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妥当な報酬。

夜の街でさながら忍者のように建物の上を飛び回って急ぐ俺を、灯京の道行く人々が見つけては何かのパフォーマンスだと勘違いして、指を差してはしゃぐ。

そんな飛び交う声を他所に、俺は少しだけ過去に思いを馳せる。


四年前。人探しのためこの町に来てから一年が経っていた頃。

世界を救った賢者と呼ばれている五人の魔法使いの情報を探る内に俺は知った。皆が名前を知っていても、隠居している賢者が何処にいるのか知っている奴など一握りの信頼されている人間だけだと。

それからは表立って探り回るのは悪目立ちする一方だからと聞く相手を悪人に変更。

毎日のように、化け物やら裏の住人を手当たり次第に取っ捕まえては情報を聞いて周っていた。

そんな時だった。盾石のオッサンに呼び出されて、俺が化け物退治に協力する様になったのは。


最初、声をかけられて会社の名前を聞いた時は新手の詐欺かと思ったが、盾石のオッサン曰く『俺達がやる事を分かりやすく社名にしたんだよ。これなら小学生だって助けを求められんだろ?』だそうで、話しながら人の隣で大口を開けて笑いながら語っていた。


そこで視界に見えた目的地を目前に、良きとは言い難い、懐かしい思い出を追い払い。

人目につき過ぎたために随分と遠回りをして来た盾石のオッサンが社長を務めているモンスターバスター社の前に降り立つ。


「ささ、さっさと済ませて帰るかな」


自動ドアを潜り一階の広いロビーに入ると、入り口の横あたりに設置された休憩スペースという名の客の待機スペースで、何やら騒いでる人影を見つける。

それはモンスターバスターという社名の入った戦闘服を着た男たち。

今しがた怪物退治から帰って来たばかりなのか、自社のロビーでデカい声で笑いながら酒を煽って騒いでいた。


よくやるねえ……まあ俺には関係ないからいいけど。


そんな頭の悪そうな連中は気にせず、一直線に受付嬢へと元へ向かう。


「いつも通りの不機嫌そうな顔だなあ。女の子は笑った方が可愛いぞ?」


「……社長へのご用件で宜しいですか?」


開口一番、挨拶代わりの提案を贈ると受付に座っている金髪碧眼の無表情なお嬢さんは呆れ顔を浮かべ、あくまで事務的な対応で俺の言葉を受け流す。


まあ、この子が前任の受付のおばちゃんの代わりで来て一ヶ月。モンスターバスター社(ここ)に来る度に言ってるからな、この台詞。

彼女の塩対応も含めて、挨拶みたいなもんだ。


「ああ、社長さんに用がある」


俺は肩に担いだ吸血鬼をチラリと見てから今日の目的を答える。それを聞いて、彼女はすぐに内線をオッサンに繋ぐ。

彼女の胸元に下げられた名札は、面が斜めになっておりとても読みやすい。

名札にはアシュリー・ガトレットという彼女の名が記されている。


「盾石様、斉藤様がロビーにお見えになっております。はい、分かりました」


「来いって?」


「はい。いつも通り社長室で待っておられるとの事ですので、さっさとその化け物を持ってロビーから消えてください」


お宅の社長に頼まれた荷物なのに、その言い方はあんまりなんじゃないか。


「おっと、お姉さん。本音が出ちゃってるぞ」


「聞こえなかったんですか? さっさと行けと言ったのですが」


それだけ言うと、彼女は対応は終わったとばかりに俺から目線を外して目の前を真顔で見つめる。


あ~あ、こりゃ完全怒らせちゃったかな。ここはもう大人しく社長室に向かうとしよう。


目の前で肩を落とす俺を真顔で無視する彼女に、最後にお礼を言って受付から立ち去る。


「ありがとな……アシュリーちゃん」


「名前で呼ぶなっ!」


アシュリーちゃんは勢いよく立ち上がり机を思い切り叩き、顔を真っ赤にして抗議をしている。

その顔を眺めながら、俺は笑顔でスタコラ逃げて一階ロビーの端にあるエレベーターへと向かう。

すると、ボタンを押そうとしたところで背後から声かけられた。


「おい、おっさん。あんた社長から直々に依頼されてるからって調子乗ってんじゃねえぞ?」


振り返ると、赤ら顔の背の高い男が後ろに二人の取り巻き従えて立っていた。


「ん、なんだお前? もしかして……アシュリーちゃんの彼氏だったか?」


そうだとしたら、さすがに少し申し訳ない。

彼氏の前で馴れ馴れしくされたのだとしたら、彼女もさぞ嫌な思いをしただろう。

今度、正式にお詫びの品を持って行かなくては。


「ちげぇよ! お前が図に乗ってるみてぇだから注意してやったんだよ!」


しかし、それはどうやら俺の勘違いだったようだ。


「なんだよ、違うのかよ。俺のなけなしの誠意を返せ」


あと、少し離れた所から「名前で呼ぶな!」という、アシュリーちゃんの恨み節が届く。


「ふざけてんじゃねぇぞ! お前、今回の任務でその吸血鬼が人を襲う前に間に合わなかったらしいじゃねえか、なあ!」


男は俺が担いでいる吸血鬼に視線を向けて、安い挑発で絡んでくる。


これだから酔っ払いは面倒くさいんだよなぁ。


「申し訳ねえよな。お前らが向かっていたら完璧だったかも知れないな」


「そうだ! 社長も見る目がないよなぁ? お前みたいな小物に吸血鬼なんてデカい仕事を任せるなんて荷が重いってもんだろ」


男は、つばを飛ばしながらどうでもいい話を続ける。


「確かにコイツは中々骨のある奴だったよ。お陰で私服が上下ともダメになったわ、ははっ」


「何笑ってだテメェ! この際だからはっきり言ってやるよ」


最初からはっきり言えよ。

お前のせいで盾石のオッサンが待ちくたびれちまうし、ダラダラしてる間に吸血鬼が起きちまったらどうすんだ。

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