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真の正体。

「ハッハ! 素晴らしい姿じゃないか武御雷(タケミカズチ)!」


俺の宣戦布告を聞いたゴルドール・リーマンは、手を叩いて盛大な拍手と高笑いで応える。


「敵を浄化する白い頭髪に、魔力で神々しく輝く肉体。それがあの男が全ての賢者を集めて完成させた最高傑作。大規模人類殺戮兵器・武御雷の真の姿なんだね」


ゴルドールは自分達の行いをまるで悪びれることなく嬉々として早口で歓喜する。


「俺の名前は斉藤剣(さいとうつるぎ)だよ。んなアホ丸出しの長ったらしい名前を名乗った覚えはねえよ」


「おっと、それは失礼。だが、なら何故新たな人生を送りたい君は、その力を与えた奴の組織の人間を皆殺しにして姿を消したにも関わらず、僕の前にのこのこと姿を現したんだい?」


「そんなもん、お前の計画が、存在が邪魔だからだよ」


全身に雷を走らせ、地を蹴る音を置き去りにした一歩で、ゴルドールの前に立つ。


細胞の一つ一つに及ぶほどの怒りを込めた一撃で目の前の男の顔面を吹き飛ばすつもりで殴り抜く……!


先ほどと段違いの威力で殴られたゴルドールは、今度は確実なダメージを受け、口や鼻から血を噴き出してよろける。


そんだけで済んでるのが信じられねえがな。


まあ、どうでもいいか。

一発じゃ終わらないなら千回でも殴りゃあそのうち終わるだろ。


「ふぅー、てめえらの遺言は聞かねえ。俺達の日常の為にそこを退け!」


俺は、足を開き腰を下ろした体勢で構える。


真正面に立つゴルドールを見据えて、ただひたすらに拳を出し続ける為に。


風の抵抗は依然竜巻の様に猛威を奮っているが、そんなものこの姿では何も起こっていないのと同じくらい些細なことだった。


俺はそんな微風を受けながら、赤色に染まるゴルドールの顔面を殴る。殴る。殴る!


一発打つたび、雷を帯びた拳が唸り上げる!


それでもゴルドールは倒れない。


普通なら生きてるのもおかしいほどの拳を打ち込んだ結果。主な外傷は鼻血程度だ。


「終わりかい? 凄く痛かったけど、それだけだったよ」


「こっからに、決まってんだろ!」


握りしめ手首を回した拳を、脇を締めて身体に引き寄せる。


そして、風の抵抗など掻き消す回転を加えた一撃を、ゴルドールに顔面に叩きつける!


蒼き雷が(ほとばし)る拳が直撃した頬が高温を持ったように紅くなって、後方へと急降下するように真っ直ぐ壁へと吹き飛ぶ。


ゴルドールは、勢い余って止まりきらなった身体を壁に叩きつけた。


「カハッ」


空気の塊を吐いたゴルドールがぐったりと肩を落としてうなだれる。


まだ立てんのかよ。これでも全力で殴ってるつもりなんだけどな。


改めて、俺は賢者という化け物に驚かされる。この周囲を纏う風の魔法もだが、さらに恐ろしいのはここまで殴られても揺るがない生命力だ。


「アッハッハッハ! 最高だね!」


いきなり身体が反り返る勢いで上を向いたゴルドールが高笑いをする。


「その強さ気に入ったよ。君……僕の駒になりなよ」


「ならねえよ、クソが!」


「話を最後まで聞きなよ。君の目的がなんなのか知らないけど君が僕の駒になると言うなら、僕が星権戦に勝利した暁には、そこに居る仲間と親しい人間だけは吸血鬼にはせずに生かしてあげよう!」


「なに? そいつは、本当か」


「え、おいツルギ! なに言ってるんだよ!」


俺の態度を見て、遠くでウォロフが声を上げた。


「ああ、本当だとも。星権戦に勝利し星の権利者に輝いた暁には君の親しい者全てに自由を与えると約束しよう」


口から下衆な言葉を吐き出すゴルドールが、清々しい顔でにっこりと笑う。


「じゃあ、因みにこれも聞いていいか?」


「ああ、なんでも聞きたまえよ」


「例えば、この世界に常人の十倍速度で魔素を魔力変換し、十倍の魔素を排出できる奴が居るとしたら、お前ならどうする?」


「ふむ、そうだな……」


真剣に思案するゴルドールの顔に怪しい笑顔が浮かぶ。


「僕なら星権戦の間だけ、その者を右腕として側に置き。星の権利を手に入れたと同時に、体内構造や細胞を調べ、必要なら解剖をして量産の道を探すだろうねぇ」


分かりきっていた答えに思わず、俺は口の端を吊り上げて笑ってしまう。


やはり、賢者に紗世(さよ)の秘密が知られれば、紗世にはあの頃の俺のように辛く苦しい世界しか待ってはいない。


「そうか、なら俺の答えは決まったぜ」


俺はゴルドールに向かって、親指を上に突き出した手を向ける。


「おい、ツルギ! どういう事だよ! ソイツはアシュリーさんをこんな目に遭わせたヤツなんだぞ!」


「そうか、そうか! 君も僕と一緒にこの世界を不死身の吸血鬼で包み込む事に賛成してくれるか!」


「いいや、てめえの答えは不正解だ。そんな世界は俺の欲しい世界じゃねえ!」


俺は、突き出した親指で自分の首を掻っ切る!


紗世が笑えない、楽しくもない世界なら……


俺はそんなもん真っ向から否定する!


「殺戮兵器如きが人類に情でも芽生えたか? 自分の姿を鏡で見てみろ! 化け物が人類を救ったところで英雄になど成れはしない! お前は破壊しか脳がないただの化け物なんだよ!!」


交渉が決裂して、ゴルドールはご立腹そうだ。


「上等だよ。あいつの隣に居れるなら化け物だろうが兵器だろうが。その力、喜んで使わせて貰おうじゃねえか」


血が沸騰し、怒りが燃え上がるのが分かる。


つまりそれは、俺の心が最高に滾っている証明!


「斉藤剣。やはりお前も愚かなだな」


掌をこちらに向けたゴルドールが興味を失った目で俺を見据える。


「そうかよ。だったらゴルドール・リーマン、お前は寂しい奴だよ」


バチバチと流れる雷が俺の足元で音を立てる。


「高速移動なら見えないとでも思っているのか? 残念だがそんなものは既に他の賢者で見慣れているよ」


ゴルドールの目に青い魔力の炎が灯り、俺の姿を目に焼き付ける。


「見えてたって反応出来なきゃ同じだろ!」


縦横無尽、壁を蹴って部屋中を飛ぶ回る俺をゴルドール・リーマンはグリグリと瞳だけを動かし、まるで機械のように完全に捕捉し続ける。


本気で言ってたとは予想外だが、結局俺の意見は微塵も変わりはしない。


目で追えるのと、動きで追いつくのは全く違う話だ。


「突き抜ける風、接触し爆ける風、疾り切り刻む風よ。目の前の脅威を消し飛ばせ」


壁を蹴るごとに地響きを鳴る。


俺は、詠唱を始めたゴルドールの視界の外から距離詰めようと頭上へ移動した。


しかし、展開した三重の魔法陣は俺ではなく、目の前に向けられている。


「自分の状況を理解しろ。君に当てるのに君を狙う必要など無いんだよ」


ゴルドールが狙ったのは、またしてもアシュリーを背中に背負って立ち上がったウォロフだ。


「ツルギ! オイラは自分で避けるからソイツへのトドメに集中してくれ!」


いや、違う。


二度目でウォロフが警戒していることなど、ゴルドールが一番分かっている。


奴はその上でウォロフを狙って撃とうしている!


「今度は間違えねえ。信じるって事は楽をするって事じゃねえからな!」


自分の目の前に衝撃と共に降り立った俺に、ゴルドールが一瞬目を見開く。


そのマヌケな顔を薄気味悪い笑みに変えて、ゴルドールが叫ぶ。


「ウィンドマジック・トルネード!」


目前で生み出された最悪の一撃を眺めながら、俺もまた一言呟く。


「<抜刀術・一刀召喚>」


左手に出現させた、刃に雷が疾る刀を握りしめ、俺は目の前の脅威を一閃で斬り払った。


一撃で、無に帰した自分の魔法の結果を眺めたゴルドールが呆然と俺を見る。


「無駄だ。もうそんな小細工、俺には通用しねえよ」


そして、俺は踏み込んだ一振りで、ゴルドールの肩から脇腹へ纏う風ごと斬る。


「浅いな。一瞬の隙で決めれなかった君の負けだ」


かすった程度の傷口を目にして、ゴルドールが余裕笑みを溢した。


「誰が一刀しか無いなんて言ったよ!? <二刀召喚>!」


一太刀を振り終わる刹那。空いた右手の手元に現れた柄を握り、二本目の刀を魔方陣から抜刀する。


瞬きの内に同じ軌道で脇腹から肩にかけて、二度目の一閃を斬り上げる!


切り裂いた風の隙間を縫ってゴルドールの身体を二つに分けた斬撃は、背後の壁にゴルドールの身の丈数倍の傷跡を刻み込む。


「終わりだ……風の賢者。ゴルドール・リーマン」


俺は倒れたゴルドールを一瞥して、出番のなくなった二刀の血を振り払って鞘へと還した。

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