違うよ。急に触れられたら、反射的に肉塊に変えちゃうかもってだけ」


ピタッと止まった指先は、おれに辿り着くことなくパトリシアの目の前へと後退した。


「そ、そうなんだ。わかった、気をつけるね」


気まずそうにするパトリシアの顔に、おれは言いようのない感情を覚えた。


ただそれが何なのか、おれの中に答えは無く漠然とした不快感だけがあった。


「これ、いただくね?」


「あ、うん。食べて食べて、あたしが作ったんじゃないから味は保証できませんけど」


「……うん、おいしいよ。今日のは、いつもよりちょっとおいしいかもね」


口に運んだ固形の茶色い塊は、いつもと変わらないチョコレートの風味がした。


「そ、そう? それはどういたしまして」


パトリシアは照れ臭そうに、おれに向かって会釈を繰り返す。


「いや、さっき味に自分は関係ないって言わなかったっけ?」


「ん?」


「ふふっ、なにその顔。もうちょっと上手い言い訳ないのかよ」


とぼけ顔のパトリシアに、ちょっとイラッとした。


けれど、さっきまでの不快感は跡形もなく何処かへと消えた様だった。

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