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五人の賢者と一人の男。そのニ

「わたしがあなた方に求めるのは、研究の協力です。そして差し出すのは絶対なる地位の堅守」


黒須はやっと集まった目の前の賢者達に、一世一代の取引を持ちかける。


しかし、そんな第一声に風の賢者は冷めた態度で続きを促す。


「協力する以前に、その実験とやらが何なのか聞かなければならん」


「はい、それではお話しいたします。わたしがあなた方に提供できる未来のお話を」


そう言って、黒須は丁重にお辞儀をする。


「さっさとしてくれ。僕はこれを聞くためだけに足を運んだんのだから、その話以外の全てが時間の無駄だ」


ゴルドールは小刻みに片足を震わし、つま先で地を叩く。


「先ず、この取引におけるあなた方のメリット。それは賢者という地位の堅守です」


黒須は、人差し指を賢者達に見えるようピンと立てる。


「そんなもの貴方に守ってもらわなくても、十分に足りているのだけど?」


青いローブの賢者が、低く見積られた物言いに口を挟んだ。


しかし、それは当然のことだった。


見ず知らずの一般人が、賢者に意見するなどこの世界では許されていない。


「なるほど、確かに。皆様が世界に力を示し、争いを禁じた現在では、なんの問題もないでしょう……」


「なら、お前さんの話はこれで終わりかい? 興味があったから来てみたがとんだ無駄骨だねぇ」


紫のローブの賢者がしゃがれた声で言った。


瞬間、賢者達の目つきが変わる。


さっきまで無駄話を繰り広げていた彼等の目から感情が消えた。


しかし、居所不明の賢者が目の前に現れた時点で、殺される可能性など想定内。


自分に興味を失った視線に刺されながら、黒須は口元を吊り上げ笑った。


「ハッハッハ! まさか!? ここからが本題ですよ!」


黒須は、恐怖で震えそうな心の振動を、張り上げた高笑いで武者震いへと変えていく。


「あなた方も気付いている筈だ! 歳を追うにごとに衰える魔力と体力。このままでは二十年後にはあなた方の奇跡など、お粗末な手品に成り下がる事に!」


「ほう……」


「だが、わたしなら! 必ずやこの先あなた方の命が続く限りの栄光を約束しよう!」


「そんな女が、我らを救えるとは思えんがな」


ゴルドールの言う通り黒須の隣に座る女性は、か弱いというより覇気がない。


そんな状態です賢者の地位を、揺るがぬものに出来るとは、とても思えなかった。


「やってくれるのはこの女ではありませんよ。この女が持っているのは巨大な可能性。そう、偉業を成し遂げるのは────っ!」


「なるほど、身篭っているのか。その女」


女の膨れた腹を眺めて、ゴルドールが呟く。


「ご名答、あなた方の未来を作るのはこの娘の胎児です! わたしの研究とはその幼児に魔法陣を刻み、全ての賢者の魔力を注いだ最強兵器の完成であります!」


「なるほど、赤子に賢者五人で魔力を注ぎ、私たちの為に戦う化け物を作ろうというのね?」


「この生活が続くなら、オレはどっちでもいいけど」


「アタシも産まれゆく命など、興味はないねぇ。利用価値次第さね」


「それならご安心を。この娘には既に特殊な霊薬を服用しています。よって、誕生する子供もその影響は受けている筈です」


「しかし、本当に成功するのか? 見るにその女かなり衰弱しているが、霊薬の過度な使用で死んでしまうではないか」


「そちらもご安心を。産まれなければ意味がない。加減はしていますよ? これが初めてでもありますまい」


様々な意見が飛んでくるが、今のところは概ね好感触。


黒須は手応えを感じつつ最後の賢者、三条兜に視線を向けた。


どんなに好感触でも、賢者の決定は満場一致でなければ意味がない。


一人でも不満を持つ者が居れば、他の賢者は傍観者に成り果て、自分とその賢者の一騎討ちの構図になるからだ。


「どうですか、三条氏。この計画に手お貸し頂けませんか?」


「条件は分かった……だが、俺が知りたいのはそんな事ではない」


「は、はあ?」


言われた黒須は、思わず意味が分からず首を傾げる。


今のお前達にとって、自分の地位を確立し続ける以上に重要なことなどないだろう、と。


「ハッキリ言え、ガキは俺たちより強くなるのか?」


「「!?」」


他の賢者達が、三条の質問を聞き。黒須に視線が集まる。


その推察が正しければ、それは賢者たちにとってもただならぬ事態だからだ。


本当は少しずつ力を蓄えさせて、もう手遅れになってから言うつもりだった。


だが、こうなれば致し方ない。


「……ええ、恐らく。一対一ならその子の方が上回る想定ではあります。そうでなければ世界を跪かせる事など不可能ですから」


「フッフッフ、フハハハハハハハハハハハハハッ!!」


それを聞いて、三条は部屋中に響き渡る大声で高笑う。


「そうだろうそうだろう! そうでなければ意味がないッ! ならば良しッ! 俺はその最強の誕生に協力しようではないか!」


「本当ですか? ありがとうございます!」


歓喜の涙の裏で、黒須は笑う。


当たり前だ、たわけ共が。


俺様の覇道は、貴様達などに阻めるものなどでは、決してないのだからな。


最強の誕生に喜び、握手交わす三条と黒須。


その背後で少し懸念を残しつつ己が目的の為、協力を決めた賢者達。



そして、黒須の隣で女は笑った。


身体中に滴る霊薬が、痩せ細った身体にさらに追い打ちをかけているにも関わらず笑っていた。


目の前で人語を喋る化け物たちの、最悪の計画に一つの希望を見出していたから。


(良かった……決して良い人生を送れる環境ではないけれど、あなたはこの世界に産まれることが出来るのね)


死白(ししら)さやは、化け物に気付かれないように静かにお腹の我が子に手を当て、すでに濡れきった頬に一筋の涙を落とした。



そして、産まれてくる呪われた子が田舎町の少女の為。世界を変えようとする事など、この場の誰一人知るよしもない。

登場人物紹介その十


黒須(くろす)(まこと)

結社と呼ばれる組織の指導者。人造魔法による人型最強兵器の完成を目論む。

年齢三十五歳。誕生日9月6日。

容姿、漆黒のロングコートに身を包み。不遜な微笑みを浮かべる男。

身長は170㎝。


死白(ししら)さや

黒須の実験体収集で捕らえれた内の一人。

年齢三十歳。誕生日4月6日

容姿、長い黒髪。穏やかな雰囲気を纏った美人。

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