その姿は人間か、はたまた化け物か。
「で、この呪文を叫べばいいのか?」
黒須の指示で、おれは運動場の中心に立つ。
「ああ、そうだ。そうすれば君の身体は魔法で満たされる」
黒須はそう言い残すと、パトリシアと共に運動場の隅へと避難を済ませていた。モニター越しのくせに。
てか、何が起こるか知らないけど、もしかしてこれ唱えたら爆発でもすんのかな?
「まいっか。死んだりはしないだろうし」
無駄な思考を振り払い、意識を集中して目の前の空間を見つめる。
なにせ一度もやったことが無いので、身構え方すら分からない。
「その腕は大地を揺らす剛力。その脚は千里を駆ける雷鳴。その一振りは万を葬る剣戟!」
詠唱を口にした途端、おれは背中に刻まれていた魔法陣によって周囲に覆われた。
不思議な感覚だ。体内で何かが激しく湧き上がり、万能感で満たされていく。
今なら、何が起ころうと負ける気がしねえ……。
放つ準備の整った魔法陣を、声の撃鉄で打ち鳴らす!
「剣帝顕現、武御雷!」
身体は、雷鳴の音と共に弾けた魔法陣から解放される!
しかし、おれの意識はそんな事よりも別のことにあった。
解放された視界に入った自分の掌を見て、言葉を失う。
なんだ……これ?
「わー! タケミカズチくん全身光ってるよ!? なにそれすっごいキレイ!」
キレイかどうかは置いといて。
パトリシアの言う通り、おれの全身がどういうわけか青白く発光している。
普通の人間じゃないとは思ったけど、おれって電気流されすぎて人間電球になっちまったのか?
「安心してくれ武御雷。それが君の本来の姿だ。背中に刻まれた魔法陣は、その力を解放するためのものなのだから」
あ、あの魔法陣って、おしゃれとかじゃなくて本当に使えるやつだったんだ。
てっきりタトゥー的なやつかと思ってた。
てか、それよりもなによりも前に
「おれって、魔法使えたんだ…!?」
「え、あれ魔法なの!? なんでなんで? 賢者でもないタケミカズチくんがどうして?」
そう、この世で魔法という奇跡を行使をできるのは壮絶な修行を終えた賢者だけのはずだ。
なのに、なんで身体が強いだけのおれが魔法なんて。
「落ち着きなさい二人とも。武御雷、使えると言っても発動できる魔法はそれだけだよ」
「だけって……そいえば魔力はどこから来たんだ? おれ空気中の魔素を魔力に変換なんてできないぞ!?」
「そうだね。でも魔力の心配はいらないよ。その魔法陣は君の体内の蓄魔力で、発動するものだから空気中の魔力の有無は関係ないんだ、その代わり……」
「っ!?」
発動したばかりにも関わらず、おれはとてつもない疲労感に襲われ、たまらず膝をつく。
まるで重力でも増したみたいに身体が重い……!
「えっ!? タケミカズチくんどうしたの?」
それを見て慌てるパトリシアに、黒須が声をかける。
「安心しなさい。あれは急激な魔力消費に身体がついて行けていないだけだよ。蓄魔力でしか魔法を発動出来ないということは魔力切れ、つまりはか活動限界のリスクがあるということだ」
なるほどね。通りでさっきから身体が脱力して、いう事を聞かないわけだ。
「武御雷、立ち上がることは出来るかい?」
「はあ、誰に言ってんだ? ちょっとびっくりしたけどこんなん大した事ない、ぜ!」
地についていた膝を伸ばし、おれは力任せに立ち上がる。
それだけで、もう一度ふらついたが今度はしっかりと堪えることができた。
「さすがだよ。では、今から一分間その状態を保ってみてくれ」
は? 冗談だろ。この姿に成るだけでもギリギリだってのに、一分延長とか正気かよ!?
という言葉は心に留め、おれは黒須のムカつく顔にを睨みつける。
「よ、余裕だ……!」
★ ★ ★
「黒須さん、あれってなにがそんなにつらいんですか? 確かに姿は輝きが凄いことになってますけど……」
魔力など知らないパトリシアには、目の前の男の子が歯をくいしばるながら"ただ"立っているだけの光景に疑問を持たざるを得なかった。
「そうだね。確かに君の様な普通の少女から見たら、よくわからないだろう」
「はい、まったく」
「では、想像してごらん。今君は脱水症状で目眩と吐き気、それに身体中の怠さと発熱で一刻も早く座りたい状況だ」
「それはすぐに休んだ方がいいですよね?」
「そうだね。しかし、君の上司にはあと一分立っていろと言われてしまんだよ」
「え、具合がわるいのにですか? 超ブラックじゃないですか」
「ハッハッ、確かに! でも、それが彼の生まれた理由であり意味なんだ。だから、彼にはやり遂げてもらわなければならない。少しばかり厳しかろうと、ね」
「なんか難しい話で、あたしにはちょっとわからないですね」
「それでいい。ただ君は彼のことを応援してくれればいいんだ」
「え、そんなことで?」
「そうだ。わたしが君を呼んだのは、彼に人間の繋がりの意味を教えてあげて欲しいからなんだ。頼めるかい?」
「……」
パトリシアは一瞬考える様な仕草をする。
「正直、母から言われた時はなんであたしが結社の機密区域なんかに呼ばれたか不思議でした。でも、そういうことならあたし全力で彼に人間のあたたかさを教えてあげたいと思います!」
最初に会った時の少年の顔を思い出し、パトリシアは両手を握り締めて宣言する。
「そうしてくれ、わたしはそれが彼の成長に繋がると信じているからね」
「はい!」
満面の笑みで返事をするパトリシアに、黒須もまた笑いかける。
「ふふっ、君が優しい子で良かったよ」
「そんな事ないですよぉ。ちょっと可愛いだけで」
「……」
本当に良かったよ。君が優しい"だけ"の小娘で。




