耐久テスト
「では、無駄話はこのくらいして今日の訓練を始めるよ?」
モニター越しの黒須の言葉を聞き、おれの目の前、耐衝撃ガラスの向こうに立つ男が手元のスイッチに指をかける。
「おれに拒否権なんてないんだから、さっさとやってくれよ」
どうせ、嫌だと言ってもやるんだから確認なんて時間の無駄。とっとと始めて欲しい。
おれの言葉を聞いた男がスイッチを押し込む、すると身体に軽度の電流が流れ始める。
「こんっくらいなら、いつもと変わんないから余裕だよ!」
おれは、体を強張らせさながら歯を食いしばって答える。
「そうだね、じゃあ今日はこの先に行ってみようか」
その言葉を聞いた男が目の前のダイヤルを回し、さらに電圧上げる。
「がぁぁぁぁぁ!」
瞬間、身体中を駆け巡る稲妻で脳が焼き切れたと、錯覚しそうになる!
これはヤバい! 少しでも気を抜いたら、意識を保っていられない。
「なるほど、落雷一発分の電圧でも死ななくなったか。よろしい、これで次のフェーズに進めるよ」
その後、しばらくして解放されたおれは拘束具の上で浅い呼吸を繰り返す。
疲れた。生まれて初めて死んだのかと思うほどに。しかも、電流の時に暴れたせいで身体中に痕ができてしまっている。
「はぁ……はぁ……これで終わりか?」
「あぁ、今日はこれで終わりだよ。五分休憩したら次の訓練に向かってくれ」
プツン……
部屋に残されたのは消えたモニターと、おれと結社の男のみ。
「……」
結社の人間とはあの授業をする男以外とは面識がない。その為、室内には気まずい沈黙が流れている。
「あのさ、"これ"外してくれない?」
おれは拘束具に視線を落として、男に頼む。
「あ、すみません! そのままにしてしまって!」
男が拘束具をボタン一つで解除する。
「あっちょっとまっ!」
結果。身体が痺れて上手く動かせないおれは、そのまま床に落っこちた。
しかも、最悪なことに変に受け身を取ろうとしたせいでうつ伏せになる。
この床が、毎日掃除されている事を祈ろうかな。
「申し訳ございません!? し、失礼します!」
心配して一歩踏み出した男は、しかし、こっちまでは来ることなく逃げるように部屋から出て行った。
あ〜あ。起こしてくれとは言わないけど、せめて肩くらい貸して欲しかったね。
でも、しょうがないか。おれに何されるか分からないもんな。
……あの人、明日から見ないだろうなぁ。
誰も居なくなった部屋で一人立ち上がり、壁伝いに次の訓練場へと向かう。
「はぁ……はぁ……この移動だけで鍛えられた気がするな。いやまじ精神力なら仙人級だわ」
「おつかれさまです! 君がタケミカズチくんですか?」
運動場に着くと、そこには運動着を着た見慣れない女が立っていた。
「アンタ、誰?」
「あっ申し遅れました! 私は今日からあなたの訓練を監視する事になった。パトリシア────」
「ああ、名乗らなくていいよ? どうせ忘れるし」
おれは、女の自己紹介を手で制してやめさせる。
「わー感じ悪いですねぇ。……まあいいです! では、モニター点けますね」
パトリシアと名乗った女がスイッチ押す。
すると、先程振りに見る顔が画面内に映し出される。
「やあ、武御雷」
「やあ、黒須さっき振りだな」
「ははっそうだね。実は君には、今日からもう一つ新しい訓練をやって欲しいんだ」
「またか? まあ、最近戦闘訓練にも飽きてきてたからいいけど」
戦闘訓練って言っても、相手を圧倒的に倒すだけで張り合いがないし。
「悪いね。出来るだけ早く君の力を百パーセント出力してくれなくては困るんだ」
「おれの力? おれには今以上の力があるのか?」
「それ以上も何も、今の君は素手で軍隊にも勝てない兵器の成り損ないだよ。これからが本当の君さ」
そうなのか、おれはこの超人的な肉体が特別な力なんだと思ってた。でも、違ったんだ。
おれにはまだ上があったんだ。
……おれは、これ以上恐れられる存在になるんだな。
「えっすごいじゃないですか!? 選ばれし者みたいですね!」
「……は?」
「だって、今でもすごい君がもっとすごくなるんでしょう? それってすごくないですか!? なんていうか、燃えませんか!」
明らかに場違いなテンションで捲したてるパトリシアを見て、おれは自然と笑っていた。
「ふっ、アンタ面白いね。そんなこと考えた事なかったよ」
「あーそうなんだ。じゃあタケミカズチくんって、大人しい男の子なんですね」
「……いや、それはよく分かんないけど」
おれは、自分以外の子供という者を見たことが無いので彼女の言った意味はよく分からない。
「準備はいいかい?」
「ああ、いつでもいいぞ」
彼女の言う、燃えるってのがどういうことかはよく分からない。
けど、今のおれは訓練が始まるのを今か今かと待ち望んでいる。
こんな気持ちは、初めてだ。
これから強くなる事を、楽しいと思うなんて。
「では、武御雷。今からわたしが言うことを復唱してくれ。これが君を最強へと導く奇跡だよ」
モニター越しの黒須はそう言って、微笑を浮かべた。




