疾る閃光! 正真正銘トドメの一撃。
賢者との激闘を終えた俺が振り返ると、ウォロフが笑顔で手を振っていた。
「やったなツルギ! これでツルギたちは目的を果たしたんだよね!」
「おう! まあ、一応だけどな。まだゴルドールの部下を吸血鬼に変えた吸血鬼を探さないといけねえし」
しかし、これで魔導具の吸血鬼爆弾を灯京に放たせる事は止められた。
術者さえ居なければ、魔導具なんてのは見た目通りの機能しか果たさないガラクタだ。
「あ、そっか。ソイツを倒さないと吸血鬼が増え続けるのは止められないのか」
「ああ」
寧ろ厄介なのはゴルドールが居なくなった後、最初の吸血鬼がどう動くかだな……
最悪の場合、この街の全てを吸血鬼に変えてゴルドールの計画通り大規模侵攻を開始する可能性もある。
今のうちに退治しておいた方がいいだろう。
「って、言ってもどっちに行くんだ? この部屋出口ふたつあるけど……」
「う、確かにな。と、とりあえずはアシュリーが目覚めるのを待つか! 半分たって吸血鬼だしほっときゃ起きんだろ」
「ツルギって、アシュリーさんが言ってたとおりだな」
半眼になったウォロフが先程賢者を倒したばかりの俺に失礼な顔を向ける。
それは、甘いと思って口にしたものが糖質カットで全くと言わないまでも、申し訳程度の甘さしかなかった時のような微妙な表情だった。
「多分聞いてもしょうもない事だと思うが……なんだよ?」
言いかけられたままでは気持ち悪いので、大体見当のつく続きを聞く。
「ツルギって戦い以外は、全ッ然頼りにならないな」
「やっぱりかよ! しかも、なに満面の笑みで言ってくれてんだよ。思わずこの姿で叩きそうになったわ!」
「いや、だって、ツルギもちょっとはアタマ使った方がいいと思うんだもん」
「アシュリーに言われるなら分かるが、お前はどの立場から言ってんだよ? ウォロフも作戦のさの字も考えてなかったよなぁ」
俺達の作戦はアシュリーに丸投げだったので、頭を使っていないのはお互い様である。
「え、オイラは匂いを覚えて賢者の居場所を教えるって役割は果たしたじゃん?」
ウォロフに真顔で言われて、我に帰る。
俺はなんで自分の半分くらいしか生きていない子供と言い争いをしようとしてるんだ、と。
ここは冷静になって大人の対処をしなくては。
「へいへい、その節はどうも」
「だろ。だからオイラはちゃんと役目は果たしたぞっ」
胸を張って威張るウォロフを見ていると、いちいち細かい指摘するのも馬鹿らしくなってくる。
「はいはい、すごいすごい。そういえば、やることで思い出したけど、どうだったよ俺の戦いっぷりは」
ウォロフがここに来たのは、俺の強さを知りたいという目的だった。何か参考にはなったのだろうか?
「いや見てないよ。てゆうか見えてないよ。だって、さっきのツルギ目で追える速度じゃなかったじゃん」
「……そう、だったな」
「賢者がいきなり吹っ飛んだり、ツルギがいきなり目の前に現れたり、ツルギを見ててわかったのはわからないってことだけだよ」
「あ〜わりいな。でも──」
その時、この地下空間には吹くはずのないそよ風がウォロフと俺の足元から頭上へと吹き抜けた。
「ツルギ、これって!?」
いや、そんなはずはない。ゴルドールはついさっきこの手で真っ二つにした筈だ。
「吹き上がる風よ、目の前の脅威を消し飛ばせ」
その声と共に、俺の背後からなにか肌色の物体が無数に飛んでくる。
「この匂い!? ヤバいよツルギ!」
「とにかく避けろ!」
「ウィンドマジック・トルネイド」
真下から吹き上がる竜巻をアシュリーを抱えて避けた俺とウォロフが、声の方に目を向ける。
「まだ、生きてやがったのか……いや、違うな。お前……」
「ああ、そうとも。最初の吸血鬼など用済みになった時点で始末したよ。この僕が不死身になった瞬間にね」
信じたくないが、そこには身体が一つに繋がったゴルドール・リーマンが何事もなかったように立っていた。
「通りでおかしいと思ったぜ。とっくに還暦なんて超えてる筈のじじいがこんなクソガキなんてよ」
「そこに関しては僕も驚いたよ。吸血鬼になった瞬間、肉体が、細胞が僕の全盛期の姿へと“再生”しようとしているなんてね!」
嬉しい誤算にゴルドールが狂喜する。
「だったら、もう治す隙なんてないほど圧倒的に殺してやるよ!」
「穿ち駆け抜ける風よ、目の前の脅威を討ち滅ぼせ」
詠唱を始めるゴルドールに構わず、俺は地を蹴って突っ込む。
さっきの一払いで消えた風の魔法など、今さら恐れる必要などは無い。
このまま、駆け抜けて終わらせる!
「ウィンドマジック・トルネイド・コンボ」
目の前のゴルドールが手で作った銃の標準を、俺に合わせる。
「抜刀術・三刀召か────っ!?」
もう一度切り伏せようと魔法陣から刀を抜いた俺を、背後から圧縮された空気に殴打されたような感覚が襲った。
「強力な脅威を打ち倒すにはいくつか方法があるが、真っ向からの攻撃が通じない相手なら不意を突いてやるのが一番確実な一手だね」
どこから飛んできたか確認する為、振り向こうとする俺に、次々と暴風が吹き荒れて止めどない槍のような嵐が全身を乱れ打つ。
おかしい。賢者はさっきから、この短時間で何回魔法を使っている?
いくら賢者でも、こんな植物の一本も生えていない場所ではすでに魔力切れを起こしているはずだ。
「何故僕の魔力が尽きないのか? って顔をしているね。残念、星権戦での対賢者戦を想定してこのくらいの状況は想定内だよ」
半分になってポンチョのようになってしまったローブを脱ぎ捨てたゴルドールが、背中に隠れていた木製の杖を取り出した。
「魔法使いの基本。魔法の杖ってやつさ」
一撃一撃に全身を振り乱された俺に、杖が生み出す魔素だけで装填された最後の一発をゴルドールが構えた。
「……バン」
「ツルギ避けて!」
ウォロフには悪いが、このダメージではそれすらも出来そうになく、なす術もなく額に風の弾丸が直撃する。
それは、立っているのもやっとの俺を倒すには十分すぎる威力だった。
俺は足の踏ん張りも効かず、そのまま仰向けに無抵抗で倒れる。
真上からゴルドールの十を超える切り離された手が降ってきた。
なるほどな。自分の魔力を宿した手を風で舞い上げて死角から遠隔で魔法を発動したってわけか。
……もうだめだ。全身に力が入らねえ。
なんだよ、不死身って。
こちとら一度きりの人生たった一つの命を燃やして生きてんだ。人生なめてんじゃねぇぞ、この野郎。




